Amazon Web Services ブログ

データドリブンカルチャーの作り方

本記事は 2019年9月9日に公開された ”How to Create a Data-Driven Culture” を翻訳したものです。

「もしデータがあるなら、データを見ましょう。もし皆さんに意見しかないのなら、私の意見に従ってください。」

― ジム・バークスデール

How to create a Data-Driven Culture

データドリブンな企業について語られるとき、多くの場合、ツールやビッグデータ、データの蓄積/加工/分析をより迅速かつ安価にした技術の進歩に重点が置かれています。これらは全て重要ではありますが、データドリブンカルチャーを企業全体で構築することは、ごくわずかなデータイニシアチブの成功や、特定の事業領域のみでの成功例を上回るために不可欠です。

データドリブンカルチャーでは、意思決定時におけるデータの使用を受け入れます。データを広く利用可能にし、アクセスできるようにすることで、データを企業の戦略的資産として扱います。事業全体から意味のあるデータを収集し、クレンジング (訳註: 異常値排除や欠損値補完、表記ゆれの補正などを行なってデータの正確性を高めること) し、キュレーション (訳註: 組織内外のデータを組み合わせるなどして有益なインサイトが得られるように強化すること) することに重点を置いています。また、学習と改善のための頻繁な実験を促進し、人工知能 (AI) と機械学習 (ML) によるビジネスの差別化には、データの強固な基盤が不可欠であることを認識しています。さらに、データリテラシーのレベルが高く、データはすべての人の業績向上に役立つという信念が根付いているカルチャーです。

組織のリーダー達は、どのようにしてデータドリブンカルチャーを築くことができるでしょうか?

有言実行

データドリブンカルチャーを築くには、経営幹部のスポンサーシップが必要ですが、それだけでは十分ではありません。経営幹部には、単なるサポート以上のことが求められます。意思決定時には常に、データとビジネス判断を明確に結びつける必要があります。これには、不必要なレポートやスプレッドシート、ダッシュボードを容赦なく炙り出し、データドリブンカルチャーの錯覚を作り出すためだけに生成されたものを取り除くことが含まれます。データは目的に基づいて作られるべきであり、データ作成自体が目的ではありません。

経営幹部は、自分の信念に反するデータも積極的に求めるべきです。新しいデータに基づいて方針を変更することは、データドリブンカルチャーを作ろうとするリーダー達の強い決意を組織に示すシグナルになります。

データは力を与えてくれますが、強い感情を引き起こすこともあります。データドリブンカルチャーは、企業全体に透明性と説明責任をもたらします。これは時に不快なものになることがあります。一般的な企業では、他の組織にデータとインサイトを提供する専門のチームがあります。彼らは自分たちが関与せず、データの解釈を制御できなくなることを恐れています。経営幹部は、抵抗と組織の硬直化を克服するために介入する必要があります。

成功を生む組織を作る

それぞれのデータイニシアチブは、他のものに付随するものとしてではなく、一つの製品のように管理されるべきです。そのためには、それを支える適切な組織体制を整える必要があります。私の同僚の Joe Chung が、「データドリブンな組織になるには」(eBook) で、アナリティクス CoE (Center of Excellence) の設立について語っています。これについて、アマゾン社で「シングルスレッドリーダー」と呼んでいるものの観点から考えてみたいと思います。シングルスレッドリーダーは、完全に権限を与えられたリーダーで、与えられた目標の実現を何かとの兼任ではなく、フルタイムの仕事として担当します。( Dave LimpとJeff Wilke から学ぶシングルスレッドリーダーの詳細については、 Forbes のこちらの記事をご覧ください。) データドリブンカルチャーを築くには、そのことに専念している、権限が与えられたリーダーの存在が重要です。

データエンジニアリングとアナリティクスを IT 部門から切り離す傾向が高まっており、それが摩擦を生むこともあります。組織構造にかかわらず、IT 部門はデータイニシアチブを技術的にサポートするだけではなく、もっと重要な役割を果たすべきです。IT部門は、エンドツーエンドのビジネスサイクル、部門をまたがるワークフロー、および多くの有益なインサイトを内包するトランザクションシステムを完全に把握できるという点で、独自の立場にあります。私が CTO になる前は、グローバルな製品、アプリケーション、およびデータチームを率いていました。エンドツーエンドのオーナーシップを持つことで、私のチームは、サイロを解消する優れたデータ分析プラットフォームを構築できただけでなく、トランザクションシステムのギャップに対処してデータをより適切に収集して活用できるようになりました。十分な説明責任を果たしながらも周囲にフェンスが増えないよう、インクルーシブな構造を作りましょう。

データを部門の所有物ではなく、組織全体の資産として扱う

多くの企業では、データサイロは組織のサイロによって厳重に守られています。多くの場合、それには意味があって、組織内のメンバーが特定のデータ要素の意味や変数、算出方法、パターンを理解して正しく使用できるようにしています。これをデータにアクセスできない理由にしないでください。むしろ、こうした「守護者」を「教育者」に変えましょう。各部門のデータ専門家に教育と支援の主導権を握ってもらい、全ての社員がデータを正しく使用して企業のデータリテラシーを高められるようにしましょう。

これらのサイロは、データの相関分析も妨げます。多くのケースで組織は、収益、コスト、在庫、および顧客フィードバックを別々に見ています。これは、営業、財務、オペレーション、およびカスタマーサポートがそれぞれ独自のデータセットを抱え込んで守っているためです。今日のデジタル世界では、組織はデータを利用して顧客体験を向上させ、より良い製品を生み出すために、相関関係を利用してさまざまな手段をより動的に見つけて適用する必要があります。データを「制限」するのではなく、データへの「アクセスを増やす」というゴールから始める、軽量なデータガバナンス構造を構築しましょう。

データを民主化する

データドリブンカルチャーとは、データを使って大きな意思決定を行うことだけではありません。データドリブンカルチャーは、現場で働く従業員の、日々の多くの小さな意思決定を、データを使って行えるようにします。デジタルエコノミーではスピードが重要であり、データを使用して製品のアイデア、設計上の決定、仮説を迅速にテストすることで、ビジネスの俊敏性を高めることができます。高頻度な意思決定でビジネス価値を生み出し続ける企業は、HiPPO (最も給料の高い人の意見) に基づく意思決定をやめ、非中央集権型のデータドリブンな意思決定プロセスへ移行しています。

Epic Games 社と、世界中で 1 億 2500 万人以上のプレイヤーが集まる大成功を収めたゲーム「フォートナイト」を例にとってみましょう。Epic 社は AWS を使用してゲーマーの満足度やインタラクションに関する最新の情報を収集し、そのデータをゲームデザイナーに提供しています。ゲームデザイナーはこのデータを使用して、ゲームをするたびに手作りされているように感じられるマップの自動生成や、導入または廃止する武器の決定など、追加すべき新しい体験について決定を下します。これにより、ゲーマーの体験が向上し、ユーザーコミュニティのエンゲージメントが高まっています。

同じ言語を話す

言語は古くから文化の確立と維持において重要な役割を果たしてきました。共通の言語は、文化を形成する価値観、信念、アイデアを伝えるのに役立ちます。データドリブンカルチャーも例外ではありません。データドリブンカルチャーを築くためには、企業はデータに関する共通の語彙を作る必要があります。そのためには、まず全社が理解する主要なビジネス指標の定義から始めますが、その指標に反映される変数群も特定することになります。企業内の機能はさまざまな成功指標に基づいて測定されることが多いため、これは思ったよりはるかに困難です。

一貫性を保つには、企業全体が説明責任を持ち可視性もある主要な成果指標をいくつか作成します。次に、全体の成果に直接影響する機能ごとに、それらをより小さな指標に分解します。単に「できること」を測定するのではなく、「すべきこと」を測定してください。重要なのは、この指標のリストを短くすることです。それらを特定したら、共通の定義について合意し、全員がそれを理解していることを確認します。一貫性、正確性、およびそれらに関する教育を確保するための継続的なメカニズムを構築することが重要です。

まとめると、データドリブンカルチャーがうまくいくのは、上級管理職が関与し、中間管理職に権限が与えられ、現場従業員が活性化され、サイロが排除されたときです。データドリブンカルチャーは、客観性、透明性、そして革新性をもたらすため、楽しく働ける環境です。成功している組織は、データドリブンカルチャーを大規模に推進することで、データを市場における差別化要因とし、社内を統合しています。

Ishit
Twitter | LinkedIn | Blogs | Email

このトピックについてさらに知りたい

How to Build Data Capabilities, Ishit Vachhrajani

In Search of Silver Bullets: Moving Beyond Dreaming of Data, Phil Le-Brun

The CFO as Catalyst for the Data-Driven Enterprise, AWS Executive Insights

The Power of the Data-Driven Enterprise, AWS Executive Insights

Ishit Vachhrajani

Ishit Vachhrajani

Ishit は、大企業の元 CXO と上級管理職で構成されるエンタープライズストラテジストのグローバルチームを率いています。エンタープライズストラテジストは、世界の大手企業の経営陣と提携して、クラウドによってスピードと俊敏性を高め、イノベーションを推進し、新しい運用モデルを形成する能力により、顧客のニーズにより多くの時間を費やすことができることを理解できるよう支援しています。AWS に入社する前、Ishit は A+E Networks の最高技術責任者として、クラウド、アーキテクチャ、アプリケーションと製品、データ分析、技術運用、サイバーセキュリティにわたるグローバルテクノロジーを担当していました。Ishitは、オペレーションコストを大幅に削減しながら、クラウドへの移行、アジリティ向上のための再編成、統一されたグローバルファイナンスシステムの実装、業界をリードするデータ分析プラットフォームの構築、グローバルなコンテンツ販売および広告販売製品の刷新など、A+E における大きな変革を主導しました。彼は以前、NBCUniversalおよびグローバルコンサルティング組織でリーダーシップポジションを歴任してきました。Ishit は、A+E Networks の「Create Great」と呼ばれる CEO 賞を含むいくつかの賞を受賞しています。彼は次世代のリーダーの指導に情熱を注いでおり、多くのピア・アドバイザリー・グループに参加しています。Ishit は、インドのニルマ工科大学で計装制御工学の学士号を取得し、学業成績により金メダルを獲得しました。

この記事はアマゾンウェブサービスジャパンの大塚信男が翻訳を担当しました (オリジナルはこちら。)