Amazon Web Services ブログ

【開催報告&資料公開】 流通小売・消費財・EC 企業向け:クラウドと生成AI によるオペレーション改革

そろそろ re:Invent も近づいてきましたが、日本でもまだまだイベントが続きます。流通・小売・消費財業界に関わられている方々を主な対象として、2024 年 10 月 24 日に「流通・小売・消費財業界向け:クラウドと生成 AI によるオペレーション改革」のオンラインセミナーを開催しました。ご参加いただきました皆さまには、この場を借りて御礼申し上げます。本ブログでは、その内容を簡単にご紹介します。またブログ最後に近く予定されているイベントのご紹介もしていますので、ぜひそちらもご参加を検討ください。

在庫管理、発注管理、物流配送、店舗設計、販促…小売業界における皆様の日々の業務、つまりオペレーションにおける改善・改革は常に企業のニーズとして存在してきました。テクノロジーで変革を支援、加速することのできるオペレーションもたくさんあり、急速に私たちの日常にも浸透しつつある生成 AI はそのテクノロジーの筆頭です。

生成AI を用いて蓄積された社内ナレッジを検索、再利用する、コンテンツを生成したり、解釈を手伝ってもらう – 今回のセミナーでは生成 AI を業務オペレーション改革に応用したお客様 5 社の、具体的な成功事例をお話いただきました。

1. オープニング

AWS 技術統括本部 エンタープライズ技術本部 流通小売・消費財グループ 部長  五十嵐 建平

資料ダウンロード

企業はオペレーション改革に対して、当該業務そのものをスマートに見直すこと、あるいは熟練性の伝達による属人性を排除することによる効率化、それらによりもたらされる時間やコストの削減や、より価値のある業務への集中などの期待を持っています。生成 AI をオペレーション改革に適用する試みは昨年から活発化し、今年に入り具体的な成果が次々と検証されています。その生成AIのユースケースは大きく 3 つのフェーズで進化していると考えられます。

(1) 既存ナレッジの検索

生成 AI で企業の既存ナレッジを検索しやすくすることなどにより、対応スキルの底上げや、チャットボットなどに代表されるアシスタントが各業務を支援するフェーズです。多くのお客様がまずここからスタートし、徐々に高難度なタスクへと挑戦していっています。

(2) データ読み取りや作成

最初のフェーズが進み始めると、より多様な業務に適用を進めるために、さらに幅広く企業内のデータを利用したくなります。データは構造化されるほど扱いやすくなります。データの種類も増やしたくなります。こういったデータを豊かにすることそのものに、生成 AI を利用します。

(3) コンテンツ監査

より重要な判断についての支援を生成 AI から得るために、コンテンツを高精度に監査する、そこにまた生成 AI の活用が見出されています。

今回の事例でご登壇いただく 5 社様、それぞれが異なるフェーズのお話になっています。そしていずれも今回ご紹介いただく「成功事例」のさらに次の挑戦、適用範囲の拡大や高度化が計画されています。業務ごと、適用フェーズごとに適切な生成 AI 技術を選択し、オペレーション改革そのものを継続させている、そんな点を念頭に各お客様事例を聞いていただければ、皆様のクラウド、そして生成AIによるオペレーション改革を実現するための手がかりを掴めるはずです。

2.お客様事例 (1) 生成AIを組み込んだ入札契約業務オペレーション改革

三井物産株式会社 デジタル総合戦略部 デジタルテクノロジー戦略室 Product Manager 伊藤 友貴様

資料ダウンロードリンク

三井物産株式会社様、そしてそのグループ内では、多くの国際入札に参加しています。入札業務においては短期間で 100 ページを超すような入札説明書を読み込まなくてはならないようなケースがあり、商材や契約実務に関する専門知識・業界知識が必要とされるために、熟練者でも40時間以上かかることがあります。そこで、生成 AI により入札説明書を解析するアプリを開発しました。まず、「AI 要旨項目抽出」機能が、入札説明書の構成単語を抽出・分類します。続いて「AI 重要単熟語着色」機能がこれらの単語をラベリングし、色分けします。最後に「要旨生成」機能がその入札説明書の要旨を生成します。担当者はアプリを使って分類、色分けされた情報を参照しつつ、訂正などを行い、最後に要旨を作成することができます。この一連の処理のデモを、講演の中でご紹介いただいています。実証実験では、熟練者で約 12 時間、新人では約 51 時間の業務時間削減効果が確認されました。さらに、新人の業務成功率も33% から100% に向上したとのこと。

技術的には、識別式モデル(BERT)による系列ラベリングと、Amazon Bedrock の提供する LLM による修正を組み合わせて構築されています。当初ルールベースで構築していた部分をLLMに切り替えることで、ルールの保守運用から開放されました。LLM に切り替えた後も、利用するモデルを初期は Jurassic-2 Ultra から、その後、新しい Claude 3.5 Sonnetへと、継続的なアップデートを図られています。こういったモデルのアップデートを容易に実現できる点で、Amazon Bedrock を評価していただいています。アプリ開発の裏話として、単にモデルの選択や精度を追求するのではなく、開発サイドとユーザーサイドが協力し合って UI/UX を改善していったことで、より使ってもらえるサービスとなっていった点にも触れられていました。

現在、このアプリは三井物産グループ内で展開が進んでおり、今後は社外提供も計画されているそうです。

3. お客様事例 (2) Amazon Bedrock と Lambda を活用したホームページ制作支援システム

株式会社ペライチ カスタマーリレーション部 プロダクトマネージャー 藤代 康太 様

資料ダウンロードリンク

ペライチ様は「テクノロジーをすべての人が使える世界に」をビジョンに掲げ、ホームページ作成にあたってユーザーの抱える「ページ構成を決められない」「社内にノウハウがなく負担が大きい」という課題を解決するために、専門知識がなくても簡単にホームページを制作できるサービスを提供されています。ノーコードでホームページを作れるように様々なユースケースに合わせたテンプレートや、組み合わせて使うことのできるビルディングブロックを提供されているのですが、それでもユーザーからは「どのテンプレートを選べばよいか分からない」といった声がありました。そこで、Amazon Bedrock と AWS Lambda を活用し、AI アシスタントによる、ページ自動生成システムを開発しました。通常は担当者が行うホームページの移行や制作準備の作業を、生成 AI が既存サイトを読み込み解析することで支援します。さらに、テンプレートからページを制作する作業も、テンプレートの選択や画像の再配置、キャッチコピーの生成などを生成 AI が手伝います。ご講演の中で実際に既存のウェブサイトの URL から新たなホームページを生成するまでの一連の流れをデモでご紹介いただいています。画像など既存サイトのアセットを有効活用しつつ、テンプレートに沿った新しいページが生成されていきます。生成 AI により生成されるコンテンツにはムラがあるので、生成したものをそのまま使うのではなく、いったんユーザーが確認、編集するステップを置くことでより納得感のある制作ステップを提供できるようにもなっています。

ユーザーのページ制作の効率化と品質向上を目指すこの新機能は、現在はベータ版として提供中で、80名のモニターユーザーから好評を得ているとのことでした。今後は、このシステムの効果を測定しつつ、既存サービスの改善や他の課題解決への応用を検討していくとのことです。

4. お客様事例 (3) Amazon Bedrock × Kendra で実現する、生成 AI による組織ナレッジの継承と効率化

ライオン株式会社 デジタル戦略部 データサイエンティスト 百合 祐樹 様

資料ダウンロードリンク

ライオン様からは、研究開発部門が直面していた知識管理と情報共有の課題に対し、生成AIを活用したソリューションを導入した事例をご紹介いただきました。研究の分野では、長い商品研究の歴史の中で「新しい実験のアイデアを思いついたと思ったが、実はかなり以前にすでに実験済みだった」ということが実際に起っているそうです。長く在籍された研究者の方であれば蓄積された情報の所在を理解していることもありますが、それを次の世代の研究者へと伝えていくことも大変です。こういった過去に遡った大量データからの知見の活用というユースケースは、まさに生成 AI、その中でも RAG(Retrieval-Augmented Generation、検索拡張生成)の得意とするところです。

そこで「これまでの研究活動において培った技術知見を高度に活用できる仕組みを整備し、新たな顧客価値創造・イノベーション創出を加速する」ことを目標に、ナレッジ検索システムを開発されました。このシステムは、特に大規模なデータでの RAG で、技術的には Amazon BedrockとAmazon Kendraを組み合わせて実現されています。この仕組みによって、情報検索時間は最大5分の1に短縮され、これまで見つけにくかった情報の発見や、若手や日本語を母国語としない海外出身の研究員の理解促進にも貢献しているとのことです。

ライオン様は、このシステムを研究集約知のフレームワーク確率への第一歩として、今後も、データの追加や改善を継続して対応するユースケースを増やし、より高度な組織ナレッジの活用を目指されているそうです。

5. お客様事例 (4) SaaS 事業者の生成 AI 活用パターン ~新機能開発から業務効率化まで~

ナビプラス株式会社 事業企画部 2グループ グループマネージャー 白石 卓也 様

資料ダウンロードリンク

ナビプラス様は、EC サイト向けマーケティングツール、具体的には EC サイト内における、サイト内検索やレコメンデーションといった EC サイトに必要とされる機能を SaaS で提供されています。ナビプラス様では、生成 AI 導入の選択肢として、LLM だけでなく、LLM よりも精度や汎用性には劣るもののより手軽に利用できる、小規模言語モデル(SLM)にも注目しており、ユースケースを探りながらいろいろな生成 AI の選択肢を拡げているところだそうです。ご講演の中で、LLM と SML の比較実験をとてもわかりやすいサンプルでご紹介いただいています。

具体的な生成 AI活用事例としてはまず、社内 Slack ボットが取り上げられました。Amazon Bedrock と Amazon Kendra を組み合わせた、社内情報を活用した RAG を導入し、文章の要約・翻訳から、カスタマージャーニー作成まで、幅広い業務オペレーションで利用されています。もう一つの活用事例は、ナビプラス様の提供するサービスそのものへの生成 AI 適用事例です。ナビプラスシリーズにはいくつかのサービスがありますが、今回は EC サイトにおけるユーザーレビュー管理のためのサービス、ナビプラスレビューに、ユーザーが商品レビューを投稿する際のアシスト機能を組み込みました。ここでも Amazon Bedrock を利用し、商品ごとに適切な質問を投げかける生成 AI、そしてその質問に対するユーザーの回答からレビューコメントを下書きする生成 AI が活躍しています。この機能は約 3 ヶ月でリリースされたそうです。

「生成AIの進化は日進月歩で、私たちの想像を超えるスピードで新しい可能性が生まれています。まずは小さな一歩から始め、実践を通じて活用領域を広げていきましょう。顧客接点の革新とオペレーション改革で、皆様のビジネスの競争力向上につながることを願っています。」という、ご講演スライドから生成 AI によって作成されたメッセージで講演を締めくくっていただきました。

6. お客様事例 (5) 業務効率化のため取り込んだ新たな生成 AI 活用術

株式会社ファミリーマート システム本部 IT基盤部 クラウド推進グループ 朴 明振 様

※資料ダウンロードは当日ご視聴いただいた方のみとなっております。

ファミリーマート様では、様々な業務オペレーションの補助手段として、生成 AI を積極的に検討されています。店舗管理業務、全社共通ツールなどそれぞれに適切なモデルでの検討が進んでいるそうですが、今回の講演では IT 部門のエンジニア向けのユースケースをご紹介いただきました。例えば AWS サポートへの問い合わせ履歴やマニュアルを効率的に検索、参照したい、といったとても身近な課題への対応です。実現には、AWS の GenU(Generative AI Use Case JP)を活用されています。GenU とは、生成 AI を安全に業務活用するための、ビジネスユースケース集を備えたアプリケーションの実装サンプル集で、Amazon Bedrock を使用した実装コードを AWS が公開しています。IaC で簡単に、完成度の高いシステムをデプロイすることができ、すぐに試せる点を評価いただきました。

これをさらに一歩進め、Amazon Kendra のドキュメント相互参照機能を活用し、複数のドキュメント間でルール違反がないかを確認するなど、より高度な分析を実現することに挑戦されました。これにより、“ある提案書が社内マニュアルのルールに準拠しているかどうかを確認する”(提案書やマニュアルはそれぞれ異なるドキュメント)といったことが可能になっています。具体的には、まず生成 AI に社内マニュアルから必要なルールを抜粋するように指示し、その抜粋されたルールを次の質問(プロンプト)に渡します。続けて、提案書がそのルールに準拠しているかどうかをチェックして、という指示を出します。この 2 つ目の指示を出す際に、先に抜粋されたルールが渡されているため、相互参照が可能になる、という仕組みです。ファミリーマート様ではこの機能の提供により、チームメンバー間のノウハウ共有や過去の知見の活用が促進され、プロジェクト管理の質が向上しており、さらなる機能拡張も計画されているそうです。

最後に「ドキュメントの相互参照をぜひお試しください」という力強い推薦メッセージをいただきました。

まとめ

オープニングで紹介した、生成 AI のユースケース進化の 3 つのフェーズに照らし合わせると、ライオン様やファミリーマート様ではフェーズ (1) において、Amazon Kendra の特性を活かしてオペレーション改善を実現した事例と言えます。ナビプラス様のナビプラスレビューのレビューコメント生成は、さらなるデータの拡張を狙っている段階に進んでおり、フェーズ (2) のユースケース事例です。ペライチ様では、テキスト、画像を組み合わせるマルチモーダルでホームページ制作の半自動化が実現されています。三井物産様では BERT と LLM の組み合わせでの高度な入札業務の効率化を実施されています。これらの 2 社はフェーズ (3) の事例と言えるでしょう。

5 社の事例から、生成 AI の活用において

  • オペレーションが実際にどれだけ改善されたのか、効果を定量的に計測している
  • 小規模なチームで実験を繰り返し進化させている
  • 1-3 ヶ月の短期間で本番稼働させ、それをさらに拡張・高度化させている

という点が共通的な成功要素であることが見えてきます。

特に一点目の効果測定は非常に重要な要素です。生成 AI に限らず、DX のトレンドの中で、データ利活用に取り組む企業の 50% 近くは成果を測定していない( DX 白書 2023 より)と言われています。成果が具体的に語れないと、そもそも成功しているか評価できず、それ以上の進化のための投資も難しくなってしまいます。

今回の成功事例から、技術的な仕組みだけでなくこういった側面からも学んでいただけると思います。

多くの企業において、企業トップや事業部で「生成 AI を使っていこう」という大きなモメンタムがあります。これは業務オペレーションそのものの変革に取り組んでいく絶好の機会です。ぜひ、早く進化を始め、そして進化を早めて、競争力を加速させていきましょう。私たちがお手伝いします。

今後のイベント

11 月にも、流通・小売・消費財業界の皆さまに向けたイベントを予定しています。ぜひご参加ください。

AWS Retail CPG Expo 2024: カスタマーエンゲージメントからスマートストアまで – 5つの戦略的イノベーションが牽引する次世代小売

リテール業界固有の課題と機会に応える、ソリューションプロバイダーのサービスやベストプラクティスを一挙紹介
2024 年 11 月 12 日 13:30 – 18:30
お申し込みはこちらから: https://aws-retail-expo-2024.splashthat.com/

イベントコンテンツの紹介ブログも参照ください。

流通小売/消費財企業向け:2024 年 最新ソリューションによるレガシーシステムのクラウド移行

2024 年 11 月 15 日 (金) 10:00 – 11:10
お申し込みはこちらから: https://pages.awscloud.com/eib-cpg-241115-reg.html

今後も、流通・小売・消費財業界の皆さまに向けたイベントを企画し、情報発信を継続していきます。ブログやコンテンツも公開しておりますのでご覧ください。

流通小売参考情報

[1] AWS ブログ ”流通小売” カテゴリー
[2] AWS ブログ “消費財” カテゴリー
[3] AWS 消費財・流通・小売業向け ソリューション紹介ページ
[4] インダストリー向け e-Book:

このブログは、ソリューションアーキテクト 杉中 が担当しました。