Amazon Web Services ブログ

自動車業界向け AWS re:Invent 2023 のダイジェスト

強烈なインパクトを残したイベント Amazon Web Services (AWS) re:Invent 2023 を振り返ってみると、今年の会議がネバダ州ラスベガスで開催されたことは、自動車および製造業界にとっては特に革新と先進思考の中心であったことが明らかです。このダイジェストでは、イベント中に発表された豊富な情報と発表を詳細に確認しつつ、特に自動車産業を前進させることができるコンテンツについて整理しています。 AWS の自動車および製造業界ビジネスユニット (IBU) チームの洞察に富んだブレイクアウトセッションから、ワークショップやチョークトークで実証された実用的なアプリケーションに至るまで、 re:Invent 2023 で提供されたリソースは、自動車分野の進化する課題に対処するためのものです。このダイジェストは、業界が安全で持続可能でお客様中心のモビリティの未来に向かって加速するために、変革のナビゲートについて考え、今後お客様にとっての優れたモビリティ体験を保証します。

AWS では、独自のコラボレーションとイノベーションを通じて、持続可能で安全なモビリティ、製品、サービス、ソリューションの提供を加速し、お客様が変革の課題を解決するのを支援することに尽力しています。 AWS 内の自動車および製造業界ビジネスユニット (IBU) は、複数の大手 OEM 、 Tier1 、お客様、パートナーと協力し、 8 つの戦略的ワークロードに焦点を当てています。このブログ投稿では、 re:Invent で発表された自動車および製造業界に関連する発表を 8 つの戦略的ワークロードに分けて紹介しています。各セクションの中で re:Invent セッションで録画があった場合はそのリンクを記しています。

ソフトウェア定義車両 (SDV)

ソフトウェア定義車両 (SDV) の分野は、車両のソフトウェアを再構築し新しいモビリティソリューションに不可欠なサービスへのアクセス、理解、使用、更新を改善するユースケースに触れています。 AWS の次世代クラウドファーストのインテリジェントなコードパイプラインに対するビジョンを概観する AUT102 ブレイクアウトセッションでは、 Traton と Volvo が製品化までの時間を短縮し、車両からクラウドへの連続性を維持することで開発コストを削減している方法について学ぶことができました。この連続性は、異なるコンテキストに車両の機能を分割し、開発ワークフロー内で Amazon Elastic Cloud Compute (Amazon EC2) インスタンス用の BlackBerry QNX AMI を利用しています。これらの革新により、チームはバグを早期に特定し、コード品質を向上させ、ハードウェア・イン・ザ・ループ (HIL) システムへの依存を減らすことができます。これは業界におけるシフトレフトアプローチへの証です。

チョークトークセッション AUT203 では、クラウドネイティブなツールと仮想化されたターゲットを使用した加速とスケールアップについて、車両へのデプロイ前にクラウドでコードを構築しテストするための、 SDV アーキテクチャ向けの最新クラウドネイティブ革新が紹介されました。ディスカッションの焦点は、仮想エンジニアリングワークベンチ、仮想電子制御ユニット、 CI/CD パイプラインであり、 Amazon CodeWhisperer を使用した生成型人工知能(生成 AI )が生産性向上にどのように役立てられるかを示すユースケースについて深く掘り下げました。オリジナル機器メーカー (OEM) と様々な階層のサプライヤーは、 SDV の現在の採用状況を議論し、チョークトーク中に今後の取り組みを概説しました。

AUT301 ワークショップ「 Automotive software development with Virtual Engineering Workbench (VEW) 」には、 100 人以上の開発者とアーキテクトが参加しました。このワークショップでは、 AWS 上で車載グレード評価機能を構築しテストする方法を実演しました。参加者が事前に設定された AUTOSAR&QNX ランタイム環境を作成し、 AWS Service Catalog に公開しました。 VEW セルフサービスポータルから、ユーザーは事前に設定された AUTOSAR & QNX 環境を選択し、ログインしてデモ車両機能アプリケーションを開発しました。参加者はその後、仮想ターゲット(仮想 ECU )上で車両アプリケーションを統合・実行し、 Amazon EC2 インスタンス上で機能を検証しテストしました。さらに、 VEW のエンドツーエンドのビジョンについて議論し、 OEM の特定の要件とワークフローに合わせて拡張・カスタマイズする方法を提供しました。

ライトニングトーク AUT103 「 Accelerate automotive cockpit development with Panasonic SkipGen on AWS 」では、 Panasonic SkipGen on AWS Graviton が自動車コックピットドメインコントローラーの開発を革命的に進化させる方法について深掘りしました。これにより SkipGen は業界に変革をもたらし、 AWS 上で完全な現代のコックピットソフトウェア開発、コンピューティングオフロードおよび 大規模なテストを可能にしました。

AWS は、クラウドネイティブな Software Developer Workbench がどのように拡張し、 SDV 時代の車両ソフトウェア開発を加速しているかについてのデモを示しました。自動車業界のパビリオンでの体験では、 BMW i7 車両の開発に関する情報を含む 8 つのデモを AWS が展示しました。

自動運転モビリティ

自動運転モビリティ分野では、 AWS は Amazon が長年にわたり自律システム、ロボティクス、機械学習において蓄積した経験を活用し、自動運転車の開発を加速していることについて触れました。

ブレイクアウトセッション AUT202 では、 BMWQualcomm と協力してクラウド上で次世代の高度自動運転開発プラットフォームを開発する方法についての事例が講演されました。

ブレイクアウトセッション AUT206 では、 Torc Robotics が AWS 上でデジタルテストプラットフォームを作成し、シミュレーションで何百万マイルものテストを実行し、レベル 4 の自動運転機能のテストカバレッジを最大化する方法について掘り下げられました。このセッションでは、 AWS の管理サービスを使用してプラットフォームを設定する方法について話されました。講演者は、 Amazon Managed Workflows for Apache Airflow (Amazon MWAA), Amazon Elastic Kubernetes Service (Amazon EKS), Amazon Simple Storage Service (Amazon S3) を使用してプラットフォームを設定する方法、直面した技術的な課題、学んだ教訓、および実装されたソリューションの結果としての利点について詳しく説明しました。

次世代トラッキングに関するブレイクアウトセッション PRO301 では、「 Iveco が AWS を使用して自動運転のための生成 AI を活用し、安全性と効率性の新たな高みを実現する方法」について紹介しました。このビジョンを実現するため、 Iveco は AWS 上で構築された生成 AI 技術を利用して、ドライバーと車両の関係を再定義しています。 AWS プロフェッショナルサービスの協力のもと、 Iveco はプライバシーに準拠したフリートデータにカスタマイズされた生成モデルをトレーニングし、ドライバー体験を向上させています。

チョークトークセッション AUT302 では、自動運転開発における生成 AI と自然言語処理 (NLP) に基づくシーン検索に焦点を当てました。このディスカッションでは、自動運転機能の開発において直面する最も重要な課題について詳しく議論しました。ペタバイト規模のデータから、トレーニングやテストに関連するシーンを特定するために、生成 AI を使用する方法についてのインサイトが説明されました。またこのチョークトークでは、参加者は生成 AI がシーン選択を加速し、低頻度なイベントや意味的に類似したシーンを特定する方法を学びました。これらは、 ML トレーニング、テスト、検証などの下流タスクで使用されます。

ビルダーセッション AUT303 では、 ADDF ソリューションにおいて、モデルトレーニングのためのシナリオ内にオブジェクトを追加するために生成AIを使用しました。自動車メーカーは通常、自動運転や高度自動運転機能の開発のために車両テストフリートから何百ペタバイトものドライブデータを収集しますが、 ML エンジニアがコーナーケースに対してモデルをトレーニングするために必要になる正確なシナリオを記録していないことがあります。このビルダーセッションでは、生成 AI を使用して、停止標識などのイメージやオブジェクトを既存のシーンに追加する方法を実演しました。

デモブースでは、 お客様がクラウドで高度に自動化された運転機能を開発する際にサポートするための様々なツールを展示しました。他にもデータの取り込み、データの前処理、シーン生成、シーン検索、大規模な再シミュレーションのサポートに使用される AWS サービスが紹介されました。

接続モビリティ

接続モビリティ分野では、 AWS のお客様は、データの力を活用して、インテリジェントでパーソナライズされた機能や収益を生み出すモビリティサービスを構築しています。 AWS IoT FleetWise チームは、車両ビジョンシステムデータの収集をサポートすることを発表し、お客様がカメラ、 LiDAR 、 Radar などのビジョンサブシステムからメタデータ、オブジェクトリストと検出データ、画像やビデオを収集できるようにしました。

特に好評だったブレイクアウトセッション ALX201 は、車内ボイスエクスペリエンスをコンセプトから現実に変えることに焦点を当てました。参加者は、 BMW が独自の次世代 AI ボイスアシスタントを構築し、車内ボイスエクスペリエンスを新たな高みに引き上げる方法を学びました。インターネット接続に関係なく、埋め込み型ニューラルテキストトゥスピーチ SDK を展開することで、 BMW のクラウド環境を強化し、お客様に途切れのない自然なボイスエクスペリエンスを提供したことについて学びました。

別のブレイクアウトセッション IOT 204 では、 AWS IoT Connected Vehicle (CV) プラットフォームを使用した接続車両プラットフォームの革新と近代化について掘り下げました。このセッションでは、 AI による保証と修理通知、ライブビデオストリーミングと再生、 EV バッテリーの健康監視などの革新的なアプリケーションの可能性を強調しました。American Honda Motor Company は、 AWS IoT Core への移行についてを共有し将来の革新に向けた計画を概説しました。

ANT 317 セッション「電気自動車からのリアルタイムアナリティクス構築」では、 Rivian が AWS 上での接続モビリティユースケースを共有しました。 Rivian の車両データプラットフォームは、デジタルコマース、保険、先進運転支援システム、車両の信頼性、スマート診断、充電、車両サービスなど、様々なドメインをサポートする基盤サービスとして機能しています。

ブレイクアウトセッション IOT 309 「 AWS IoT Core を使用してアプリケーションを革新する – MQTT 5 」では、 MQTT 5 の概要を説明した後、接続された車両のユースケースを探求しました。参加者は、 MQTT のパブリッシュおよびサブスクライブメッセージ機能を使用して、潜在的に断続的なネットワーク接続で通信する方法を学びました。またライブデモでは、共有サブスクリプションを使用してフリートとアプリケーションをスケールする方法を紹介しました。

デモエリアでは AWS Connected Mobility Solution 2.0 (CMS) を展示しており、大規模な接続モビリティインフラの開発、展開、管理がどのように容易になるかについて触れていました。

デジタルカスタマーエンゲージメント

デジタルカスタマーエンゲージメント (DCE) の分野では、 AWS はお客様がパーソナライズされたマーケティングコンテンツ、没入型デジタル体験、リアルタイムデータ分析を通じてお客様エンゲージメントを増加させるのを支援しています。これには、広告、ファイナンス、アフターサービス、リピート購入体験など、所有のライフサイクル全体とお客様の旅にわたる様々な側面が含まれます。

AIM 206 ブレイクアウトセッション「 Generative AI で価値とビジネス成果を実現する」では、 AI と人間の心の融合、技術進歩によって駆動される急激なイノベーションについて発表しました。このセッションでは、 FerrariDXC Technology と AWS と共に生成 AI を探求している方法、生成 AI の導入における主な障害、メインストリームの導入に焦点を当てるべき分野、内部および外部の消費者の両方に対する価値ストリームマッピングを構築する方法を学びました。

チョークトークセッション AUT 204 「 Generative AI で未来へと進む」では、 AWS Generative AI Innovation Center の専門家によって提示されたように、 Amazon Bedrock と Amazon CodeWhisperer がプレセールスからポストセールスまでのお客様旅行全体のデジタル体験を強化するためにどのように採用されているかについて議論しました。

デモエリアでは、コールセンターから予測保守に至るまで生成 AI がデジタルお客様体験をどのように強化しているかが披露されました。

製造

製造業界では、 AWS はショップフロアからのデータをキャプチャ、分析、視覚化することにより、製造業務と全体的な設備効率を最適化しています。 AIM 216 ブレイクアウトセッション「大規模な予測保守」では、 Amazon Monitron を用いた Koch Ag & Energy Solutions (KAES) のジャーニーが共有されました。予期しない機器の故障は産業施設にとってコストがかかる一方、保守を頻繁にスケジュールすることは資源の無駄遣いです。このセッションでは、 Koch AG から、彼らが Amazon Monitron を活用して産業用機械に予測保守を実装する方法について聞くことができました。

チョークトークセッション AIM240 「 Amazon Q で従業員に生成 AI の力を提供する」では、 Amazon Q が従業員に生成 AI の力への安全かつ迅速なアクセスを提供する方法を実演しました。 Amazon Q は自然言語を理解し、接続されたデータソースを使用して文脈に沿った回答を提供し、ドキュメントを要約し、コンテンツを生成し、企業アプリケーションやドキュメントリポジトリ全体でアクションを自動化することができます。これはショップフロアアプリケーションでの作業者ガイダンスの実装に特に有用です。

サプライチェーン

AWS は、 re:Invent 2022 で AWS Supply Chain サービスを発表しました。このサービスは、機械学習 (ML) を活用したサプライチェーンアプリケーションによりリスクを軽減し、コストを削減します。お客様は、生産プロセス全体を追跡し追跡するために必要なエンドツーエンドのサプライチェーンの可視性を得ることができ、前例のない効率性を実現します。 AUT207-INT インダストリアルイノベーションセッションでは、自動車、航空宇宙、消費者電子機器を含むさまざまな産業分野のクラウドインダストリアル企業が、ビジネスを再創造し、運用を最適化し、市場投入までの時間を短縮し、新しい収益ストリームを生成するために、データとクラウドテクノロジーをどのように活用しているかが紹介されました。 Siemens 社は、 AWS を活用した Xcelerator インダストリアルソフトウェアポートフォリオや新しい工場自動化の提供を行い、Industrial Metaverse 内で仮想工場を構築した方法について発表しました。 Honda は、日本と北米で AWS との協業について議論しつつ製品開発、サプライチェーン、製造全体での革新を加速する計画を語りました。

製品エンジニアリング

AWS は、製品開発者やエンジニアが AWS 上のハイパフォーマンスコンピューティング (HPC) 、モデルベースの設計、大規模並列シミュレーションを使用して複雑な問題を解決することを支援しています。 MFG 106 ブレイクアウトセッションでは、トヨタモーターノースアメリカAutodesk の登壇者が、人工知能がどのように計算集約的なシミュレーションとモデリングを迅速化し、製品設計とデジタルエンジニアリングを加速させ、最終的に市場投入までの時間を短縮するかについて議論しました。

持続可能性と EV (電気自動車)

電気自動車 (EV) では、バッテリーが持続可能性とコストにおける最大の要因です。チョークトークセッション AUT 201 「バッテリーデジタルツインの力を解き放つ」では、物理的なバッテリーシステムの仮想表現であるバッテリーデジタルツインモデルが紹介されました。このセッションでは、 MahindraOur Next Energy がリアルタイムの車両バッテリーデータを機械学習アルゴリズムやデータ分析と組み合わせて、バッテリー性能の最適化、バッテリー寿命の延長、故障の検出、安全性の向上を図る方法を追求しました。

ワークショップ IOT 305 「 AWS IoT を使用した EV バッテリーの異常検出」では、電気自動車 (EV) バッテリーの異常を早期に検出するソリューションがデモンストレーションされ、参加者は車両のフリートの管理、プロビジョニング認証、車両モデリング、キャンペーン作成、データの取り込み、および洞察のためのダッシュボードの設定において実践的体験ができました。

デモエリアでは、 お客様が AWS 上で高度にスケーラブルで低遅延の OCPP EV 充電 CPO ソリューションを構築するのに AWS のサービスがどのように使用されているかを示しました。別のデモでは、 AWS がバッテリーサーキュラーエコノミー内のステークホルダー間の透明性と信頼性にどのように貢献しているかを示しました。さらに、 AWS はバッテリーデジタルツインを使用してバッテリー性能の最適化、バッテリー寿命の延長、 EV 効率の向上を実現する方法をデモンストレーションしました。

結論

AWS は、 re:Invent 2023 で 8 つの戦略的ワークロード領域における革新とお客様の成功事例を発表しました。 AWS は、中国リージョンで展開する OEM (オリジナル機器メーカー)にとってのプリファードクラウドプロバイダーとなり、対象として SAICBYD を含むといった発表がありました。 AWS for Automotive チームは、お客様と共に、またお客様のために革新を続けています。他の re:Invent 2023 の発表に最新の情報については、 AWS for Automotive のページを探索するか、今すぐ担当の AWS チームにご連絡ください。

このブログは「 Recap of AWS re:Invent 2023 for the Automotive Industry 」と題された記事の翻訳となります。

翻訳は Solutions Architect Leader のショーン・セーヒーと Solutions Architect の佐藤高士が担当しました。