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【開催報告 & 資料公開】 AI/ML@Tokyo #11 AWS の機械学習を使った製造業における業務活用 – Amazon SageMaker

アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 機械学習ソリューションアーキテクトの伊藤です。AWS Japan では、AI/ML 関連情報を発信するイベント「AWS AI/ML@Tokyo」を定期的に開催しています。2021年11月25日にオンラインで開催された AWS AI/ML@Tokyo #11 では、「製造業におけるAI・機械学習の業務活用」というテーマで、株式会社日立製作所の河野氏より「IT機器の性能異常検知における Amazon SageMaker を活用したMLOpsの仕組み」について、日本郵船株式会社の山田氏より「船舶運航データ活用におけるMLシステム運用」について、お話しいただきました。

「機械学習を用いたIT機器の性能異常検知におけるAmazon SageMakerの活用事例」[Slides]

株式会社 日立製作所
研究開発グループ デジタルプラットフォームイノベーションセンタ サービスコンピューティング研究部
河野 泰隆 氏

株式会社日立製作所の河野氏からは、Amazon SageMakerを中心としたAWSの各種サービスを用いて、機械学習モデルの学習とモニタリングを効率的に行う仕組みを開発した事例についてご紹介いただきました。MLを活用してIT運用管理の自動化や自律化を実現するAIOpsによって、作業量削減によるコスト削減が見込めるだけでなく、リアクティブな対応からプロアクティブな対応に変化できるとのことでした。課題として、機械学習モデルの精度はIT機器の使われ方の変化に伴って劣化する可能性があるため、精度維持のためのモニタリングと再学習の仕組みが必要という点を挙げていました。MLOpsにおいて、共通的に必要となる機能については “Undifferentiated Heavy Lifting(差別化に繋がらない重労働)” であり、積極的にクラウドサービスを活用すべき部分であることを説明いただきました。“環境構築の手間をかけたくない”、“面倒を見るのはMLモデルだけで十分、サーバ(インスタンス)の面倒なんて見たくない”、“費用は時間ではなく使った分だけにしたい” などの要望を満たすため、必要となる共通機能が充実しているAWSを選択したとのことでした。
開発したMLOpsのアーキテクチャを、「学習/推論処理のCI/CD」、「性能実測値の閾値超過を契機とする学習実行」、「共通部品」、「精度劣化を契機とする再学習」の4つに分けて説明いただきました。「学習/推論処理のCI/CD」については、Amazon SageMaker Studio のノートブック環境で開発を行い、モデル開発が完了したらノートブックをソフトウェアエンジニアに渡し、本番運用向けコードにリファクタリングをする仕組みをとっているとのことでした。「性能実測値の閾値超過を契機とする学習実行」については、Amazon OpenSearch Service で閾値監視を行い、2段階の閾値を超えたときに機械学習モデルの学習を開始することで、よりリソース効率の高い異常検知を実現する仕組みを説明いただきました。「共通部品」については、AWS Step Functions でパイプラインを構成しており、コンポーネントIDをもとにタスクを制御しているとのことでした。また、学習フェーズでは、Amazon SageMaker Experiments を利用して実験管理を行う仕組みを説明いただきました。推論フェーズでは、SageMaker バッチ変換ジョブを用いて定期的に推論を行っているとのことです。「精度劣化を契機とする再学習」では、正解データの格納をトリガーにして、精度評価とコンセプトドリフトの判定をAWS Lambdaで行い、精度劣化とコンセプトドリフトが検知された場合は再学習を行う仕組みを説明いただきました。

「ドメイン知識とAI(ビッグデータ、機械学習)を融合させた日本郵船のDX活動」[Slides]

日本郵船株式会社
海務グループ ビッグデータ活用チーム チーム長
山田 省吾 氏

日本郵船株式会社の山田氏からは、船舶のIoTデータ活用事例についてご紹介いただきました。SIMS(Ship Information Management System)というデータ収集装置を通して洋上から陸上に航海系データやエンジン系データなどを送信し、LiVEという独自開発のダッシュボードで約200隻の船をモニタリングされているという仕組みをご紹介いただきました。LiVEを導入することで、船舶の異常を早期に検知できるようになったとのことでした。一方で、人による監視は検知の遅れや見逃しが発生してしまうという課題があり、機械学習を利用することで24時間監視に取り組んでいるとのことです。実際のエンジン構造や、排気ガス温度や給気温度などのセンサー項目との関係性や、異常が発生したときにエンジンがどのような状態だったかなどを写真とともにご説明いただきました。“Digital技術の活用で世界の物流を途切らせないESG経営への貢献” をスローガンに、効率的な一極管理を目指しているとのことです。異常検知システムにはAIと人がそれぞれの得意分野を分担する “Expert-in-the-Loop” という仕組みを導入し、早期発見と高い精度を実現しているとご説明いただきました。AIの検知結果をExpertが確認することで、Expertからのコメントや過去事例などの付加情報を得ることができ、早期対応に役立っているとのことでした。早期発見することで、結果的にコストも削減できているとのことでした。
異常検知システムのアーキテクチャについては、船舶IoTデータを Amazon Redshift に格納し、Amazon Elastic Compute Cloud (Amazon EC2) 上で機械学習モデルの学習と推論を行い、Amazon API Gatewayを通してダッシュボードと連携しているという仕組みを説明いただきました。現状のアーキテクチャの課題として、「モデル反映が手作業で時間がかかる」、「データ連携がシームレスではない」、「モデル作成が属人化している」の3つを挙げられていました。SageMakerを活用したMLOpsの概念を取り入れて、これらの課題解決に取り組まれており、検討しているアーキテクチャのご紹介をしていただきました。AWS CodePipeline や SageMaker Model Registry 、SageMaker Studio を活用することで、効率的でスケーラブルな運用、機械学習モデル開発の標準化と民主化を実現していきたいとのことでした。
最後に、海事産業におけるデジタルトランスフォーメーションとして、データ活用のもとになる計測センサーの発展の重要性や、現場のユーザー知見と視点をデジタルと組み合わせることで価値を生み出すということ、業界のビジネス知識に基づいて課題を特定した上で、必要なデータ、技術、インフラを整える重要性、標準化やオープンプラットフォーム化により海運業界にも新サービスが創出できる可能性についてお話をいただきました。

まとめ

今回は製造業におけるAI・機械学習の業務活用というテーマで、AWS のサービスを使って機械学習を実ビジネスで活用するための取り組みについてご紹介していただきました。AWSのサービスをビジネス課題に応じて適切に組み合わせて、課題解決に取り組まれており、非常に学びの多いイベントとなりました。
2019年に開催した「Amazon SageMaker事例祭り」、2020年からスタートした「AWS AI/ML@Tokyo」の開催報告と登壇スライドは、以下のリンクからご覧いただけます。
AWS AI/ML@Tokyo 開催報告まとめ

また、2022年2月24日(木)にオンラインで開催される AWS Innovate – AI/ML Edition では、データサイエンティスト、エンジニア、ビジネスリーダーなど様々な役割に応じた15以上のAI/機械学習セッションや、招待講演を発信いたします。ぜひご参加ください。
AWS Innovate – AI/ML Edition