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日本テレビ放送網株式会社 自動モザイク入れソリューション BlurOn における AWS の活用
映像制作におけるモザイク入れ作業の課題
テレビで放送される番組の映像制作には様々な工程や編集作業があります。編集作業の中でも映像編集者にとって大きな手間になっているのが個人情報保護・プライバシーの観点から人の顔などにぼかしを入れるモザイク入れ作業です。映像の 1 フレーム ( 29.97 fps であれば 1 秒間に 29.97 枚 のフレームが存在 ) ずつモザイク入れを行うため、 1 分間の映像に対して 60 分以上の作業時間が掛かることもあります。そして報道番組、バラエティ番組などモザイク入れ作業が必要となる番組は日々数多く放送されています。報道番組においては、取材・収録から放送までの時間が限られ、モザイク入れ作業には迅速な作業時間も求められます。しかし、モザイク入れは映像制作にとって重要な反面、単純作業になりがちで本来であればクリエイティブな作業( AI 等に任せられず人間が行う創作的な作業)に時間を使いたい、というのが映像編集者の方々の声でした。
これまで自動モザイク入れのソリューションはありましたが、顔のトラッキングが1名であったり、判定精度に満足がいかなかったり、編集機のマシンリソースを求められるなど、制約や課題がありました。本記事では、これら課題に対処した SaaS ソリューションとして日本テレビ放送網株式会社(以下、日本テレビ)が提供している「 BlurOn ( 読み:ブラーオン ) 」における AWS の活用についてご紹介します。
自動モザイク入れソリューション BlurOn
日本テレビはモザイク入れ作業の負担を軽減し、映像編集者がクリエイティブな作業に時間を費やせるよう、株式会社 NTT データ(以下 NTT データ)の協力のもと、自動モザイク入れソリューション BlurOn を開発・リリースしました。
頭部検出(左側)と全身検出(右側)
BlurOn は NTT データが開発した AI 技術を用い AWS 環境で稼働する SaaS です。モザイク入れの対象として複数の顔、頭部(後頭部も含む)、全身、車のナンバープレートを検知できます。ユーザーは Adobe After Effects プラグインとして BlurOn を利用でき、編集機のマシンリソース消費する事なく、自動モザイク入れ作業を実現できます。プラグインとして利用できるため、既存の Adobe After Effects を使った番組制作ワークフローを変更する必要はございません。
BlurOn は AWS のサーバーレスアーキテクチャを活用し構築されています。
NTT データITサービス・ペイメント事業本部 スマートライフシステム事業部 メディア統括部 サービス企画担当 北村卓也氏は次のように述べます。「エンドユーザーからのモザイク入れリクエストのタイミングや頻度が予測できない中、スケーラビリティを保ち、運用コストを下げるため、AWS のマネージドサービスを組み合わせサーバーレスなシステムを構築しました。静的 Web サイトを提供する Amazon S3、認証機能としての Amazon Cognito 、AWS Lambda / Amazon ECS におけるジョブ処理を実現し、各機能部を疎結合にする事で機能の拡張性 / 管理性を向上させております。また、サーバーレスアーキテクチャを採用する事でモザイク入れリクエストが無い状態の運用コストを抑えつつも、高精度(後述)なコンテンツ検出技術をエンドユーザー様へ提供する事が可能となりました。」
BlurOn アーキテクチャ
BlurOn のアーキテクチャを以下に示します。
ユーザー環境から BlurOn へのアクセスは Adobe After Effects プラグインを通じて行われ、Amazon Cognito でユーザー認証が行われます。ユーザー認証後、Amazon API Gateway / AWS Lambda でモザイク入れ(境界検出)リクエストを受け付けます。対象コンテンツを Amazon S3 へアップロード後、Amazon SNS でイベント通知が行われ、Amazon SQS で一旦キューイングされます。キューイングを挟む事でモザイク入れリクエストが多数発行されてもリクエストを捌く事が可能となります。Amazon SQS 後段の AWS Lambda は境界検出処理を行う Amazon ECS のタスクを起動します。Amazon ECS では Amazon S3 よりコンテンツを取得し、境界検出処理を行い結果を Amazon S3 へと保存されます。イベントステータスは Amazon DynamoDB に保存されます。ユーザーは検出結果を Adobe After Effects から Amazon API Gateway / AWS Lambda 経由で Amazon S3 より取得します。ユーザー体験は一貫して Adobe After Effects 上を離れる事なく完結されるため、クラウドを意識する事なくモザイク入れ作業が行えます。
利用者の声
株式会社日テレ・テクニカル・リソーシズ( NiTRo )
「サッカーの観客や学芸会の映像・渋谷の交差点の映像など、人が多く出てくる映像に試験的にBlurOnをかけてみたところ、一人一人の顔に全て細かくモザイクが入っていたのが驚きました。人が多くいる映像の場合には帯状のモザイクをかける場合もありますが、そうすると背景が見えなくなり、どこで撮っているのかロケーションの雰囲気が分からなくなる場合があります。しかしBlurOnでは人と人が前後に被っている群衆の映像などでも、個々の人に独立したマスクがかかっていました。BlurOnでかければ個人情報の保護に配慮しつつ、周りの雰囲気が感じられるのは良いと思います。また、自動検出できる部位が顔や頭部だけでなく、身体全体も検出できる点は良いと思います。」
株式会社イカロス
「 BlurOnではどんなに大人数でも一気にマスクレイヤーを作成できてモザイクがかかるのでかなり作業が速くなりました。例えば、モザイク入れの多い番組で約 96 時間( 4 日間)程度かかっていたモザイク入れ作業が 50% 程度の約 48 時間に削減されました。BlurOn が無いと最初から全部自分でやらないといけないので精神的にはかなり救われました。また、事前にモザイク処理の設定が細かく指定できるので便利です。」
おわりに
BlurOn の精度確認として「街頭インタビュー映像」、「人同士が交差する映像」、「カメラの動きが激しい映像」に対しモザイク入れ処理を行いました。その結果、自動処理された顔 / 処理すべき顔の割合は約 97.9% になりました。更にモザイク入れはフレームごとに行いますが、同様のコンテンツを使って精度確認をしたところ、自動処理されたフレーム数 / 処理すべきフレーム数の割合は約 99.7 %になりました。冒頭で述べた通り、手動でのモザイク入れ作業は1分のコンテンツに対し 60 分以上掛かる事もありましたが、BlurOn の精度を考慮すると最大9割程度の時間を削減する事が可能になります。
また、昨今導入が進むクラウド編集環境 ( Amazon EC2 や Amazon WorkSpaces へ映像編集ソフトウェアをインストールし、作業場所に捉われず、素材を持ち歩くことなくセキュアに映像制作業務を行える環境 ) と組み合わせる事により、クラウド編集環境からインターネット回線を介さず BlurOn へとコンテンツを渡す事が可能になります ( クラウド編集環境と BlurOn が AWS 環境に存在するため AWS ネットワーク内に通信が留まる ) 。映像制作において放送前のコンテンツ取り扱いは閉じた環境で行う等、厳重な管理下で行われますが、そのような要件に対しても BlurOn とクラウド編集環境の組み合わせで対応する事ができます。
導入にご興味のある読者の方は、下記の参考リンクの製品紹介のページからお問い合わせください。本記事が映像制作業務、関連業務を行われているお客様、映像編集者様の働き方改革の一助となれば幸いです。
また、AWS のメディアチームでは、映像制作に関連する様々なソリューションのご紹介や、AWS 上での新たなメディア向けソリューションの立ち上げなどのご支援も可能ですので、そのようなご要望があれば、下記の AWS のメディアチームの問い合わせ先からコンタクトいただけますと幸いです。
参考リンク
自動モザイク入れプラグイン BlurOn [製品紹介] [事例紹介]
株式会社 NTT データ 映像編集における自動モザイク入れソフトの提供を開始
AWS 勉強会 第十一回「クラウド編集 / クラウドレンダリング」
【Edit in the Cloud】AWSで編集環境を構築する方法
AWS Media & Entertainment Blog (日本語)
AWS Media & Entertainment Blog (英語)
AWSのメディアチームのへ問い合わせ先: awsmedia@amazon.co.jp
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この記事は SA 金目、SA 鈴木が担当しました。