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AWS HealthImagingと SageMaker による医用画像ワークフローの改善
この記事は、“Improving medical imaging workflows with AWS HealthImaging and SageMaker” を翻訳したものです。
医用画像は、医療における患者の診断と治療計画において重要な役割を果たします。しかし、医療提供者は、医用画像の管理、保存、分析に関していくつかの課題に直面しています。このプロセスには時間がかかり、エラーが発生しやすく、コストがかかる可能性があります。
また、地域や医療制度全体では放射線科医が不足しており、人口の高齢化、画像技術の進歩、医療における画像診断の重要性の増大により、この専門分野の需要が高まっています。
画像検査の需要が高まり続ける中、対応できる放射線科医の数が限られているため、検査予約や適切な診断が遅れています。テクノロジーによって臨床医と患者への医療提供の改善が可能になる一方で、病院は最も差し迫った課題を解決するために次のような追加のツールを求めています。
- 画像検査および診断サービスに対する需要の高まりによる専門家の燃え尽き症候群
- 体積測定や画像の構造的セグメンテーションなど、手間のかかる作業
- 利便性、使いやすさ、個別化の観点から、小売やテクノロジーに匹敵する質の高い医療体験を期待する患者からの期待の高まり
臨床医と患者の体験を向上させるには、人工知能(AI)対応の画像診断クラウドソリューションでPicture Archiving and Communication System(PACS: 医用画像サーバー)を運用して、重要な知見を安全に取得し、医療へのアクセスを改善してください。
AIは自動化により放射線科医の燃え尽き症候群を低減するのに役立ちます。たとえば、AIは放射線科医の胸部X線画像の診断時間を節約します。また、精密検査が必要な領域を特定するための強力なツールでもあり、当初は特定できなかった二次的な発見も得るのに役立ちます。相互運用性と分析の進歩により、放射線科医は患者の健康記録を360度縦断的に把握できるようになり、より低コストでより良い医療を提供できるようになりました。
AWS は、これらの課題に対処するサービスを提供しています。このブログ記事では、 AWS HealthImaging (AWS AHI) と Amazon SageMaker 、およびこれらを併用して医療提供者の医用画像ワークフローを改善する方法について説明します。これにより、最終的に画像診断が加速し、放射線医学の生産性が向上します。AWS AHI を使用すると、開発者はクラウドネイティブな医用画像アプリケーションにパフォーマンス、セキュリティ、およびスケールを提供できます。これにより、Digital Imaging and Communication in Medicine (DICOM) 画像を取り込むことができます。Amazon SageMaker は AI と機械学習のためのエンドツーエンドのソリューションを提供します。
自動車事故後のX線に関する使用例を見てみましょう。この医用画像診断ワークフローでは、患者は救急室にいます。そこから:
- 患者は骨折の有無を確認するためにX線撮影を受けます。
- スキャンされた撮影装置の画像はPACSシステムに送られます。
- 放射線科医は、この検査で取得した情報を確認し、レポートを作成します。
- 依頼医にレポートが提供されるまで、患者のワークフローは継続されます。
次世代の画像処理ソリューションとワークフロー
医療提供者は AWS AHI と Amazon SageMaker を併用することで、次世代の画像診断ソリューションを実現し、医用画像診断ワークフローを改善できます。次のアーキテクチャは、この例を示しています。
アーキテクチャと主要なコンポーネントを見てみましょう。
1. イメージスキャナー:患者の体から画像をキャプチャします。モダリティによっては、X線検出器、CTスキャナーの検出器アレイ、MRIスキャナーの磁場と高周波コイル、または超音波センサーなどがあります。この例では X 線デバイスを使用しています。
- AWS IoT Greengrass : DICOM C-Store SCP で設定されたエッジランタイムとクラウドサービスで、画像を受信して Amazon Simple Storage Service (Amazon S3 ) に送信します。画像と関連するメタデータは、それぞれ Amazon S3 と Amazon Simple Queue Service (Amazon SQS) に送信され、ワークフローがトリガーされます。
2. Amazon SQS メッセージキュー:S3 バケットからのイベントを受信し、 AWS Step Functions ワークフローオーケストレーションをトリガーします。
3. AWS Step Functions は変換ジョブとインポートジョブを実行して画像を処理し、AWS AHI データストアインスタンスにインポートします。
4. 最終的な診断画像は、関連する患者情報およびメタデータとともに、AWS AHI データストアに保存されます。これにより、画像データの検索と管理を効率的に行うことができます。また、クラウドネイティブ API と AWS パートナーのアプリケーションにより、医用画像データへのアクセスも可能になり、1 秒未満の大規模な画像取得レイテンシーを実現できます。
5. ML 画像のラベリングを担当する放射線科医は、 Amazon SageMaker Ground Truthを使用して医用画像にアノテーションを付けます。カスタムデータラベリングワークフロー(組み込みまたはカスタムのデータラベリングワークフローをサポートするフルマネージドデータラベリングサービス)を使用して DICOM 画像を視覚化およびラベル付けします。また、 3D Slicerなどのツールを活用して、インタラクティブな医用画像にアノテーションを付けています。
6. データサイエンティストは、Amazon SageMaker のアノテーション付き画像を使用して、組み込みのディープラーニングモデルを構築または活用します。SageMaker には、低レイテンシーや高スループットから長時間実行される推論ジョブまで、さまざまな展開オプションが用意されています。これらのオプションには、バッチ、リアルタイム、またはニアリアルタイムの推論に関する考慮事項が含まれます。
7. 医療提供者は AWS AHI と Amazon SageMaker を使用して、AI を活用した検出と解釈のワークフローを実行しています。このワークフローを使用して、見えにくい骨折、脱臼、軟部組織損傷を特定し、外科医や放射線科医が自信を持って治療を選択できるようになります。
8. 最後に、AWS AHI に保存された画像はモニターやその他の視覚出力デバイスに表示され、放射線科医やその他の医療専門家が分析および解釈できます。
Open Health Imaging Foundation(OHIF)ビューアーは、オープンソースのウェブベースの医用画像プラットフォームです。複雑な画像処理アプリケーションを構築するためのコアフレームワークを提供します。
Radical Imaging と Arterys は、OHIF ベースの医用画像ビューアを提供する AWS パートナーです。
これらの各コンポーネントは、医用画像システムの全体的な性能と精度だけでなく、診断結果と患者ケアの向上に焦点を当てた継続的な研究開発においても重要な役割を果たします。AWS AHI は、効率的なメタデータエンコーディング、可逆圧縮、プログレッシブ解像度データアクセスを使用して、業界トップクラスのパフォーマンスを画像読み込みで提供します。効率的なメタデータのエンコーディングにより、画像ビューアと AI アルゴリズムは、画像データを読み込まずに DICOM 検査の内容を理解できます。
セキュリティ
AWS の責任共有モデルは、AWS AHI と Amazon SageMaker におけるデータ保護に適用されます。
Amazon SageMaker は HIPAA の対象であり、保護対象保健情報 (PHI) を含むデータを扱うことができます。転送中のデータの暗号化は SSL/TLS によって提供され、Amazon SageMaker のフロントエンドインターフェイス (ノートブック) との通信時と Amazon SageMaker が他の AWS サービスとやり取りする場合の両方に使用されます。
AWS AHI は HIPAA 適格のサービスでもあり、メタデータレベルでのアクセス制御が可能なため、各ユーザーとアプリケーションには、それぞれのロールに基づいて必要な画像とメタデータフィールドのみが表示されます。これにより、患者のPHIの増加が防止されます。AWS AHI API へのすべてのアクセスは、 AWS CloudTrail に詳細に記録されます。
これらのサービスはどちらも AWS Key Management Service (AWS KMS) を活用して、PHI データを保存時に暗号化するという要件を満たします。
まとめ
この投稿では、症状の早期発見と治療のための一般的な使用例を概説し、その結果、患者の治療成績が向上しました。また、テクノロジーの力を活用して医用画像の精度、効率、アクセス性を向上させることで、放射線医学分野を変革できるアーキテクチャについても取り上げました。
参考文献
- AWS HealthImaging Partners
- AWS features AWS HealthImaging at RSNA22
- Annotate DICOM images and build an ML model using the MONAI framework on Amazon SageMaker
- MLOps deployment best practices for real-time inference model serving endpoints with Amazon SageMaker
翻訳は Solutions Architect 窪田が担当しました。原文はこちらです。