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製造イノベーションの強化:AI と生成 AI の Centers of Excellence (CoE) がモダナイゼーションを推進する方法

本記事は、2024 年 7 月 5 日に公開された記事「Empowering Manufacturing Innovation: How AI & GenAI Centers of Excellence can drive Modernization」を翻訳したものです。

はじめに

機械学習(ML)、人工知能(AI)、生成 AI(GenAI)などのテクノロジーは、労働力を強化しながら、効率的で持続可能な製造業の新時代を切り開きます。AI を製造業に適用できる領域には、予知保全、欠陥検出、サプライチェーンの可視化、需要予測、製品設計などがあります。メリットとして、稼働時間と安全性の向上、無駄とコストの削減、業務効率の改善、製品と顧客体験の向上、市場投入までの時間の短縮などがあります。多くのメーカーが AI の導入を開始しています。Georgia-Pacific はコンピュータビジョンを使用して、紙の破れを減らし、品質を向上させ、利益を数百万ドル増やしています。Baxter は AI を利用した予知保全によって、1 つの施設だけで 500 時間のダウンタイムを防ぐことができました。

しかし、組織とテクノロジーの基盤が脆弱なため、多くの企業は AI を十分に活用できずにいます(最近の世界経済フォーラムの調査による)。その理由には、スキル不足、変化への抵抗、高品質なデータの不足、テクノロジー統合における課題などがあります。AI プロジェクトはパイロット段階で行き詰まり、実稼働用に展開されないことがよくあります。AI と生成 AI テクノロジーをうまく活用するには、技術的な専門知識に加えて、文化的、組織的な側面からの総合的なアプローチが必要です。この記事では、AI Center of Excellence (AI CoE) が、AI と生成 AI の導入を通じてモダナイゼーションを加速するための包括的なアプローチをどのように提供するかについて説明します。

製造業における AI 導入の課題

製造業は、従来の物理的な世界(オペレーショナルテクノロジー、OT)とデジタルの世界(情報技術、IT)を融合させる必要があるため、AI 導入において特有の課題に直面しています。その課題には、文化的規範、組織構造、技術的制約が含まれます。

工場の担当者はミッションクリティカルな OT システムを扱っています。彼らは稼働時間と安全性を優先し、変化をリスクと認識しています。システムは(オープンなネットワークである)インターネットから分離されているため、サイバーセキュリティの優先度は高くありません。伝統的な工場のオペレーターは、長年の運用上の意思決定を通じて得た経験を頼りにしています。AI システムがどのように意思決定に至るかを理解することは、彼らの信頼を獲得し、導入の障壁を克服するために極めて重要です。工場のチームはサイロ化され、自律的で、現場のリーダーシップの下で運営されているため、AI の導入は困難です。AI システムとインフラへの初期投資は、アプローチによっては多額の費用がかかる可能性があり、多くのメーカーは費用を正当化するのに苦労する可能性があります。

AI は膨大な量の高品質データに依存しますが、多くの製造業では、このようなデータは断片化されていたり、古くなっていたり、アクセスできなかったりする場合があります。製造業におけるレガシーシステムは、ベンダー依存の独自ソフトウェアで実行されることが多く、標準以外のプロトコルやデータ形式を使用しているため、AI との統合が課題となっています。遠隔地ではインターネット接続が限られており、正確で信頼性の高いリアルタイムの応答に依存している製造システムはレイテンシーの課題を克服する必要があります。たとえば、AI システムは、製品が製造ラインを進むにつれて欠陥を特定するために、センサーデータとカメラ画像をリアルタイムで処理する必要があります。欠陥の検出がわずかでも遅れると、不良品が品質管理を通過する可能性があります。さらに、製造 AI システムは厳格な規制要件と業界標準を満たす必要があり、AI の開発および導入プロセスが複雑になります。AI の分野はまだ発展途上であり、ツール、フレームワーク、方法論の標準化をさらに進める必要があります。

リーダーシップの役割

変革的な AI の導入には、OT と IT の両方の上位層や意思決定者(以後、リーダー)のコミットメントと連携が必要です。OT リーダーは、接続されたスマートな産業オペレーションによって稼働時間、安全性、セキュリティ、信頼性を損なうことなく作業が簡素化されることを認識することでメリットを得られます。同様に、IT リーダーは、製造現場の要件の独自性を理解することで、AI テクノロジーを通じてビジネス価値を発揮できます。実際、OT は IT によって実現されるビジネス機能と見なすことができます。OT と IT の視点を統合することは、収益の増加、新製品、生産性の向上など、AI のビジネス価値を実現するために極めて重要です。リーダーシップは、AI を戦略目標に結び付ける明確なビジョンを策定し、機能的および文化的変革を推進するための協調的な文化を醸成する必要があります。

ビジョンは AI 導入の「理由(WHY)」を示しますが、AI 導入を成功させるにはビジョンを行動に移す必要があります。AI CoE はビジョンと行動のギャップを埋めることができます。

AI CoE による AI 導入とビジネス成果の加速

概要:AI CoE は、AI と製造分野に情熱を注ぐ専門家(Subject Matter Expert、SME)から構成される、複数の専門分野にまたがって責任ある AI 導入を推進するチームです。人間中心の AI を促進し、ベストプラクティスを標準化し、専門知識を提供し、従業員のスキルを向上させ、ガバナンスを確保します。エッジコンピューティングと最新のデータプラットフォームに重点を置いたモダナイゼーションロードマップを作成します。AI CoE は 2 ~ 4 人の小規模なメンバーから始め、必要に応じて規模を拡大することができます。AI CoE が成功するには、経営陣の支援と自律的に行動する能力が必要です。図 1 は、AI CoE の中核的な能力の概要を示しています。

図 1 AI CoE の能力

説明可能な AI

AI CoE は、安全性と稼働時間が極めて重要な製造業において、説明可能な AI を推進する必要があります。たとえば、AI モデルが機器の故障を予測した場合、「故障の可能性が高い」または「故障の可能性は低い」などの二値的な AI 出力だけでは、工場の担当者の信頼を得ることはできません。代わりに、「ベアリングセンサーで検出された振動が 15% 増加したため、故障の可能性が高い。これは、過去のベアリング故障パターンに似ている」といった出力があれば、担当者は AI のアドバイスを信頼する可能性が高くなります。AWS は、AI モデルの説明可能性を高める複数の方法を提供します。

スキルの有効化、信頼の構築、透明性

AI CoE は、人事部門や経営陣と連携し、既存のスキルを活用するキャリアパスやトレーニングプログラムを開発することで、AI を活用した職場でスタッフのスキルを向上させる必要があります。生成 AI ソリューションは、AI が従業員の専門知識を補完する方法を示すことで、スキル ギャップを埋めるのに役立ちます。リーダーは、AI を活用することで、複雑な問題の解決や AI の洞察の解釈に費やす時間をどのように節約できるかを強調する必要があります。たとえば、日立、エリクソン、そして AWS は、欠陥を検出するために手動検査よりも 24 倍多くのコンポーネントを同時に検査できるプライベート 5G ワイヤレスネットワークを活用して、コンピュータービジョンを実証しました。

ビジネス成果からの逆算(Working Backwards)、コラボレーション、サイロの打破

AI CoE は、AI ソリューションビルダーと工場のドメインエキスパート間のコラボレーションと共同決定権を確保、維持します。両者は協力してビジネス目標から逆算し、サイロを取り払い、AI ソリューションに収束し、望ましい結果を達成します。さらに CoE は、データの可用性、迅速な成功の可能性、ビジネス価値などの要素を評価して、インパクトのある AI ユースケースを特定するハブとして機能します。たとえば、繊維工場では、AI CoE はデータ分析を活用してエネルギー集約型のプロセスを最適化し、コスト削減と持続可能性のメリットを実現できます。AWS AI ユースケースエクスプローラーでその他のユースケースを調べてください。

ガバナンスとデータプラットフォーム

ガバナンスとデータプラットフォームは、製造 AI の拡張に不可欠です。CoE は、データガバナンスやモデルライフサイクル管理など、責任ある安全で倫理的な AI の使用に関するポリシー、標準、プロセスを確立します。AWS は、責任を持って AI ソリューションを構築およびデプロイするためのツールをいくつか提供しています。CoE は、さまざまなソースを接続し、リアルタイム分析、スケーラブルな AI を実現し、規制遵守を達成するための安全なデータプラットフォームを開発しています。このデータ基盤は、より広範な AI 導入の基盤となります。これは、AWS 上の Merck の製造データおよび分析プラットフォームによって実証されており、パフォーマンスが 3 倍になり、コストが 50% 削減しました。

AI テクノロジー、ツール、自動化

AI CoE は、製造のニーズ、要件、ベストプラクティスに基づいて、AI および GenAI のテクノロジー、ツール、ベンダーを評価および標準化します。AWS は、顧客体験を改革するソリューションを構築、デプロイ、管理するための包括的な AI および生成 AI サービスのセットを提供します。AI の拡張には自動化が必要です。AI CoE は、手作業とエラーを減らし、市場投入までの時間を短縮する自動化されたデータおよびデプロイパイプラインを設計します。トヨタは、AWS サービスを使用して数百万台の車両からのデータを処理し、緊急時にリアルタイムで対応できるようにすることで、大規模な AI 導入の例を示しています

CoEの効果測定

AI CoE の価値はビジネスの観点から測定する必要があります。そのためには、ハードメトリクスとソフトメトリクスの両方を組み合わせた総合的なアプローチが必要です。測定基準には、ROI、顧客体験の向上、効率性、製造業務の生産性向上などのビジネス成果を含める必要があります。社内調査では、従業員と利害関係者の AI に対する見方や態度、受け取り方を測定できます。これらの測定基準は、利害関係者が AI CoE と投資の価値を理解するのに役立ちます。

AI CoE の開始

図 2 AI CoE 基盤を構築するためのステップ

AI CoE の設立には、図 2 に示すように段階的なアプローチが必要です。最初のステップは、OT と IT の両方のリーダーシップから経営陣のサポートを確保することです。次のステップは、現場の従業員と AI IT の専門家で構成される多様な専門家チームを編成することです。チームは AI のトレーニングを受けており、CoE の目的を定義します。彼らはパイロットユースケースを特定して提供し、価値を実証します。同時に、ガバナンスフレームワークを開発および強化し、トレーニングを提供し、コラボレーションを促進し、フィードバックを収集し、継続的な改善を繰り返します。生成 AI を統合すると、CoE のコンテンツ作成と問題解決能力がさらに強化され、企業全体で AI の導入が加速します。AI CoE は時間の経過とともに進化します。初期の段階では、専門知識を構築し、標準を設定し、パイロットプロジェクトを開始するなど、実践的な役割を担います。やがて、トレーニングを提供し、コラボレーションを促進し、成功指標を追跡するアドバイザーの役割に移行します。これにより、企業の労働力が強化がされ、長期的な AI 導入が保証されます。

終わりに

AI および生成 AI テクノロジーは、革新的で新しい製品設計を生み出し、前例のないレベルの製造生産性を推進し、サプライチェーンアプリケーションを最適化する可能性があります。これらのテクノロジーを採用するには、技術的、組織的、文化的な課題に対処する総合的なアプローチが必要です。AI CoE は、ビジネスニーズと責任ある AI ソリューションのギャップを埋める触媒として機能します。そして、コラボレーション、トレーニング、データソリューションを促進して、工場の現場で効率を最適化し、コストを削減し、イノベーションを促進します。

追加資料

産業向け機械学習

AWS Industrial Data Platform (IDP)

AWS Cloud Adoption Framework for Artificial Intelligence, Machine Learning, and Generative AI

The organization of the future: Enabled by gen AI, driven by people

Deloitte: 2024 manufacturing industry outlook

World Economic Forum: Mastering AI quality for successful adoption of AI in manufacturing

Harnessing the AI Revolution in Industrial Operations: A Guidebook

Managing Organizational Transformation for Successful OT/IT Convergence

The Future of Industrial AI in Manufacturing

Digital Manufacturing – escaping pilot purgatory

著者:

Nurani Parasuraman は AWS のカスタマーソリューションチームの一員です。人、プロセス、テクノロジーを横断する大規模なクラウドトランスフォーメーションへの基本的な移行を推進することで、企業が成功し、クラウド運用による大きなメリットを実現できるよう支援することに情熱を注いでいます。AWS に入社する前は、複数の上級管理職を歴任し、ファイナンスサービス、小売、通信、メディア、製造におけるテクノロジーの提供と変革を主導していました。財務のMBAと機械工学の理学士号を取得しています。

Saurabh Sharma は、AWS のテクニカルおよびストラテジック・シニアカスタマーソリューションマネージャー(CSM)です。彼は企業顧客のクラウド変革を支援するアカウントチームの一員です。この役割において、Saurabh はお客さまと協力してクラウド戦略と運用を推進し、クラウドへの迅速な移行に役立つワークロードの移行とモダナイズ方法についてソートリーダーシップを発揮し、イノベーションの文化を推進します。

Matthew は、北米の自動車・製造部門のカスタマーソリューション部門を率いています。彼と彼のチームは、人、プロセス、テクノロジーにわたる顧客の変革を支援することに重点を置いています。AWS に入社する前、マシューは、自動化と AI/ML テクノロジーを使用してオペレーションプロセスを変革する多くの組織の取り組みを主導していました。

翻訳は、カスタマーソリューションマネージャーの山泉が担当しました。