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AWSが支えるCOVID-19との闘い④──宮田裕章教授が語る「データ駆動型社会」という未来 ―「誰一人取りこぼさない」を実現するためのAWSの役割とは?

これまで本連載では、ビッグデータを活用した感染防止プロジェクトの目的や、主に慶應義塾大学の研究室において、どのような課題を解決しながらデータ分析をしてきたかなど、実際の担当者の方々にお聞かせいただきました。シリーズ最後の第4回では、今一度プロジェクトを発案された宮田裕章教授にご登場いただき、プロジェクト全体の成果、そして教授が描く今後のデータ駆動型社会のビジョンについてお話いただきます。今回も前回に引き続き、当社執行役員の宇佐見 潮がお話を伺いました。

ビッグデータ活用が新型コロナ第二波の抑制に貢献

神奈川県が開設する「新型コロナ対策パーソナルサポート(行政)」は、県民が自らの体調や症状に応じ感染症に関わる情報を入手するサービスとして、現在も広く活用されています。その上で、同県では得られた情報分析の結果を、県内の感染状況の把握や対策の立案に活かしました。そもそも「EBPM(証拠に基づく政策立案)」を目指してスタートしたプロジェクトです。当然、宮田教授は集めたデータがどれだけ判断の基となることができたかにこだわりました。

「実際、PCR検査で陽性判定を受けた人の情報と、パーソナルサポートにより得られた情報の分析結果を突き合わせてみると、データの精度は一定のレベルに達しており、感染者の現状を推計できることが確認できました」と宮田教授は一定の評価を下しています。

それだけに神奈川県のアプローチは、全国の各自治体でも大きな注目を浴び、最終的に同様のサービスを提供する自治体は33都道府県にのぼりました。宮田教授は、「まだまだ収束の見通しはなく、コロナ対策においては全く油断できる段階ではない」とするものの、次のように意義も感じているといいます。

「パーソナルサポートやその後の全国調査を通じたデータ収集・分析によって、多くの方にデータ活用の重要性を伝えることができました。感染リスクの高いエリアや業態などの情報を踏まえ、リスクマネジメントの取り組みが各所で行われました。これは今後の命と経済を両立させる取り組みを行う上でも重要な情報です」(宮田教授)

社会にあるさまざまなデータの適切な整備が急務

このようにプロジェトの意義を語った宮田教授ですが、もちろんまだやるべきことは多々残されているといいます。今回まさにリアルタイムに統計を分析していくというこれまでにない取り組みでしたので、AWSとしても基本的なところでデータが標準化されていない点では苦労をしました。今後、相互運用可能なシステムの構築や、活用可能なデータの共有方法を社会全体で考えていく必要があると思います。宮田教授も、リアルタイムでデータに価値を持たせることができれば、さまざまな社会課題解決の糸口になると次のように語られています。

「象徴的なのは商品の在庫管理です。今回、いくつかの商品に関しては不安から起こる買い占めがおこり、必要な人が入手できなくなりました。特に2月、3月のトイレットペーパーにおいては実は総体としては広く行きわたる量がメーカーから供給されているにもかかわらず、消費の偏りによって不足が生じました。マスクにおいても同様で、在庫をデータでリアルタイムに管理できれば、例えばエッセンシャルワーカーやハイリスク者には1ヵ月分在庫を保証し、一般の人々には1週間保証するなど、個別最適で必要な人に届けることができます。データを適切に使えないことで、総量としての資源が同じ量でも、満足度が大きく異なってきます」(宮田教授)

先ごろ発足した菅義偉内閣では、その目玉政策としてデジタル庁を新たに創設しました。今回のようなパンデミック対策に限らず、防災や安全保障など行政上のさまざまな観点から、国として社会にある多種多様なデータを適切に整備し活用していくことが望まれます。

また、宮田教授は、今後急務となるのが、人々の国境をまたがる移動の円滑化だと指摘します。これについては、世界経済フォーラムとの連携のなかで設立された非営利組織「コモンズ・プロジェクト」が今まさに取り組みを進めているところです。宮田教授もグローバル評議員、日本代表として参画されています。

「コモンズ・プロジェクトで今進めているのが、渡航者の健康状態が受入国の入国基準を満たしているかをいかに証明できるかです。PCR検査あるいは将来的にはワクチン接種歴などを含む履歴をデジタル証明するための仕組の整備に取り組んでいます。先行きは不透明であるとはいえ次期オリンピック開催の当事国である日本にとっては、特に緊急性をもって推進すべきテーマだといえます」(宮田教授)

感染症の早期収束が期待できない中では、ロックダウンではなく、経済を動かしながら感染リスクを抑えるためにも「データ活用が必須」と宮田教授は訴え、「これからはデータ駆動型社会になる」とビジョンを明示します。

「最大“多様”の最大幸福」へのパラダイムシフト

では、「データ駆動型社会」になると、どのように世の中は変わっていくのでしょうか?宮田教授は、それは、産業革命以来その役割を担ってきた「石油」から「データ」へとシフトしていくことであり、つまりは「所有」から「共有」へと価値観がドラスティックに変化していることを指摘します。

「石油は使用すると価値を消失する『消費財』であり、排他的に『所有』される資源でるため、企業や国家による争奪戦の対象となってきました。これに対しデータは使用しても消費されることはなく、より多くの量が蓄積されればそれだけ、多様かつ高度な価値を生み出せるのです。つまり、特定の国や企業の所有に帰することなく、広く社会の『共有財』として活かしていくことができるという側面もあります。大きく社会の価値を変えていくのです」と宮田教授は語ります。

例えば、今回のコロナ禍にあって、国では各世帯に10万円×世帯人数の定額給付金を支給しましたが、世帯ごとに経済格差もあれば、新型コロナによって受けた経済的ダメージの大きさもそれぞれに異なります。にもかかわらず、世帯一人あたり一律の金額を支給することが、果たして公正といえるのかという指摘もあります。こうした局面でも、データを活用すれば新たなアプローチを提案することが可能になると宮田教授はいいます。

「これまでの行政サービスを含む社会システムは、人々の平均像を想定した『最大多数の最大幸福』という理念の上に成り立ってきました。これに対し、一人ひとりにかかわるさまざまなデータを収集し、AIなどの技術を使って分析を行えば、多様性を重んじながら誰一人取りこぼさない『最大“多様”の最大幸福』のシステムに変えていくことが可能になるはずです。そして、そのために必要なシステム的な基盤は、AWSをはじめとして、すでに整っているといってよいでしょう」(宮田教授)

データ駆動型の社会を目指す中で我々は、石油など所有物を奪い合うというかつてのシステムから脱却し、相互信頼に基づいてデータを共有して、価値の共創を図っていくというマインドセットへとシフトしていく必要があります。こうした点では、時代の先端をいくグローバル企業がこぞって、社会貢献をビジネスの軸に据えることを表明しているという事実とも符号するわけです。これに関し、今年、米国シアトルにあるAWS本社を訪れた宮田教授からは次のようなコメントを頂戴しています。

「シアトルの本社では、ヘルスケア、ライフサイエンス領域のリーダーの方々とお話しする機会をいただきましたが、その中で“最もお客様を大切にする企業”であると同時に、業界全体で一緒に成長しようという意思を強く感じました。日本のAWSの方々が良い方でニュートラルかつフェアなのかと思っていたのですが、本社に伺ってコーポレートポリシーとして根づいているものだと実感しました。これからの時代、“所有”から“共有”に価値が動く中で“ニュートラル”であることは非常に重要なこと。まさに時代の先端をAWSは歩んでおり、データ駆動型社会を実現するサポートを期待しています」(宮田教授)

これまで、宮田先生との対談を通じて「新型コロナ対策パーソナルサポートへの取組み」、「データが共有される社会ではどのような価値観の転換がおきるのか」などをご紹介してまいりました。また、番外編としてLINEとAWSでの協業プロジェクトをご紹介いたしました。これからもAWSはテクノロジーを通じて、社会課題の解決に貢献してまいります。

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このブログは、 慶應義塾大学医学部医療政策・管理学教室 教授 宮田裕章氏へのインタビューを、アマゾン ウェブ サービス ジャパン株式会社 執行役員 パブリックセクター 統括本部長の宇佐見 潮が取材・執筆を担当しました。

今後とも日本の公共部門ブログ(日本語)やウェブサイト、又AWS 公共部門ブログ(英語版)等 AWS の最新ニュース・公共事例をぜひご覧いただき、デジタル化の推進にお役立ち頂ければ幸いです。

AWSが支えるCOVID-19との闘い ブログシリーズ

①LINEパーソナルサポートプロジェクトは、なぜAWSクラウドでなければならなかったのか?
発案者・宮田裕章教授に訊くAWSの魅力

https://aws.amazon.com/jp/blogs/news/covid-19_response1_profmiyata/

②科学的知見を社会に発信ープロジェクト分析リーダ・慶應義塾大学 野村准教授に訊く舞台の裏側

https://aws.amazon.com/jp/blogs/news/covid-19_response2_profnomura/

③刻々と変わる可視化ニーズをAWSクラウドでどう実現したか?― IQVIAジャパンに訊くELT処理・BIダッシュボードの実装・運用

https://aws.amazon.com/jp/blogs/news/covid-19_response3_iqvia/

④宮田裕章教授が語る「データ駆動型社会」という未来―「誰一人取りこぼさない」を実現するためのAWSの役割とは?

https://aws.amazon.com/jp/blogs/news/covid-19_response4_profmiyata/

番外編 AWSとLINEが推進する3つのDX支援~企業のDX、自治体のスマートシティ、医療ICTの社会実装~

https://aws.amazon.com/jp/blogs/news/covid-19_responseextra_line/

公共機関における AWS 導入のためのお役立ちサイト

https://aws.amazon.com/jp/government-education/worldwide/japan/