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公共部門のデジタル化がもたらす大きな可能性 デジタル技術の「民主化」が日本の隅々で加速するデジタルトランスフォーメーションを支援

AWS は発足から 3 年目を迎えたデジタル庁と、ガバメントクラウドの加速を継続して支援します

急ピッチでデジタル化を進める日本の政府、自治体、企業、スタートアップ

私たちアマゾン ウェブ サービス(以下、AWS)は、クラウドを中核としたデジタル技術には、社会の課題や困難を突破する力が備わっていると考えています。なぜならば、クラウドによって誰もが高度なテクノロジーと、様々なデータを簡単に利用できる社会を構築することができるからです。私達はこれを、テクノロジーとデータの民主化と呼び、AWS はこれらの民主化を通じて、国民・市民 一人ひとりが、デジタルの恩恵を享受できる、社会の実現に貢献するために、地域社会をより豊かに、そして地球と人々の発展を支える信頼性の高いテクノロジーを提供することを目指しています。そして、日本全体のデジタルトランスフォーメーション(以下、DX)を支援するため、日々活動を行っています。この思いは、政府が進めるビジョンである、全国どこでも 誰もが便利で快適に暮らせる 社会を目指す「デジタル田園都市国家構想」に一致するものです。

世界における日本のデジタル競争力の強化、最終的に市民・国民のより良い、心豊かな暮らしの実現のために、日本政府は DX をさらに加速しています。2021 年のデジタル庁創設、行政、教育、医療などのデジタル化、デジタル格差の解消、さらにガバメントクラウドの実現など、急ピッチでデジタル化を進めています。デジタル田園都市構想もその一つで、デジタルの力を活用して地域の社会課題の解決を目指し、地域でイノベーションを起こし新たな仕事を生み出すスタートアップ支援を進め、人の流れを作り、結婚・出産・子育てがしやすい環境作りを行うことを目指しています。

ガバメントクラウドの意義はますます大きく

デジタル田園都市国家などを実現するデジタル基盤として進められているイニシアティブの中に、ガバメントクラウドがあります。ガバメントクラウドは、クラウドサービスの利点を最大限活用し、迅速、柔軟、セキュア、コスト効率の高いシステムを構築・提供し、最終的には国民、市民へのより良いサービスにつなげるもので、デジタル庁がけん引して進めています。官公庁や自治体のデジタル化施策のベースとなるこのガバメントクラウドに、AWS は 2021 年度から継続して採択され、 2024 年度も引き続き採択されています。ガバメントクラウドに必要な要素を AWS が実現している証左であると大変光栄に思うと同時に、日本政府、官公庁、自治体のインフラとして、引き続きコスト効率の良さを維持しながら、セキュアで、最新技術を利用できるクラウドを提供すべく、引き続き真摯に取り組み続けます。

また AWS は、ガバメントクラウド活用の支援のために、官公庁や自治体職員、および自治体を支援するパートナー向けに、AWS に関する基礎知識を学ぶトレーニング(ハンズオンを含む)を2022 年 6 月から提供しています。 2023 年 10 月までに、のべ 1,000 人以上の官公庁・自治体職員・パートナーが参加しました。 AWS は公共、教育機関、非営利団体を支援してきた、クラウドベースのソリューションと経験を持つ世界中の AWS パートナーを認定する AWS 公共部門パートナー(PSP) プログラムを提供しており、日本の公共部門のお客様がイノベーションの文化を醸成し、パートナーやスタートアップ、シビックテックのエコシステムを活かして、地域体験を革新するために協働しています。

地方創生・地域活性化、行政の業務改善のための生成系 AI 活用など、自治体との様々な側面での連携を加速

AWS は、全国の自治体や地域行政におけるイノベーションを支援し、より良い社会と市民生活の実現に貢献すべく、様々な自治体、関係団体との連携を図っています。2022 年 9 月につくば市と研究開発型スタートアップの成長加速に向けてまた、同年同月に浜松市とデジタル・スマートシティ浜松の実現に向けて連携協定を締結しました。2023 年 5 月には新潟県と地域産業の活性化に向けた包括的な取り組み、同年 8 月に北九州市と地域の特色や強みを活かしながら地域課題を解決するための DX の推進に向けた取り組みを進めています。

例えば、新潟県との連携から、地域の人材育成支援に関して、すでにポジティブな動きが生まれています。AWS の認定トレーニングパートナーであるトレノケート株式会社は AWS と共に、新潟県の地域のリーダーを育てる新しい取り組みである NINNO ACCADEMIA において、AWS のクラスルームトレーニング Developing on AWS を提供しています。新潟の地域・社会課題を解決していく人材を育てるために、様々なプログラムを提供し、地域の DX を加速しています。

また、大阪市と 2023 年 9 月、行政 DX に向け、生成系 AI の活用に関して連携することで協定を締結。大阪市の行政業務の効率化と、市民サービス向上に向け、生成系AIの利活用の可能性と、利用にあたっての課題解決などについて、共同検証を行っています。

市民生活に直結する公共部門においては、データの確固たる信頼性や透明性が必須となってきます。私たちは、過去 20 年以上にわたり、人工知能( AI )や機械学習( ML )を誰でもが使うことができるように民主化し、グローバル企業や大規模な公共部門の組織からスタートアップまで、あらゆる規模のお客様が安全に容易に、そして適切なコストで革新的な AI ソリューションを構築できるよう注力しています。

このように AWS は、生成系 AI サービス、ソリューションを含めた最先端、かつ安全に安心して使っていただくテクノロジーや、幅広いサービスを提供しつつ、地域の活性化、市民へのより良いサービスの提供をデジタルを最大限に活用して取り組んでいる自治体と協働し、 DX の加速をサポートしています。

AWS ならではの AI / ML の支援・テクノロジーの民主化 日本の大規模言語モデルの構築支援と選択肢の提供

前述の大阪市の生成系 AI の取り組みの通り、生成系 AI をビジネスや公共部門領域に利用する動きが活発化しています。AWS ではこれまでに Amazon BedrockAmazon CodeWhispererAmazon Q などの生成系 AI サービスや AWS Generative AI AcceleratorAWS Generative AI Innovation Center といった生成系 AI 開発者支援プログラムを提供してきました。これら、Amazon の 20 年以上にわたる機械学習の経験から生まれたサービス・プログラムを活用することで、お客様は  AWS 上で柔軟、セキュア、かつ費用対効果の高い生成系 AI アプリケーションを構築することができます。AWS では Amazon Bedrock や Amazon SageMaker JumpStart で多くの大規模言語モデル ( Large Language Model, LLM ) をお客様に提供しており、お客様の用途に合わせた幅広い選択肢と柔軟性を提供します。また、AWS はお客さまがこの新しいテクノロジーの価値をフルに活かせるように、生成系 AI の専門家からなるチームを設置しており、あらゆる組織が AI を活用できるように支援するという目標を掲げています。

その一環としてアマゾン ウェブ サービス ジャパンは 2023 年 7 月 3 日に、日本独自の施策として国内に法人または拠点を持つ企業・団体の大規模言語モデルの開発を支援する「AWS LLM 開発支援プログラム」を開始しました。本プログラムでは、LLM 開発を行うための計算機リソース確保に関するガイダンスや AWS 上での LLM 事前学習に関わる技術的なメンタリング、LLM 事前学習用クレジット、ビジネス支援などのサポートを提供します。詳しくはこちらをご覧ください。

クラウドと AI に対応したスタートアップを含む中堅中小企業( MSME )が日本経済を牽引

冒頭、クラウドには社会の課題や困難を突破する力がありますとお伝えしました。それを証明するべく、AWSは、グローバルのコンサルティング企業であるアクセンチュアと共同で、社会課題に取り組む中堅中小企業(MSME: Micro, Small & Medium Enterprises)のクラウドへの移行によってもたらされる日本経済、および社会へのインパクト潜在的効果について検証し、レポート「日本においてクラウド主導経済が現実に:中堅中小企業(MSME)を通じてクラウドが経済と社会に与えるインパクトとは」 を発表しました。

同レポートによると、日本経済はクラウドが主導するテクノロジーを採用した MSME によって、2030 年には医療、教育、農業の分野全体で年間総額 1 兆 9,000 億円相当の生産性向上効果、日本の全雇用の 7 %にあたる 520 万人の雇用を生み出すと予測しています。

医療分野では、クラウド主導の MSME が登場することで、医療機関にアクセス困難で十分なサービスを受けられない地域の課題解消を実現する可能性があるとしています。2030 年には日本でクラウド主導の MSME が医療分野で大きく成長し、年間総額 1 兆 2,000 億円相当の生産性向上効果の創出を促し、6,000 万件のオンライン医療相談をサポートすることになると推計しています。

教育分野では、クラウド主導の MSME がデジタルプラットフォームを通じ、教育へのアクセス性向上とインクルージョン教育に関する課題への対応を支援できる可能性があります。2030 年に MSME が教育分野で年間総額 5,000 億円相当の生産性向上効果を創出し、日本の 400 万人の生徒に e ラーニングソリューションを提供するようになるほか、2030 年までに日本で約 2,000 万人の成人がクラウド主導の MSME を介しオンライン教育にアクセスするようになり、現在の利用者数の 185% 増となると見込んでいます。

農業分野でクラウド主導の MSME が AI やクラウドテクノロジーを通じ、データ主動型の農業生産を導入することで、食糧不足問題を解決する可能性があると期待されています。2030 年には、農業生産に関わる日本の MSME が年間 1,000 億円相当の生産性向上を創出し、3 軒に 1 軒の農業従事者が精密農業ソリューションを利用するようになるだろうと推計しています。これは現在の使用率の 130% 増にあたります。

AWS では、中堅中小企業、スタートアップがイノベーションを支える重要な存在となり、医療、教育のデジタルサービスへのアクセスを改善するなど、社会の課題に対処する上で重要な役割を果たす存在になるだろうと考えています。生成系 AI や高度なクラウドテクノロジーの導入を加速し、経済的・社会的メリットを速やかに可能にするために、AWS は政府、関連機関など各業界と協力し、日本のビジネスがすべての人々にとってより良い未来を築けるよう支援していきます。

社会課題の解決を積極的に取り組む自治体、企業、スタートアップを支援

ビジネス、地域のさらなる活性化実現のために、AWS では「デジタル社会実現ツアー2023」を開催しました。昨年初めてオンラインにて開催した「デジタル社会実現ツアー 2022 」をさらに進化させ、2023 年は 8 月 22 日の高松会場を皮切りに、広島、北九州、大阪、新潟、横浜、名古屋、浜松、仙台、札幌、那覇、福岡、そして全国の自治体、スタートアップなどに集まっていただき、総集編のようなコンテンツとした 10 月 4 日の東京会場と、全国計 13 ヶ所でリアルに開催しました。

「デジタル社会実現ツアー 2023 」のテーマは、「地域創生を“さらに”一歩進めるには?」。政府が進めるデジタル田園都市国家構想によって実現を目指す地域創生や社会課題解決のために、地域交通のリ・デザイン、遠隔医療、こども政策、教育 DX、観光 DX、防災 DX、スマート農林水産業・食品産業など、各領域において、先行して取り組みを始めている先進的な企業やスタートアップおよびそれらと連携している自治体や関係各省庁の皆様を各会場にお招きしました。そこで、「プロジェクトの進め方(資金調達など)」「人材育成」「デジタル技術の活用」といった注目の各トピックについての成功談・失敗談についてお話いただきました。全国各地で開催することで、地域ならではの課題、チャレンジが話し合われました。様々なトピックやテーマについて、多くの様々な参加者の方から情報共有、ディスカッションが行われましたが、AWS を活用しつつ社会課題の解決に尽力している企業様をハイライトとして抜粋してご紹介します。

浜松会場では、「浜松市実証実験サポート事業」に採択されたプロジェクトとして、株式会社フジヤマが提案した、浜松市全域の盛土の変化を観測するWebシステムが紹介されました。低コストで利用できる衛星データを活用し、AI 学習を用いた盛土の変化検出手法の検証および Web システム構築を行うことで、市域全体の盛土監視システムの構築を目指すものです。

札幌会場では、株式会社よびもりが知床(羅臼町と斜里町ウトロ)の海上にて、役場、観光船協議会および漁協とともに実施した、助け合い海難救助サービス「よびもり( yobimori )」の実証実験を紹介しました。「よびもり」は、海難事故が発生した場合、最新の位置情報を近くの漁船、観光船などにつないで、救助要請を可能とする仕組みです。

横浜会場では、神奈川県による「要配慮施設利用者の安全を守る避難確保計画の取組化」の実証実験として、株式会社ネオジャパンの製品である desknet’s NEOとAppSuite にて構築した避難確保計画作成アプリケーションが紹介されました。横浜市の避難確保計画に関するサイトと情報をアプリ上に集約し、災害に対する意識啓発を促進している事例です。

「デジタル社会実現ツアー2023」は、全 13 会場の様子をオンデマンド視聴することができます。詳しくはこちらからご覧ください。

デジタル庁が進めるデジタルマーケットプレイスへの支援

現在、デジタル庁では官公庁や自治体などの行政機関がクラウドソフトウェア(SaaS)を調達する際に、オンライン上でほしいソフトウェアを検索、比較して、調達できるような手法「デジタルマーケットプレイス(DMP)」の開設準備を進めています。

DMP はデジタル庁が運営する調達プラットフォームで、多様なベンダーがサービスを登録し、その中から行政機関が必要なサービスを検索・選定し、簡易的に調達できるようになります。2024 年度下半期の本番サイトオープンにあわせ、国と自治体が調達の際に DMP を利用できるような国の制度整理を進め、会計制度上も利用できるものとする計画です。これに先立ち、2023 年度は α 版というカタログサイトが公開され、事業者が実際に製品を登録し、売り手側、買い手側のニーズや操作性等の確認・調査が行われる予定です。

公共調達の仕組みが大きく簡素化されることと、SaaS というクラウドによる提供形態の製品の紹介の場が作られることにより、これまで公共調達に参加しにくかった中堅中小企業やスタートアップなどにとっては大きなメリットとなります。また、買い手側も DMP というオンライン上で、いつでもどこでも、自分たちのニーズに合った製品を探し出すことができるようになります。

もともとはスタートアップであるアマゾンに出自をもつ AWS は、民間ビジネス領域のみならず、公共部門でのスタートアップの更なる活躍を継続して支援しており、これまでハードルが高かった公共調達に、より参入しやすくなるこの DMP に賛同し、成功を支援します。

例えば前述の、11 月 30 日に事業者向け機能がリリースされたカタログサイトα版を構築したスタートアップである株式会社dotD(ドットディー)は、AWSプロフェッショナルサービスによるコンサルティング支援を活用しました。また私たちは、AWS を活用頂いているパートナー向けに、カタログサイト α 版へ製品を登録するためのワークショップや意見交換のための交流会を実施しています。詳しくはこちらをご覧ください。

AWS では、日本の DMP 開設、本格稼働に最大限協力し、企業やスタートアップが公共調達のハードルを乗り越えて、公共部門で社会課題解決のために活躍し、さらに日本の行政サービスの質の向上およびコスト削減に向け貢献されることを全面的に協力し支援していきます。

AWS が考える継続支援への決意

AWS では、デジタル庁が掲げるデジタル田園国家構想を実現するための支援として、ガバメントクラウドに AWS を採用いただくにとどまらず、さらなる活動を継続して行っていくことが重要と考えています。今後、豊かな暮らしを実現していくためには、「経済・社会の発展」、それを実現する要素として「テクノロジーとデータの民主化」、さらに「社会課題の解決」、「付加価値の創造」という循環を作り出していくことが必要です。

しかも、付加価値の創造や社会課題の解決のためには従来の手法では難しい場面が出てくるかもしれません。そこで重要になるのが新しい考え方でテクノロジーを使うような新しい企業が誕生するための「スタートアップへの支援」です。こうして誕生したスタートアップは、「革新的なビジネスモデル」を生み出し、「経済・社会の発展」に寄与すると共に、付加価値の創造や社会課題の解決の一助となっていくでしょう。

日本のデジタル化、それによる市民のより良い暮らしの実現に向けて、AWS は引き続き全方位であらゆるステークホルダーと協力し、支援し、タッグを組み、安全で安心して信頼いただけるクラウドサービスの提供、活動を続けてまいります。

AWS の 2022 年の公共部門における取り組みについては、こちらをご覧ください。

アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 執行役員 パブリックセクター 統括本部長 宇佐見 潮