AWS Startup ブログ

「Amazon QuickSight は他のサービスとの連携が容易」データの可視化を実現したスタイルポート社のパイプライン構築

企業がサービスを運営する過程で生成される膨大な量のデータ。それらのデータを可視化・分析して事業やサービスの改善につなげることは、テック企業にとって重要なテーマのひとつです。

AWS では、データの可視化・分析に役立つ BI(ビジネスインテリジェンス)サービスとして Amazon QuickSight を提供しています。そして、住空間コミュニケーション・プラットフォーム「ROOV」を開発・提供する株式会社スタイルポートは、Amazon QuickSight を用いて効率的なデータの可視化・分析を実現している企業です。

今回はアマゾン ウェブ サービス ジャパン スタートアップ事業本部 アカウントマネジャーの小林 歩とソリューションアーキテクトの岸田 晃季が、スタイルポート社 CTO の木村 將 氏と Engineering Manager / Principal AI Engineer の橋上 英宜 氏、Web Engineer の永木 雅人 氏、高橋 素己 氏にお話を伺いました。

空間の選択に伴う後悔をゼロにする

小林:スタイルポート社の事業概要について教えてください。

木村:スタイルポートは 2017 年 10 月に創業した、「空間の選択に伴う後悔をゼロにする」というミッションを掲げる企業です。2019 年 2 ⽉から、住空間コミュニケーション・プラットフォーム「ROOV」の提供を開始しました。

住宅販売支援プラットフォーム「ROOV compass」や、新築マンション業界採用実績 No.1 デジタルモデルハウス「ROOV walk」、戸建販売・設計支援ソリューション「ROOV for housing」を通じて、空間理解が必要な購買活動をサポートしています。

引っ越しなど、最適な空間を探して選び、意志決定をする機会は人生のなかでたくさんあります。しかし、専門知識を持たない人が不動産屋で間取り図などの情報を見ただけで、空間を正確に理解することは難しいものです。私たちのサービスの場合は室内空間を 3DCG で表現するため、誰でも簡単に空間の情報を理解できます。

スタイルポート社 CTO 木村 將 氏(写真左)

また、空間の情報をわかりやすく可視化するだけではなく、エンドユーザーがその空間のどの箇所を入念に見ていたかもわかります。これによって、たとえば物件の売主側は「エンドユーザーが物件のどのような点を重視しているか」を把握でき、販売促進に役立てることが可能です。

私たちは「ROOV」を通じて、マンションや戸建ての販売、大規模な商業・物流施設での VR 内覧などの支援を行っています。大手の不動産デベロッパー各社にご導入いただいており、現時点(取材を行った 2023 年 9 月)では新築マンション業界で累計導入数トップのオンライン 3DCG 内覧サービスとして、全国約 100社、累計600 を超える販売現場で採用実績があります。新築マンションの年間建築棟数は約 800〜1,000 と言われています。そのうち、350 ほどの案件で「ROOV」をご利用いただいてる状況です。

橋上:また最近では、デロイト トーマツ グループが発表する⽇本国内のテクノロジー・メディア・通信業界の企業を対象にした収益(売上⾼)に基づく成⻑率のランキング「Technology Fast 50 2022 Japan」にて、6 位を受賞しました。

スタイルポート社 Engineering Manager / Principal AI Engineer 橋上 英宜 氏

Amazon QuickSight を活用したデータパイプラインのアーキテクチャ

岸田:今回のインタビューでは、Amazon QuickSight の活用事例について伺います。どのような用途で Amazon QuickSight を利用されていますか。

アマゾン ウェブ サービス ジャパン スタートアップ事業本部 ソリューションアーキテクト 岸田 晃季

橋上:主にスタイルポートの社員が「ROOV」のユーザーの行動履歴や各種ビジネス KPI の情報を可視化・分析するためのビジュアライズツールとして使っています。スタイルポートではサービス上での行動履歴の情報などを Google Analytics4(以下、GA4)で取得しているのですが、GA4 単体では「サービスのどのユーザーの行動なのか」を把握できません。「ROOV」が持っているユーザー情報と組み合わせて分析をしなければ、うまく価値を創出できないのです。

Amazon QuickSight によって可視化した各種ビジネス KPI

世の中にたくさん BI ツールはありますが、Amazon QuickSight は他のサービスとの連携機能が充実しているため、開発工数を削減できることが大きな魅力です。たとえば私たちのユースケースでは、GA4 の情報とユーザー情報とをひも付けて可視化したい場合は、リレーショナルデータベースとの接続を行う必要があります。そのための機能が Amazon QuickSight にはあらかじめ備わっています。

岸田:Amazon QuickSight 関連のデータパイプラインのアーキテクチャを教えてください。

データパイプラインのアーキテクチャ

永木:ユーザー行動履歴のデータを収集する部分と、Amazon QuickSight 用にデータを集計する部分とに分かれています。前者のデータ収集処理では Amazon AppFlow を用いて GA4 からデータを取得し、それを Amazon S3 上に CSV ファイル形式で出力します。その後、AWS Glue のジョブを用いて「ROOV compass」の Amazon RDS にデータを保存します。

後者のデータ集計処理では、Amazon RDS からデータを取り出して AWS Glue のジョブを用いて集計を行い、Amazon S3 にその結果を出力します。Amazon Athena によって集計後のデータを取得し、その情報を Amazon QuickSight で表示しています。

岸田:こうしたデータパイプラインで、Amazon RDS にいったんデータを格納するのは珍しいユースケースですね。

橋上:「ROOV compass」では、不動産販売員向けにユーザーの行動解析機能を提供しています。そこで、アプリケーション内でもデータを使えるように Amazon RDS にも情報を格納する形式にしました。

小林:もともと、2022 年の夏頃にデータパイプラインの構築方法について御社からご相談いただきましたよね。その際に AWS のソリューションアーキテクトを交えて、GA4 のデータをシームレスに取り込むための方法をディスカッションさせていただきました。その後、AWS re:Invent 2022 で Amazon AppFlow が GA4 に対応することが発表されたので、「この機能を使えば簡単に実現できます」と橋上さんに連絡いたしました。

橋上:あのときはすぐにご連絡をいただいて助かりました。また、今回はデータパイプラインの構築を行ううえで期限が決まっていたため、社内のメンバーに知見があった Amazon S3、AWS Glue、Amazon Athena を用いてアーキテクチャを組む方針を選びました。

小林:Amazon QuickSight を使ったことによる、ポジティブな影響はありましたか。

高橋:Amazon QuickSight の導入前はビジネスサイドから「こういった内容のデータを提供してほしい」とリクエストがあった際には、エンジニアが SQL を実行してデータを取得し、その結果を CSV ファイルで渡していました。ですが、ダッシュボードが社内システムに組み込まれたことで、ビジネスサイドのメンバーが自力でデータを集計できるようになり、エンジニアの負担が大きく減りました。

スタイルポート社 Web Engineer 高橋 素己 氏

永木:今回の事例では、AWS のサポートもかなり有効活用させてもらいました。私は今回のプロジェクトで Amazon AppFlow や AWS Glue などに初めて触れたのですが、何か課題が発生した際には AWS のサポートに問い合わせるとすぐに調査・解決してもらえたので助かりました。

岸田:Amazon AppFlow を用いた GA4 からのデータ取得は、機能がリリースされてからすぐにご対応いただきましたよね。まだ世の中に情報が少ない状態で、サポートに問い合わせてうまく問題を解決してくださったので、AWS のサポートを有効活用していただいていると感じました。

3 つのキーワードを軸にシステムを改善していく

小林:スタイルポート社の今後の目標についてもお話しください。

木村:システムに関連した話をすると大きく分けて 3 つのキーワードがあり、3D 技術の発展と Web のリアルタイム性、そして AI です。まず 3D 技術の発展については、現在の「ROOV」ではまだ、デジタル上でのビジュアライゼーションしか実現できていません。現実世界で撮影した情報を組み合わせるなど、デジタルツインでの 3D 表現を実現したいです。

また、現実世界で起きている事象をリアルタイムでサービスに反映することで、「ROOV」をより利便性の高いものにしたいです。それを実現するには、膨大な量のデータを効率的に処理することが求められます。そして、将来の予測などを実現するには AI の力が必要です。これら 3 つのキーワードを実現するうえで役立つサービスが AWS にはそろっているため、私たちの進みたい方向と非常に親和性が高いと考えています。

橋上:AI 活用という文脈に関連した話として、今回のインタビューの数週間前に Amazon SageMaker 関連の技術イベントに参加しました。「ROOV」に活用できそうな便利な機能を知ることができたので、今後は Amazon SageMaker を使いこなしてサービス改善に結びつけたいです。

岸田:Amazon SageMaker の一機能である Amazon SageMaker Canvas では、ML ベースの予測結果を Amazon QuickSight に連携して簡単に可視化できます。この連携機能について、御社にも以前ご共有させていただきましたよね。それ以外の Amazon SageMaker 活用についても、今後積極的に議論できたらありがたいです。

スタイルポート社 Web Engineer 永木 雅人 氏

永木:システムの目標としては、今回解説したユーザー行動履歴のデータパイプラインについても、さらに改善を続けたいです。

アマゾン ウェブ サービス ジャパン スタートアップ事業本部 アカウントマネジャー 小林 歩

小林:今後はどのようなエンジニアに参画してもらいたいですか。

木村:私たちは AWS でインフラを構築していますので、「AWS が好きなエンジニアであること」が大前提です。それから、当事者意識を強く持っている人。業務で発生するさまざまな課題を自分事と捉えて、解決に向けてやりきる力がある人がいいですね。

課題の分析能力があることも大切です。「そもそも、なぜこの課題が発生しているのか」という大上段から物事を考えて、実現可能な単位まで分割して解決のための筋道を立てられる人が望ましいです。

橋上:スタイルポートには、社員が大事にしている価値観「Our Value」があります。社員はこの価値観に基づいて行動する場面が多いので、これに共感できるメンバーが良いと思います。

・Be Innovative まだ世の中に存在しない新しい価値をつくろう

・All For One チーム力を最大限に発揮して大きな Will にチャレンジしよう

・Play Fair オープンかつ誠実な姿勢で公正をつらぬこう

高橋:メンバー同士で感謝し合えるとか、与えられたことを最後までやりきるといった

要素を持った方と、ぜひ一緒に働きたいですね。

小林:今回は貴重なお話をたくさん伺えました。どうもありがとうございました。