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クラウドが各国中央銀行の「デジタル通貨 (CBDC)」を変革する
各国の中央銀行で「Central Bank Digital Currency (CBDC)」の活用が論じられる機会が増えています。今回のブログでは、CBDCに関してAWSより発行されたホワイトペーパーの要点を AWSジャパン・パブリックセクターよりお届けします(Contact Us)。──── 「クラウド × 次世代の仮想通貨の在り方」の掛け算の領域での議論が深まることを通じて、日本の政府系金融機関・民間金融機関のお客様の歩むクラウド・ジャーニーに伴走していきたいと、AWSでは考えています。
目標設定はデザインの「前」に
CBDC の制度設計は、各金融機関が有する「達成目標」にアラインしている必要があります。よく挙げられるのは、1)既存の決済方法への依存の軽減、2)競争力の強化、3)決済システムの回復力の向上──などです。さらに、「プログラム可能な貨幣」など、デジタルエコノミーで新しいサービスを提供するイノベーションを推進し、「条件付き支払い」や「マイクロ・ペイメント」を可能にするという達成目標も考えられます。その他に、「これまでは銀行を利用してこなかったユーザー層」に対する金融面での「包摂」の強化、国境を越えた支払いの透明性とトレーサビリティの改善、違法行為の検出と防止──なども考えられます。
達成目標に応じたアーキテクチャに関する考慮事項
イノベーションや競争を促進する方法の1つは、CBDC ユーザーが中央銀行と直接取引するのではなく、資金の流れ(Fund)と取引履歴(Transactions)の管理権限を有している「商業銀行などの決済サービスプロバイダー (PSP)」 を介して取引する ”Two- Tier (2層)アーキテクチャ”を採用することです(下図)。
アーキテクチャ設計において他に重要な側面としては、1)ソリューションをトークンベース (ユーザーが ID を提供する必要がない) にするか、それとも口座ベースにするか (口座を所有していることを証明する必要がある)、2)少額の現金決済などの取引をユーザーが匿名で行うことができるオフライン機能を備えるべきか、3)清算および決済モデル、4)ネットワークアーキテクチャのオプション、 5)PSP とそのさまざまな役割の間での相互運用性(=Interoperability)────などが考慮されるべき論点として挙げられます。(後述のAmazon AuroraやAmazon QLDBに加えて、図中に記載のあるR3 CordaやConsenSys, Quorumについてもリンク先をご参照ください。)
技術的な選択肢は、広がり続ける
筆頭に検討されるべき重要な問題は、CBDC の所有権限を保持し、トランザクションを処理するうえで「どの技術を使用するか」ということです。そのための最も一般的な 2つのテクノロジーは、「ブロックチェーン技術を使用した分散元帳」と「一元管理されたデータベース」です。
それぞれ、技術的パフォーマンスの点で、長所と短所があります。ブロックチェーン・テクノロジーには、記録の改ざん不可能性 (immutable records)や、「スマート・コントラクト」のサポートなどの機能があります。また、各参加者が運用管理を共同で行うシステムを構築することもできます。商業銀行システムは現在、一元化された台帳管理を広く使用しており、大規模に運用できる実績を持つ定評のあるソリューションがあります。こうしたテクノロジーの選択肢の両方を考慮した上で、組織はコストの削減や高度な機能へのアクセスを実現する Amazon Aurora、あるいは本番環境の不変性(immutability)を提供する Amazon Quantum 元帳データベース (Amazon QLDB) などのクラウドサービスを採用することが増えています。
技術的パフォーマンスの主要基準
セキュリティ、スループット、トランザクションに要する時間、復元力などのパフォーマンス・メトリクスは、CBDC システムの設計において最も重要です。「一元化されたデータベース」であればフットプリントが限られているため、ブロックチェーン・ソリューションよりもセキュリティの脆弱性とサイバー攻撃に対するエントリ・ポイント(=攻撃の対象となる”表面積”)が少なくなります。スループットやトランザクションに要する時間に関して言えば、トランザクションを処理するために参加者が交換しなければならないメッセージの「数」と、決済のためにシステムが従う手順の「複雑さ」は、一部のブロックチェーン・ソリューションにとって不利になる可能性があります
可用性や耐障害性については、AWS クラウドで提供される「一元化されたデータベース」には、マルチ・リージョンでの災害復旧性という利点があります。ブロックチェーンソリューションでこのような回復力を達成することはより複雑な作業が必要となりますが、正しく設計されていれば、災害が発生した場合でも運用を継続できます。これは影響がネットワークの一部にのみに限られ、一元管理型データベースで運用される場合よりも復元力を高める設計とすることができるからです。
ブロックチェーン・ソリューションや、より汎用的な CBDC ソリューションを活用していくためには更なる検討作業が必要ですが、ブロックチェーン・テクノロジーと革新的な実装手法の急速な発展を考慮に入れると、実現の可能性は十分にあります。
クラウドの役割
CBDC ソリューションを成功させるには、決済を実行するための堅牢で有効なインフラストラクチャを提供する必要があります。AWS のスケーラビリティとパフォーマンスは、各国の中央銀行・商業銀行が、高度な脅威要素や人為的エラーに対して安全で、包括的な CBDC ソリューションを提供および管理してゆくのに役立ちます。一連のAWSソリューションは災害の際にも利用可能で回復力があり、ピーク需要に合わせて拡張でき、相互運用性、柔軟性、適応性をサポートします。
AWS は、概念実証(PoC)、パイロット・プロジェクトの実行、ユースケースを用いたデータ分析のテスト (マクロ経済に関するインサイトの獲得、詐欺やマネーロンダリングの検出と予防機能の強化など) もサポートします。
CBDC ソリューションについて詳しくは、2部構成のホワイトペーパー ── Part 1 「中央銀行デジタル通貨: 目的とアーキテクチャに関する考慮事項」、およびPart 2 「中央銀行デジタル通貨: テクノロジーに関する選択肢とパフォーマンス基準」を参照してください。
Tag: Amazon QLDB、ブロックチェーン、CBDC、金融、金融サービス、Amazon Quantum Ledgerデータベース、連邦政府、金融サービス、政府、公共部門
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このブログは、David MacKeith の英文での投稿を翻訳し、アマゾンウェブサービスジャパン株式会社 パブリックセクター 統括本部長補佐(公共調達渉外担当)の小木郁夫が執筆しました。
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