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生成 AI で加速する e コマースの変革 その 1 – EC 業界における 4 大ユースケース紹介

みなさんこんにちは。シニアソリューションアーキテクトの堀内です。私は、日頃 e コマース(以下 EC ) 業界の企業様を支援しております。

EC におけるトレンドについてよくお客様とディスカッションをしますが、2024 年は生成 AI の関連の話題が多くトレンドになっています。 NRF2024re:Invent 2023 等グローバルの動きを見ると EC 業界で具体的な業務改善や顧客体験向上として生成 AI の活用が始まっており、日本でも多くの企業様が興味を持ち始めています。

AWS では本業界におけるユースケースの整理とその実装を支援しております。 その一環として AWS Summit Japan 2024 のブースでは、活動を通して得られた代表的なユースケースに対して、Amazon Bedrock を利用したサンプル実装のデモを展示し、多くの方に足を止めていただきました。

本ブログでは以下 2回に分けて、EC業界における生成AI活用ユースケースについて解説をしていきます。

その 1:EC 業界における課題と生成 AI ユースケースによる解決案の整理
その 2:ユースケースの実装例として AWS Summit Japan 2024 で展示した Amazon Bedrock デモの解説

具体的な Amazon Bedrock による実装デモの解説に興味がある方は、以下その 2 のブログリンクを御覧ください。
https://aws.amazon.com/jp/blogs/news/aws-summit-2024-retail-cpg-ec-genai-bedrock-demo-architecture/

EC 業界における課題と生成 AI による解決

国内外の取り組みを整理すると、生成 AI を利用して解決すべき課題の方向性は大きく2通りです。

A. 差別化に繋がらない労働の削減
B. 顧客体験のパーソナライズ

これら 2 つの方向性について、実際の EC 業界の業務フローにおける課題を整理し、Amazon.com を含めた国内外事例から 生成 AI がどのように課題を解決するのかを整理しました。

図1 EC 業界における実績のある生成 AI ユースケース

A. 差別化に繋がらない労働の削減

EC 市場は拡大をしている中、商品の企画から販売に至るまでの負荷が大きな作業は効率化が求められます。 EC 業務担当者の 2 割が「運用リソース、サポート不足を課題に感じ」ており、4 割が「リソース不足で CRM 施策を実行できていない」との調査結果もあります。

例えば EC 業界において“撮影”、“採寸”、“原稿(商品説明用)”の頭文字をとった、通称「ささげ」と言われる業務がありますが、アパレル業界を中心にささげ業務は負荷が大きく効率的な実施が重要であると言われています(アパレル業界では特に色やサイズでSKUが異なる等商品種類が膨大かつ、シーズンに応じても種類が増減するため)。(※1)

企画から販売に至るまでの現場の課題の中で以下 3 つのユースケース解決が生成 AI で取り組まれ始めています。

1. 製品デザイン案生成

製品デザインのプロセスでは、アイデアの具現化に膨大な時間と労力を要し、アイデア発想から実際の製品デザインに落とし込むまでの試行錯誤の繰り返しは、コスト増大にもつながります。また、市場ニーズの急速な変化に対応しきれず、競合他社に後れを取るリスクも高まっています。

生成 AI を活用することで、デザイナーは瞬時に多様なアイデアを視覚化し、迅速な意思決定を行えるようになってきています。さらに、生成 AI に対して、自社で持つ独自のデータで学習することで、自社の特徴を反映した革新的なデザインの創出も可能になっています。これにより、製品開発サイクルが大幅に短縮され、市場投入のスピード向上が期待できます。また、AI が提案する予想外のデザインが、デザイナーの創造性をさらに刺激する効果も見られています。

2. 商品説明文生成

私は日頃多くの EC 業界の企業様とお話をしていますが、上述の「ささげ業務」の作業負荷に悩まれているお客様は非常に多いです。商品説明文がメーカー仕入れ商品で不足していたり、EC サイトに出品するのに必要なタグやカテゴリ情報が不足していたりし、そこを補足する作業に多くの工数が割かれます。扱う商材/SKU数が増えていくことで作業負担は増加し、販売開始まで時間を要してしまうことで機会損出にも繋がります。

LLM(大規模言語モデル)により、商品画像やタイトル, 素材情報等の今ある情報と、商品情報として用意した項目や過去のサンプルを指定することで、商品説明文の生成が可能になります。

Amazon.com でも販売者向けに商品説明文自動生成ツールを発表を行っています。

3. 商品背景画像生成

同様に商品の出品時の画像、あるいは広告画像やキャンペーンサイトのランディングページ等、商品販売に際し画像を用意する必要があり、そのためのスタジオや撮影者の確保、デザイナー工数や作成までのリードタイム等、画像の用意にも課題があります。これはシーズンごとやキャンペーンごとに違った画像を用意したい要望がある場合もあり影響が大きいです。

画像生成モデルの既存画像の一部のみを修正する技術(inpaint)により、商品画像の背景部分のみを修正し、季節やキャンペーンのコンセプトに合わせた商品画像生成が可能です。 また、HTML等のコンテンツファイル作成も LLM により可能なので、ランディングページも含めた生成も可能です。

Amazon Ads でも商品広告画像の背景生成ツールを発表しています。

B. 顧客体験のパーソナライズ

レコメンドエンジンや Marketing Automation 等により取り組まれている方も多いかもしれませんが、ただ商品を売るだけでなく多様なチャネルでユーザーに適切にアプローチし、顧客の購買体験をパーソナライズすることで、ユーザーの継続的な利用を促すことができます。
マッキンゼーによると、「71%の消費者は、企業がパーソナライズされたインタラクションを提供することを期待している」とのことですし、Baymard Institute によると、「全 EC サイトのうち 61% が、 ユーザーの検索語句にそぐわない検索結果を表示している」ため、従来のキーワード検索だけでない購買体験が求められています。(※2,3)

4. 商品検索/比較アシスタント

生成 AI を利用することで、商品カタログやユーザーペルソナを踏まえた商品の提案や比較が可能ですし、画像含めたマルチモーダル検索やセマンティック検索(意味合い検索)の実装も比較的用意になっています。これにより従来の検索ベースでの購買体験をパーソナライズされた体験に変革していくことが可能です。

Amazon.com でも Rufus というショッピングアシスタントを発表しており、ショッピングのニーズ、製品、比較に関する顧客の質問に答え、コンテキストに基づいて推奨事項を作成すると紹介されています。

自社や利用者の課題に照らして、生成 AI ユースケースを特定しましょう

上記 4 つのユースケースは既に AWS 上で取り組まれているお客様も数社いらっしゃり、実際にプロダクトローンチまで3ヶ月で取り組まれた事例(※4)もあります。
どこから始めるか悩んでいらっしゃるお客様は、まずはこれらのユースケースについてご検討されることをお勧めしております。

これらのユースケースの中から、自社や利用者の課題を解決するユースケースを特定することが難しいと感じられる方がいらっしゃるかもしれません。
そういったお客様のために、 AWS が無償でユースケースを特定する Workshop (ML Enablement Workshop)を公開しています。この Workshop はお客様自身で実行可能なものとなっています。ぜひ一度ご参照ください。 https://github.com/aws-samples/aws-ml-enablement-workshop

このブログをご覧になってもう少し内容を詳しく聞きたいというお客様がいらっしゃいましたら、AWS担当営業もしくはこちらの窓口までご連絡頂ければと思います。

※1: p31 ささげ業務 : 経済産業省「令和元年度 内外一体の経済成長戦略構築にかかる 国際経済調査事業」 https://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2019FY/030619.pdf

※2: 自然言語処理で e コマースサイトにおける検索精度を向上させ収益改善に繋げる https://aws.amazon.com/jp/blogs/news/revive-lost-revenue-from-bad-ecommerce-search-using-natural-language-processing/

※3: Amazon Personalizeと生成系AIでマーケティングソリューションを高度化する https://aws.amazon.com/jp/blogs/news/elevate-your-marketing-solutions-with-amazon-personalize-and-generative-ai/

※4: ポイントモール「ハピタス」で生成AIを活用した次世代広告検索機能をリリース | 株式会社オズビジョン https://www.oz-vision.co.jp/news/835/

生成AIを活用した次世代広告検索機能を2024年7月1日にリリース アマゾン ウェブ サービス(AWS)からの生成AI活用のためのユースケース確定ワークショップや、プロトタイピングのためのワークショップなどの支援を受け機能実装を行いました。

次回はデモ解説です

次回のブログでは、今回ご紹介した EC 業界における代表的な生成 AI ユースケースについて、Amazon Bedrock を利用した具体的な実装例として AWS Summit Japan 2024 で展示したデモの解説を行います。
ぜひこちらもご参照いただければ幸いです。
https://aws.amazon.com/jp/blogs/news/aws-summit-2024-retail-cpg-ec-genai-bedrock-demo-architecture/


ブログ著者

本ブログ著者:

堀内 保大 (Yasuhiro Horiuchi) / @ka_shino_ki
アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 シニアソリューションアーキテクト

Web系の特にEコマース関連のお客様をビジネス起点から技術面まで横断的に支援しています。
好きなサービスは、AWS Fargate でコンテナに関連したサービスに興味があります。趣味は旅行とスノーボードです。