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re:Invent 2020 Liveblog: 公共部門セッションのサマリーをお届けします

AWS最大の年次カンファレンスであるre:Inventでは、数百のセッションが開催され、連日新しい発表が相次いでいます。(re:Inventに参加登録をいただくと、本日紹介するセッションや他のキーノートも含めてオンデマンド視聴が可能となります。)

今回のブログでは、日本時間の2020年12月10日(木)に配信された「From complexity to clarity: The strategic value of AWS」と題された、テレサ・カールソン(Vice President, Worldwide Public Sector and Regulated Industries)のセッションの内容を速報でご紹介します。各国の政府部門・公共部門のお客様にとって、AWSの提供する価値をどういった点で高く評価いただいているのか、AWSが各組織のミッションをどのように加速しているのか、3つの機関からお客様にもご登壇の上、語っていただいています。

クラウドで、はっきりと見えること

開始0分:私は、このre:Inventでの登壇を、毎年のAWS Public Sector Summitと同じくらい楽しみにしています。クラウドを用いて新しいミッションを推進していくのは、本日参加いただいている、一人一人のオーディエンスです。クラウドの力で、世界にインパクトをもたらしていきましょう。

開始2分:今日のテーマは「Clarity with Cloud(クラウドで、はっきりと見えること)」。コロナウィルスが世界を席巻したこれまでの9カ月で、世界は明らかに変わりました。今後の9カ月で“さらに“変わるのも、確実です。イノベーションのペースは、加速し続けています。Complex(複雑)な状況から、シンプルに、データ・ドリブンでインサイトを引き出し、「Clarity(明快さ)」を自身のミッションにもたらす事例について、お話していきます。

開始3分:「ニューノーマルをデータで理解する」──この9か月間、世界中の研究者が、コロナウィルスの分析・研究に取り組んできました。AWSは「AWS Diagnostic Development Initiative (DDI)」によってそれを支援してきました。カリフォルニア大学をはじめ、ゲノム研究の知見を活かしたコロナウィルスの分析も進んでいます。

コロナとの闘いとオープン・データ

開始4分:AWSの顧客のなかには、80%ものデータ分析アプリケーションを自動化した事例もあります(Fin-tech分野でAWSを活用するスタートアップのKabbage社)。それも、部分的にではなく完全な自動化です。データを集めることが重要なのではありません。そこからクイックに洞察を得ること(Fast Insights from your Data)が重要なのです。

開始6分Amazon Rekognition, Amazon Kendra, Amazon Forecast, AWS Lake Formationなど、AWSでは公共機関のユーザー皆様がインサイトを迅速に引き出すためのサービス群を充実させています。データの加工が面倒だという懸念も多くいただきますが、AWSのメッセージングはシンプルです:「Bring your Data “As Is”=あなたのデータを、そのまま持ち込んでください」。過度なデータの加工の手間をかけず、そのままクラウド上に持ち込んでよいのです。

開始8分CORD-19 Search Engineは、世界中で発表されているリサーチ・ドキュメントの検索に役立ちます。厳密に一致するキーワードしか受け付けない検索とは異なり、自然言語での質問ができるサーチエンジンです。ここでも、Amazon Comprehend Medicalが活用されています。たとえば、「コロナに感染すると、どんな症状が現れるのか?」「いつからウィルスは観測されはじめたのか?」、──こうした質問に対し、自然な言語表現での回答を得ることができます。

開始11分:オープンデータの重要性についても強調させてください。「Registry of Open Data」という取り組みを、AWSでは2018年から進めています。 今年、ヒトゲノムの解析データセットである「Sequence Read Archive」が、AWS上で新しく公開されたことは、大変うれしいことです。これは、人類が保有するもっとも古いデータセットの1つであり、そして遺伝子・DNA解析の研究に大きなインパクトをもたらすデータセットです。いまや200を超えるオープン・データセットがAWS上で登録・公開されています。

データ・アクセシビリティの民主化

開始13分:それでは、カスタマーに事例を語ってもらいましょう。

Naomi Allen(Chief Scientist, UK Biobank): UK Biobankでは、公衆衛生分野でのデータセットを公開しています。50万人もの人間がデータ収集の被験者として参加してくれました。これは、公開されている最大規模のデータセットです。人類共通でパンデミックや疫病に立ち向かう際に役立つデータを広く共有することで、たとえば、「なぜ特定の人が特定の病気になり、そうならない人もいるのか?」と言った問いに答えることが可能となります。ライフスタイルや遺伝子の観点からの大規模な比較調査を行うことでしか、上記のような問いには答えられません。データのサンプルを世界中とシェアするのです。
AWSを活用することで、史上はじめて「More research, faster than ever before」が可能となりました。数年後には50ペタバイトを超えると見込まれる大量のデータを、ダウンロードやメール添付などの旧来のやり方でやり取りすることは、もはや不可能になっています。17,000人もの研究者を、英国に限定せず、グローバルに結び付けるツールとしては、AWSしかあり得ませんでした。AWSに対しUK Biobankは、Cost effective,  Flexible, そしてScalableであること──この3つを高い水準で満たすことを求めました。それだけでなく、150万ドル相当のリサーチ・クレジットをAWSはわれわれに提供すると約束してくれました。初期投資や入会費用も不要なデータセットは、発展途上国などの資金に乏しい研究者にも充実したデータセットへのアクセスを可能とします。研究がAWSによって加速されることは、明白です。たとえば、17,000人の研究者全員にコンタクトをしようとすると、それまでは2~3日かかり切りになっていたメール送信が、たった15分で済むようになりました(Amazon Simple Email Service)。各国・各機関の研究者、そして民間の知見とを結びつけることがクラウドで可能となったのです。これが、データへのアクセスの民主化(Democratization)です。

開始20分:データへの「アクセスの容易さ」によって研究の成否が決まる時代です。加えて、Flexibility, Security , Scalabilityといった観点でも、AWSのサービス群の性能は突出しています──この点を再度、強調しておきたいと思います。

防衛・宇宙分野でもクラウド移行が明確な潮流に

開始21分:AWSは、「Impacting Complex Missions(複雑なミッションに対しても、インパクトをもたらすこと)」を目指しています。複雑なミッションの典型は、Defense(防衛) / Intelligent Community(諜報機関・捜査機関) のミッションです。AWS は、迅速に、ゆるぎなくお客様へ価値の訴求を行います(Acted Fast and Never Wavered)。2011年に にGovCloudを開始して以降、ITAR準拠なサービス群を拡充する、あるいは同時に、法律・規制・セキュリティ&コンプライアンス フレームワークのいずれの観点でも高い要求水準を満たし続けることで、今では唯一、2つのGovCloud Regionを擁する企業となりました。

開始23分:米国の陸・海・空軍はAWSの主要な顧客です。海軍では、「Navy Enterprise Resource Planning System」をAWSに移行しました。それも、10カ月前倒しのスケジュールで、AWSへの移行を大規模に完了したのです。GovCloudへの投資やサービスの拡大は、顧客である皆さんが要望してくれたその結果であり、感謝したいと思います。

開始24分:他にも、インサイトを得るための基盤整備に取り組む顧客を、AWSは支援しています。各業界のクラウド化・デジタル化を応援する(Transforming Industries)ことは、AWSの使命のひとつです。普及していく5Gをどう活かしていくか、各産業が取り組みを加速し始めています。AWSの各種分析サービスを活用しながら、NASDAQはデータレイクを構築するなど、積極的な取り組みをすすめています。

開始25分:こうしたフロントランナー(UK Biobank; Navy; NASDAQ)の取り組みから広く教訓を得ていくためにも、AWSは「AWS Executive Education」のイニシアチブを加速していきます。従来、このMBAコース型のプログラムは政府高官向け限定のものでしたが、テレコム業界・エネルギー業界などの幹部も対象として拡充していきます。

開始26分:AWSはこの夏に「Aerospace & Satellite(航空・宇宙衛星)」部門の新設を発表しました。それではここで、天候予想、自然災害の状況把握などのソリューションを展開するPayam Banazadeh(Capella Space社CEO)に登壇してもらいましょう。

 ── われわれ人類は、自分たちの惑星を効果的・継続的・そして信頼性を保った手段でモニターする方法をこれまで持っていませんでした。この惑星の75%は、いまだに「不可視」の状態です。Capella Space社は、全天候対応型の小型衛星により、惑星のあらゆる地点に対するイメージ画像を提供しています。パズルを組み合わせるように、地球という惑星についての理解を深めることが可能となりました。従来、衛星画像を入手するだプロセスは、時間を要し、手間がかかり、面倒なものでした。AWS Grandstationがもたらされる以前は、衛星画像の入手までに24時間以上のラグがあることが通常の風景でした。この21世紀という時代は、スマホでの検索には数秒、フードデリバリーには数分、米国の国内旅行は数時間で行ける時代です。それなのに、衛星画像の取得に、24時間以上かかるなんて、馬鹿げているとわれわれは考えました。Amazon EC2、Amazon SageMakerといった、強力な演算リソースや機械学習ツールをAWSが提供してくれるため、高速に画像処理・解析をすることも可能になっています。宇宙から届くデータは暗号化が施されています。AWS GovCloudに準拠したセキュアなサービス群を用いて、この地球をモニターし、異常値をトラックすることが可能となっています。データは全て、通信経路の途中でも、あるいはその両端点においても、マルチレイヤーで暗号化されます。人類の活動に起因する災害、あるいは、火災などの自然災害の両方を迅速に把握し防ぐことで、地球環境を守るテクノロジーをわれわれ人類は手に入れたのです。災害対策だけではなく、都市計画の合理化・可視化、アマゾン流域の森林破壊の防止、物流サプライチェーンの効率化、パンデミック対策での医療資源の効率配分などの政策課題にもこの衛星・宇宙分野のAWSのサービスは役立つことでしょう。我々の惑星へのリアルタイムな把握の手段(Timely Observation)を、われわれCapella Space社とAWSは提供していきます──それも、前例のないスピードで。

Re-Skill, Up-Skill, トレーニングにコミット

開始33分:次のメッセージは「市民とコミュニティに投資する(Investing in people and communities)」です。コロナ禍において、 多くの人が解雇され、生活に困窮しています。教育分野でも同様です。クラウドは、学生や労働者のリスキル、スキルアップ、トレーニングに対しても重要な役割を果たし、変動する経済活動にキャッチアップするための重要なツールとなります。

開始34分:教育現場では、コロナ禍で12億人もの学生がリアルな教室から物理的に「締め出される」ことになったと試算されています。各国は、AWSを活用してオンライン教育を加速させました。

  • エジプト教育省は、250万人もの学生向けに、7,600万Page View に達する教育コンテンツの配信を行いました。
  • ブラジルでは初等教育(K-12)に限っても、130万人もの学生にオンライン教育が施されました。
  • 米国のEd-Tech企業、Blackboard社はこの9月以降に限っても、160万人の学生のデジタル学習をサポート。
  • クラウドを活かしたキャリア形成に直結するか(Connecting to jobs)という観点も重要です。オーストラリアでも初のCloud Computingの学位を授与するSwinburne University大学のようなフロントランナーが表れています。
  • AWSは、教育・トレーニングの加速のためにパートナー各社と共同戦線を張っています。「Stackable(積み上げ可能)」な教育の在り方へと転換すべく、スキルアップとキャリア形成の同時達成を目指しているのです。世界500カ所以上の Pearsonセンター(*同社はAWSのパートナーです)でトレーニングや試験を受けることができます。そこで得た資格は、英国を含め、世界60か国以上の大学で正式に認定されるものです。
  • 上記のようなイニシアチブを、米国だけでなく、スペイン、インド、台湾、バーレーンなど多数の国で加速させています。

クラウドは中小企業、マイノリティにも機会を開く

開始36分:多くの国の産業構造は、中小企業の活動によって支えられ、中小企業こそが雇用の受け皿となっています。英国政府のクラウド調達のメカニズムであるG-Cloudを例に説明しましょう。約10年前、政府のIT調達市場の80%は、18社のベンダーによって占有されていました。わずか「18社」、です。この数字は、2019年には”150社”にまで拡大しました──その多くはAWSなどクラウドを活用したサービスを提供する中小企業であることを強調しておきたいと思います。

開始38分:本日ここで、女性やマイノリティが再生エネルギー分野でのビジネス展開することを、AWSが支援していく新しいイニシアチブについても、発表させてください。AWSはAmerican Council on Renewable Energy (ACORE) と共同で、新規参入をする女性・マイノリティの起業家やビルダーたちがコストベネフィットを追求するためのサポートを行います。例えば、リーガル・レビューやファイナンス面での助言などを受ける際のスポンサーとなるなど、多面的なサポートを行います。

この惑星で最大の産業=農業をクラウドで近代化

開始40分:小規模・零細な農業従事者(Small Scale Farming)は、経済成長の主要なドライバーであると言われています(世界銀行)。世界銀行によれば、貧困層に属する成人の65%は農業に従事しているとも言われており(2016)、また、農業が25%のGDPを占める国もあります。ここで、Wefarm社のCTOであるAdam Neilsonに「クラウドがどのように農業を変革するか」、語ってもらいましょう

Adam Neilson ── 皆さんの食卓に並ぶ70%の食料は、10億人もの農業従事者、それもかなり小規模な零細農家によって生産されています。この産業を近代化するには、どんな問題を解決するべきでしょうか? 知識?経験?寄付金の不足?──いいえ、コネクティビティこそが、キードライバーなのです。物理的な距離が数千マイル離れていても、あるいはインターネット環境が無くても、クラウド上にデータを集め分析・共有することで、農業という産業を圧倒的な速度で近代化することができるのです。私(=テレサ)自身、農業が盛んなコミュニティの出身だからこそ、このイニシアティブは非常に重要であると自信を持って言えます。
クラウドが提供する機械学習により、とある国の農業の現場から得られたインサイトを世界中で共有することができます。そのためのネットワーク、デジタル端末も含めたプラットフォームをWefarm社では提供しています。データは、決して整った状態では届きません。それを整え、分析・解釈するツールとしてクラウドが最適です。マーケットプレイス上に得られた知見を掲載することができます。興味を共有する農業従事者同士が繋がり、カウンターパートを見つけ、製品にクイックにアクセスすることができます。「規模の経済」を活かして、仮想的に巨大な購買力を発揮することで、農薬や耕作機械などの資材、農業向けのアドバイザリーサービスなどを圧倒的な安価で集団購買することができます。300万件超の会話が、Wefarm社のマーケットプレイス上で交わされました。Wefarm社のプラットフォーム事業は成長し、開始当初の数千人という参加人数から、いまでは250万人の農業従事者が参加するに至りました。クラウドがもたらすスピードにより、クイックに色々なトライをすることができるのです。AWSとWefarm社の取り組みは、グローバルな食糧サプライチェーンの安定に貢献しています。

パブリックセクター部門トップから4つのお願い

開始45分:AWSにパブリックセクター部門が創設されて、10年になります。これまでパブリックセクター部門では、「革新的なイノベーションをもたらす(Pave the way for disruptive innovation)」、そして「この世界を良くする(Make the world better place)」というテネットを掲げて活動してきました。ここで、このre:Invent では毎年恒例の「Giving Back(お互いに与え合う活動)」について喋らせてください。 私は最近、2件の寄付を行いました。まず1つめは、「飢餓を撲滅する活動」に取り組む国連のWorld Food Programです。8,000万人超に対し、食料援助が行われました。また、私は Three Squareというフードバンクのラスベガス支部へも寄付をしました。活気に満ちていたラスベガスという街が、コロナによって如何に深刻な打撃を受けたか、皆さんもご存じのはずです。 皆さんにもぜひ、「Giving Back」をお願いします。

開始46分:さて、ここまで聞いていただき、ありがとうございました。締めくくりとして、私から「4つのお願い」があります。

  • 【1】: 政府部門・公共部門の皆さん、もう用意はいいでしょうか? 大胆なビジョンをかかげ、実行するタイミングは今です(Go Dos, set a bold vision)。机上のプランニングにとどまらず、ぜひ、実行に移していく、そして自らのミッションを再度思い描きなおす(re:imagine)ことを各国公共部門の皆さんに呼びかけたいと思います。
  • 【2】: 次に優先度を上げていただきたいアクションアイテムは、「あなたのデータの中の価値を引き出すこと」です(Find the value in your data)。集めて困るデータというものは、ありません。そのデータから、インサイトを引き出すためのツールがクラウドにはそろっています。
  • 【3】: 次に呼びかけたいアクションは、「スキルによって、この惑星に住む人々をエンパワーすること」です(Empower people with skills)。500を超える各種トレーニングが既に用意され、世界中で提供されています。
  • 【4】: 皆さん、ぜひ善意や親切をお互いに施し合う世界をつくっていきましょう(Be kind and Pay it Forward)。この時期、どうか家族や親密な方との大切な時間を過ごしてください。ビデオコールで会話するのでもいいでしょう。来年はぜひ、ラスベガスで皆さんにお会いしたいものです。(終わり)

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日本の公共部門の皆様へのご案内

AWSでは、政府・公共部門、パブリックセクターの皆さまの各組織におけるミッション達成が早期に実現するよう、継続して支援して参ります。
今後ともAWS 公共部門ブログで AWS の最新ニュース・公共事例をフォローいただき、併せまして、「農水省DX室」「気象庁の衛星ひまわり8号のデータセット」や「第二期 政府共通プラットフォーム」など日本の関連機関との取り組みを紹介した過去のブログ投稿に関しても、ぜひご覧いただければ幸いです。

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このブログは、アマゾンウェブサービスジャパン株式会社 パブリックセクター 統括本部長補佐(公共調達渉外担当)の小木郁夫が執筆しました。

 

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小木 郁夫
AWSジャパン パブリックセクター
統括本部長 補佐(公共調達渉外)
BD Capture Manager
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