AWS Startup ブログ
【開催報告 & 資料公開】 目指せ日本の西海岸!関西スタートアップの AWS 活用事例
こんにちは。西の Startup SA のはまーん(@track3jyo)です。
2023 年 12 月 12 日に、主に 関西在住のソフトウェアエンジニア・ IT インフラエンジニア(技術者)の方向けに、関西を拠点とするスタートアップ企業の AWS 活用事例に関するイベントを AWS の大阪オフィスにて現地開催いたしました。
約50名の方にご参加いただき、参加者同士の交流も盛んに行われて非常に活気のあるイベントになりました。参加いただいた方、ご参加いただきありがとうございました!
現状、スタートアップ企業の多くが東京に集中している一方で、関西を拠点とする勢いのあるスタートアップ企業もたくさんございます。そんな関西圏のスタートアップ企業が、爆速に新しいビジネスをスケールさせ、さまざまなチャレンジをしていく裏で AWS がどのように活用されているのか?実際にプロダクトに利用されている具体的でユニークなユースケースを共有いただき、参加者にとっての学びや交流のきっかけとしていただきました。
アジェンダは以下の通りで、4 社の事例セッションと、当日申し込みで 4 つの LT がありました。本記事では AWS セッションおよび 4 社の事例セッションを登壇資料リンクとともにその内容をかいつまんでレポートいたします。
<アジェンダ>
- 「スタートアップと re:invent 2023 と THE FRUGAL ARCHITECT」 アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 シニアソリューションアーキテクト 濵 真一
- 「本当に飛ぶ?大阪万博で空飛ぶクルマの安全飛行に寄与する風況インフラ構築事例」メトロウェザー株式会社 取締役CTO 遠藤 善徳氏
- 「経験したことのない、 大規模サービスに挑戦しちゃってた件。」株式会社ギフトパッド 取締役 兼 システム本部 副本部長 田原 啓介氏
- 「Re:lation と AWS」株式会社インゲージ 執行役員CTO 兼 開発部副部長 永田 兆氏 / ディレクター 舘林 秀和氏
- 「在庫の最適化を実現するSaaSデータ基盤の裏側」フルカイテン株式会社 バックエンドグループマネージャー 横田 敦志氏
- 当日 LT 枠 x 4
スタートアップと re:invent 2023 と THE FRUGAL ARCHITECT [資料]
アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 シニアソリューションアーキテクト 濵 真一
私のセッションです。AWS re:invent 2023 の内容をスタートアップ企業のエンジニア向けにかいつまんでお伝えしました。大きく分けて 2 つのパートでお話しました。1 つ目は re:invent 2023 で発表があったアップデートの話です。一週間で 180 以上のアップデートがあった中で、スタートアップ向けに以下の 7 つの観点に絞って紹介しました。
- Amazon Bedrock で新しい基盤モデルが追加で利用可能に
- Responsible AI 系のアップデート
- Zero ETL 系のアップデート
- Amazon QuickSight から Google BigQuery に接続可能に
- Amazon CloudFront KeyValueStore が利用可能に
- AWS Lambda が 最大 12 倍高速にスケールアウト
- AWS Step Functions から HTTPS API 呼び出しがサポート
2 つ目のパートはAmazon の CTO である Werner Vogels のキーノートで紹介されていた THE FRUGAL ARCHITECT をもとに、スタートアップ企業のエンジニアとしてクラウドサービスのコストとどのように向き合っていくべきかを話しました。「テクノロジーはテクノロジーのために作っているわけではない。事業のためにテクノロジーを作っている」というのは、スタートアップが PMF を見つけていく上で常に忘れてはいけない考え方だと思います。コストは非機能要件の一つです。
本当に飛ぶ?大阪万博で空飛ぶクルマの安全飛行に寄与する風況インフラ構築事例 [資料]
メトロウェザー株式会社 取締役CTO 遠藤 善徳氏
メトロウェザー株式会社は、大気中の微粒子の微細な動きをもとに、約 15km 先までの風向や風速を測定する高性能ドップラー・ライダーを開発する京都大学発スタートアップ企業です。NASA との研究開発プロジェクトや 2025 年に開催される大阪・関西万博でも活用されるその⾵況予測シミュレーションやサービスの基盤として AWS をどのように活用いただいているかをお話しいただきました。
スタートアップとしてクラウドにかけられるお金が無かったり、コアロジックの実装等でインフラにかける時間がそもそも無い中で、可能な限りサーバーレスなサービス(AWS App Runner、AWS Amplify Hosting、AWS IoT Core、Amazon Aurora Serverless v2 等)を使うことで、必要な分だけの課金で運用コストをほぼ0 にすることができているとのことです。そして、気象予報のための演算を Amazon EC2 Hpc6a インスタンスと AWS ParallelCluster を使って実現しており、HPC のワークロードとモダンかつシンプルな SaaS ワークロードをうまくMIX した素晴らしいアーキテクチャでした。
また、AWS Control Tower + AWS IAM Identity Center + Microsoft Entra ID という重要だけどビジネス的に差別化に繋がらない作業を、APN パートナーを紹介してもらったことでスムーズに導入できたという話も非常に印象的でした。スタートアップとしてビジネス的に重要な作業が多くあり時間が圧倒的にない中で、こういった差別化に繋がらない重労働を APN パートナー企業と一緒に進めることでスムーズに導入するのは非常に良さそうです。
経験したことのない、 大規模サービスに挑戦しちゃってた件。 [資料]
株式会社ギフトパッド 取締役 兼 システム本部 副本部長 田原 啓介氏
株式会社ギフトパッドは、デジタル地域通貨アプリ「regionPAY」を提供している大阪に本社のあるスタートアップ企業です。regionPAY は全国旅行支援のプラットフォームとして多くの自治体で採用されており、使ったことある方もいらっしゃるのではないでしょうか。本セッションでは、regionPAY の事業立ち上げ時期からビジネスの急成長を AWS とともにどのように切り抜けてきたのかを赤裸々に語っていただきました。
リリース当初は想定以上の負荷の影響や不具合によりサービスダウンが何度か発生したとのことでしたが、負荷計測やモニタリングによるボトルネックの特定・対応、アプリのリファクタリングを繰り返し、今のような設計にたどり着いたとのことです。WEB 三層のわかりやすい設計の中に、データストアを目的ごとに使い分けする等、クラウドのシステムアーキテクチャの基本をしっかりと抑えているのが素晴らしいなと感じました。
また、AWS のプロトタイピング専用のソリューションアーキテクトが 、お客様に代わってプロトタイプを開発・提供することでナレッジ/リソース不足をカバーする『プロトタイピングプログラム』を活用し、 Amazon Redshift Serverless と、Amazon QuickSight をベースとした分析基盤を構築し、レポート作成の負担を大幅に軽減できたともおっしゃっていました。
あと個人的に、「なぜAWSだったのか?」と「スタートアップ‧プロダクトの成功の秘訣」というスライドがすごく好きで非常にいい話でした。
Re:lation と AWS [資料]
株式会社インゲージ 執行役員CTO 兼 開発部副部長 永田 兆氏 / ディレクター 舘林 秀和氏
株式会社インゲージは、様々な形式のお問い合わせに対応できる問い合わせ管理サービス「Re:lation」を提供している大阪に本社のあるスタートアップ企業です。問い合わせ対応業務という、おそらくプロダクトを持つ全ての企業に必要な業務をベースにしたサービスのため、参加者のみなさんが Re:lation というプロダクトそのものに興味津々な感じなのが印象的でした。
セッション前半、Re:lation のアーキテクチャの変遷について CTO の永田氏からお話しいただきました。2014 年のリリース当初から使っていた Engine Yard という PaaS から、ビジネスの成長に合わせて AWS への移行を決めたモチベーションや、またその移行方法など私としても非常に勉強になる話でした。
現在は基本的に全てのワークロードを AWS 上で実行しており、マネージドサービスを中心にご活用いただいています。また機械学習をつかった機能も提供しており、Amazon SageMaker も活用されていました。
セッション後半、クラウド電話という電話機不要でインターネット上のサービスから受電・架電ができる機能について、リードエンジニア兼ディレクターの舘林氏よりデモを交えてご説明いただきました。
Amazon Connect というクラウド上で動くコールセンターサービスを SaaS の電話機能として活用しており、電話での会話の文字起こし等 Amazon Connect を中心に AI サービスとの統合により多機能な電話機能を構築されていて、非常にユニークな設計で学びの多い内容でした。
在庫の最適化を実現するSaaSデータ基盤の裏側 [資料]
フルカイテン株式会社 バックエンドグループマネージャー 横田 敦志氏
フルカイテン株式会社は、小売企業のための在庫分析サービスである「FULL KAITEN」を提供している大阪に本社のあるスタートアップ企業です。FULL KAITEN は EC・店舗・倉庫、全ての在庫を予測・分析し可視化するツールで、アパレル企業を中心に多くの企業で利用されています。
本セッションでは、スタートアップとしてビジネスが成長していく中でどんどん規模が大きくなっていく日次の在庫データの解析に対してどのようにアーキテクチャを変遷させていったか、その技術的なチャレンジについてお話しいただきました。
ユーザーは日々の売価設定や在庫移動の意思決定に FULL KAITEN を利用するため、日次で常に新しい在庫解析が可視化されている必要があります。大きめのアカウントだと約 3.5 億件の SKU 分の在庫データがあり、これを日次でフルデータで外部から連携・取り込み・解析するのはかなり大変です。AWS Glue で PySpark による並列分散処理や Amazon Athena の FederatedQuery を活用した複数のデータストアを跨った解析で、日次のバッチが15時間もかかることもあったお客様も、3時間程度にまで短縮することができたとのことです。シンプルにすごい改善の数字だなと思いました。
また日次バッチをまたないオンデマンド処理の実装等で顧客体験の改善にも取り組まれているのも素晴らしいと思いました。
おわりに
本記事では、2023 年 12 月 12 日に開催した関西を拠点とするスタートアップ企業のAWS 活用事例イベントについてレポートいたしました。改めて、今回セミナーに参加いただいた皆さま誠にありがとうございました。今回のイベントが、関西ひいては西日本のデベロッパーおよびスタートアップ業界を盛り上げていくきっかけになればと思います。
これからも西日本を、スタートアップからどんどん盛り上げていきたいと思います!今年もみなさんよろしくお願いします!
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著者について
濵 真一(はまーん)/ @track3jyo
シニアソリューションアーキテクト
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関西産まれ、関西育ち、関西在住のスタートアップ専任ソリューションアーキテクト。好きなAWSサービスは、AWS App Runner・AWS Step Functions、そしてAmazon EventBridge Pipes。趣味は家の間取り設計とソロキャンです。