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スマートシティ向けの早期火災検知設計モデル : AWS IoT および ML テクノロジーの活用

はじめに

全米消防協会は、毎年 100 万件を超える火災を記録しています。これらの火災は、米国における都市の安全を脅かす最大の危険のひとつと位置づけられています。現在、消防署は主に在宅用の煙探知機、火災通報ボックス、および電話による通報といった従来の火災検知システムによる警報に頼っています。しかしこれらのシステムでは、火災の範囲、規模、場所などの追加情報が不足する可能性があります。モノのインターネット (IoT) は、都市のインフラを合理化し、火災を事前に検知し、公共の安全性を向上させるための重要な技術です。

火災関連の事故を減らし、迅速かつ効果的に火災に対応するため、IoT センサーと高度なデータ分析 (機械学習など) を統合することができます。環境条件と煙レベルを監視する IoT デバイスは、ほぼリアルタイムでデータをクラウドに送信でき、そこでさらに処理が行われ、潜在的な火災の危険性が特定されます。そうすることにより、事態が悪化する前に実用的な対策を講じることができます。

このブログ記事では、早期警告システムを緊急時対応者に構築するためのデータを接続、収集、活用するにあたり、AWS のサービス群をどのように使用するかを学びます。全体のシステムアーキテクチャについて説明し、データを収集するセンサーやデバイス、AWS IoT サービスを使ったデータ処理と分析、Amazon SageMaker を使ったローコードな ML モデルによる火災予測についても見ていきます。

全体アーキテクチャ

このソリューションでは、AWS IoT Core を使用して、温度、気圧、ガス、湿度、風速、土壌湿度などさまざまなセンサーからデータを大規模にクラウドに安全に取り込みます。使用する IoT デバイスのタイプに応じて、AWS IoT SDK は、AWS IoT Core とデバイスを安全に接続し、認証するために必要なライブラリと API を提供します。

ただし、一部のデバイスは Wi-Fi やセルラーネットワークが途切れ途切れになるところに配置される可能性があります。そのような場合、AWS IoT Core for Amazon Sidewalk (注記:2024/06時点で日本国内ではサービス未提供)が優位性を発揮します。Amazon Sidewalk は、互換性のある Amazon Echo や Ring デバイスなどの Amazon Sidewalk Gateway を使用し、IoT エンドポイントデバイスにクラウド接続を提供するセキュアなコミュニティネットワークです。Amazon Sidewalk は、Bluetooth Low Energy を使った近距離通信と、900MHz の周波数で LoRa および FSK 無線プロトコルを使った長距離通信により、家の中や外でも低帯域幅の長距離接続を実現します。IoT デバイスは、Sidewalk Gateway を介して AWS IoT Core と安全に対話でき、データの発行やコントロールメッセージの受信ができます。この統合により、IoT デバイスの全体的な接続性と機能性が強化されます。Amazon Sidewalk は、接続性のギャップを埋めることで、スマートシティの実装において AWS IoT Core の範囲を広げ、遠隔の地域でも本当に市内全域をカバーするネットワークを可能にします。この通信範囲の拡大により、IoT とエッジコンピューティングがスマートシティのインフラ内でより効果的で信頼性の高いものになります。

AWS IoT Rules Engine は、ストリーミングデータを分析および処理し、AWS IoT Core に到着するメッセージを下流の AWS サービスにルーティングできるようにします。受信データに基づいて条件を指定するルールを作成できます。IoT デバイスからのメッセージがルールの条件に一致すると、ルールエンジンがアクションをトリガーします。このソリューションでは、このアクションによってメッセージが Amazon Simple Notification Service(Amazon SNS) に転送され、指定された通信チャンネルで対応チームに通知されます。

受信データは Amazon Timestream にもルーティングされ、ニアリアルタイムの監視のために保存されます。Amazon Timestream は高速、スケーラブル、完全マネージド型の時系列データベースで、時系列データの保存と分析を簡単に行えます。Timestream の目的別クエリエンジンを使えば、データの場所を指定することなく、最新のデータと過去のデータにアクセスして分析できます。AWS IoT で定義されたルールにより、着信メッセージからのデータが Timestream に直接投入され、AWS IoT Core が SQL リファレンスを使って結果のアクションを解析します。

Amazon Managed Grafana を使用して、何百万ものリアルタイムイベントを監視および分析する動的なダッシュボードを通じて、即座にインサイトを得ることができます。Amazon Managed Grafana は、Amazon Timestream と統合されたフルマネージドで、安全なデータ可視化サービスです。Amazon Managed Grafana を使用すると、複数のソースからの遠隔測定データを即座に照会、相関、可視化できます。Amazon Timestream と Amazon Managed Grafana を使用すると、ダッシュボードからほぼリアルタイムのインサイトを導き出す運用ダッシュボードを構築し、何百万ものイベントを分析して監視し、警告することができます。これらのダッシュボードは、ステークホルダーや対応チームに、センサーのメトリクスや異常検知に関する即時の可視性を提供します。また、スマートシティ内の火災につながる潜在的な脅威の早期発見にも役立ちます。

長期的な分析と履歴参照のために、すべての生のセンサーデータは Amazon Simple Storage Service (Amazon S3) のデータレイクに配信されます。これは、ストリーミングデータをキャプチャ、変換、ロードする Amazon Data Firehose に渡されます。Amazon S3 に過去データを保存することは、このシステムの機能を高める上で重要な役割を果たします。これがマシンラーニングモデル開発の基盤となり、Amazon SageMaker によって支援されます。SageMaker を利用すれば、この過去のデータセットを使って効率的にマシンラーニングモデルをトレーニングできます。過去データからのインサイトで強化されたこれらのモデルには、火災リスクを含む環境条件を正確に予測する能力があります。

Amazon Athena を使えば、これらのインサイトを直感的に分析・可視化でき、データ主導の意思決定が容易になります。Athena はサーバーレスかつインタラクティブなクエリサービスで、Amazon S3 に保存されたデータを分析し、結果を Amazon QuickSight で可視化できます。Amazon QuickSight はこの高度なデータを活用し、インタラクティブで分かりやすいダッシュボードを生成します。

ニアリアルタイムの監視、予測分析、高度な可視化を組み合わせることで、変化する環境条件に対して積極的に対応できます。この積極的な対応により、潜在的な脅威の迅速な検知と、タイムリーな緊急対応が可能になります。

他のユースケース

上記のアーキテクチャは、スマートシティにおける火災に関するセンサーデータを収集、分析、表示するための柔軟な基盤として機能します。このアーキテクチャは、山火事のような環境問題への対処にも応用できます。山火事は、人里離れた森林から発生し、郊外や都市部まで到達することが多くあります。森林地帯、公園、緑地帯、都市と山林の境界などで IoT センサーを使用することで、都市は火災を早期に発見し、封じ込めることができます。

このアーキテクチャは火災検知以外にも応用できます。交通、廃棄物管理、エネルギー使用、洪水リスク、大気の質を監視することで、スマートシティの運営を最適化することができます。このアーキテクチャの核となる機能は、センサーデータを市当局、緊急対応者、市民にとって有用な情報に変換し、都市をより安全で住みやすく、持続可能なものにすることにあります。

まとめ

このブログでは、スマートシティ向けのスケーラブルな早期火災検知システムを設計するためのリファレンスアーキテクチャについて説明しました。AWS IoT を活用することで、このソリューションは市内の数千ものセンサーからのデータ取り込みと、ほぼリアルタイムの検知および警報をサポートします。このようなデータ取り込みにより、迅速な対応、事前の被害軽減、最適なリソース配分が可能になります。このアーキテクチャの汎用性により、交通管理、大気汚染監視、洪水予測などの他のIoTユースケースにも適用できます。最先端のテクノロジーと賢明な都市設計を組み合わせることで、都市は市民にとってより強靭で安全なものになる大きな一歩を踏み出せるでしょう。

この記事は Ahmed Alkhazraji, Ankur Dang, Marouane Hail によって書かれた Early Fire Detection Design Model for Smart Cities: Using AWS IoT and ML Technologies の日本語訳です。翻訳は、プロフェッショナルサービス本部 IoT コンサルタントの 宮本 篤 が担当しました。

著者について

Ahmed Alkhazraji は、AWS で AI/ML および汎用 AI に注力するシニアソリューションアーキテクトです。革新的なソリューションを構築することと、AWS 導入の初期段階にあるお客様とともに働くことに情熱を注いでいます。仕事の合間には、ハイキング、サッカー、旅行を楽しんでいます。

Ankur Dang は Amazon Web Services(AWS) でソリューションアーキテクトを務めています。テクノロジーに情熱を注ぎ、お客様の問題解決とアプリケーションのモダナイゼーションの支援に取り組んでいます。特に AWS IoT サービスを活用したシステム設計に興味があり、モノのインターネット (IoT) ソリューションに熱心に取り組んでいます。仕事以外では、航空宇宙の進歩を研究したり、ドローン写真でユニークな空撮を楽しむなど、趣味を追求しています。

Marouane Hail は、クラウドオペレーションを専門とするソリューションアーキテクトです。お客様のために安全かつスケーラブルなソリューションを構築することに情熱を注いでいます。仕事以外では、サッカーをするのが好きで、テクノロジーについても学習を続けています。

以下のAWS リソースも併せてご確認ください。
[1] Tutorial: Connecting a device to AWS IoT Core by using the AWS IoT Device SDK
[2] Tutorial: Connecting Sidewalk devices to AWS IoT Core for Amazon Sidewalk
[3] Tutorial: AWS IoT Rule to Send an Amazon SNS notification
[4] Tutorial: AWS IoT Rule to send incoming data to Amazon Timestream
[5] Tutorial: Visualize your time series data and create alerts using Grafana
[6] Blog: Ingesting enriched IoT data into Amazon S3 using Amazon Kinesis Data Firehose
[7] Blog: Analyze and visualize nested JSON data with Amazon Athena and Amazon QuickSight