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流通小売・消費財業界でエシカルな商取引への道筋を導く7つの技術
エシカルな商取引とテクノロジーは、企業が生き残っていくために不可欠なものです。流通小売と消費財業界では、企業がステークホルダーに約束するということは、ただそれを期待されているという以上の意味を持っています。もしうまくやり遂げることができたら、競争的な優位性をもたらします。テクノロジーを使いこなすことで、ただ単に生き残るのか、繁栄していくのかという大きな違いを生むのです。そして、よい行いをすることに注力するとき、テクノロジーがその初動を加速します。では、テクノロジーがどのように小売や消費財の事業者の皆様を未来に導くことができるかをご紹介する前に、エシカルな商取引 (ethical commerce) について定義しましょう。
エシカルな商取引とは?
企業がよい行いをする能力を表わすのに使われている言葉はたくさんあります。多くは同じ事を表わしているように思われますが、それぞれの用語は固有の意味と歴史を持っています。それらの言葉は同じように使われるべきではありません。
ビジネス上の倫理を表わす最初の用語は、corporate social responsibility (CSR, 企業の社会的責任) で、企業がステークホルダーに対して社会的な説明責任を果たすために様々な取り組みを進めました。しかし、CSRは放任的になりがちで、日々の企業活動に結びつかなくなりがちです。
Environmental, social, and governance (ESG, 環境・社会・ガバナンス) は、CSR を発展させたものですが、企業活動に対して指標に基づく基準を伴うものです。環境の基準は自然界を保護します。社会的な基準は従業員、サプライヤー、顧客、そしてコミュニティを守ります。ガバナンスには、企業のリーダーシップ、役員報酬、監査、内部統制、ステークホルダーの権利が含まれます。この文脈において、エシカルな商取引とは、企業の経営上と財政上の成績と直接的に関係した、環境と社会的な課題に着目した慣行ということになります。別の言葉で言うならば、ESG のうちの E と S に着目しています。
エシカルな商取引はしばしばサステナビリティと混同されますが、サステナビリティとは現在の要求に応えるために未来の世代の要求を犠牲にしないということです。非常に広義にはなりますが、この用語はしばしば環境問題を表わすのに使われることがあります。同様に、フェアトレードは、発展途上国において商品に対して適正な価格を生産者に与えるときに使います。フェアトレードの目的は、貧困を減らし、労働者と農業従事者を倫理的に扱い、環境的に持続可能な習慣を促進することです。この用語は、社会や人権の問題を述べるときによく使われます。
より若い世代の消費者が、エシカルな商取引の新しい波を前に進めています。つまり、企業倫理の基準をより高く設定するように要求しているのです。彼らがブランドに透明性が高く本物であることを求めることで、企業は具体的な根拠のある数字で要求に応えます。しかし、エシカルな商取引の指標値を計算し集計するのは、言葉で言うほど易しいことではありません。指標がエシカルな商取引の取り組みにとって極めて重大になってきたため、データとテクノロジーは、エシカルな変化を採り入れるための鍵となります。
以下では、流通小売業・消費財業界でデータとテクノロジーがエシカルな商取引の未来となり得るための7つの方法について紹介します。
1. 二酸化炭素排出量を計算する
企業は二酸化炭素排出量を減らすことで、地球温暖化の影響を遅らせることに協力しつつあります。多くの企業は今後20~30年での炭素排出量ネットゼロ目標に向けて公約しています。なぜなら消費者がますますオンラインでショッピングをするようになって、梱包、配送、発送が増えたことで排出量が増加し、この問題が重要になっているからです。この問題を解決することは、小さな事業者にとっては特に気が滅入ると感じるかもしれませんが、最初の一歩は明確です。企業は現在の二酸化炭素排出量を計算する必要があるのです。ベースラインを作った後は、行動に移すことができます。ここでの挑戦は、製品を製造して販売するのは長く複雑な取引の連鎖であり、それぞれの結びつきが温室効果ガスの排出に寄与していることです。IoT サービスはサプライ・チェーンの各プレイヤーからの異なるシステムとデータを接続するのに役立ちます。データポイントを一箇所に集め、集計し、蓄積することで、企業はバリューチェーン全体の透明性をもって意志決定することができます。
詳細は、AWS IoT をご覧ください。
2. ボイステクノロジー、ブロックチェーン、AI により人権を保証する
「現代の奴隷制度」と言われるような人権の侵害は、流通小売や消費財業界において、深刻な懸念事項です。それでも気付かれないままにされがちなのは、計測することが難しいからです。ほとんどの企業は、第三者による監査を通じて、人権問題を監視しています。監査は有用なものではありますが、ある時点での記録に過ぎず、労働者が正直なフィードバックを提供するために必要なプライバシーが欠落しがちです。報復を恐れるという理由から、労働者は必ずしも職場での体験や条件に対していつも正直であるわけではありません。
Ulula のような労働者の声のテクノロジー(Worker voice technologies: WVT) を使うことで、匿名でテクノロジーを活用したサーベイをすることができ、今起こっている労働者の不平を継続的に集めることができます。これらのサーベイでは、匿名データを継続的に収集することでフィードバックと改善を促すようになっています。
ブロックチェーンの暗号化能力と結びついた WVT のアプリケーションにより、透明性とプライバシーを促進することができます。暗号化のための秘密鍵は他人に知られることがないため、セキュリティのレイヤをさらに追加することになります。ブロックチェーンの台帳は改ざんすることが実質不可能なので、結果に対する信頼性が高まります。労働者に匿名性への信頼性を与えることで、人権に関わる問題を見破る可能性が高まります。AI もまた有望な技術です。ヒューマンエラーや偏見、主観により見逃されがちなパターンや徴候を検知することができます。
詳細は、AWS におけるブロックチェーンをご覧ください。
3. エシカルな商取引のために製品のレベルまで可視化を提供する
企業が炭素排出量算出機や労働者の声のテクノロジーでデータを環境や社会のレベルで集めた後は、製品のレベルまでデータポイントを追跡するときです。企業は製造のすべての過程において、炭素排出量、公正な雇用のスコア、水の使用量、その他の情報をタグ付けするために QR コードを用いることができます。これらの指標は消費者に共有することができ、工程についてお知らせし、エシカルに製造され供給されていることに対する需要を高めることができます。グリーンウォッシング、つまり製品が環境的に優れていると誤解させるような情報を与えることは、消費者からの信頼を損なう脅威でしかありません。このレベルでの透明性は、クレジットの与信や Uber の評価のような消費者によるエシカルな商取引のスコアにつながります。そうすることで、消費者は購買する商品の社会上や環境上の影響について評価する手助けになるのです。
4. 商品企画の段階からエシカルな商取引の指標のスコアをつける
企業はエシカルな商取引のスコアカードを予測するために、コンピュータにより支援されたプログラムを通じて AI の技術を使うことができます。設計者はそのようなプログラムで商品を作ることで、プログラムが自動的にエシカルな商取引の指標のスコアを作ってくれます。成績表の数字は、デザイナーが素材やサプライヤー、輸送距離を選ぶのに応じて変化します。商品のサンプルを作る前であっても、設計者は素材と生産工程のトレードオフをすることができるのです。循環型経済について第一に考えることになり、廃棄物と汚染を排除して、修理、再利用、再生産、リサイクリング、リコマースを入れ込む設計をすることになります。このようなプログラムを使うことで、消費者に最小の廃棄物で安全にお届けするのに必要とされる梱包を最適化することも可能になります。
アマゾンの梱包についての情報は、The 2021 Frustration-Free Packaging Programs Incentive Expansion をご覧ください。
5. Augmented Reality や 需要予測ツール、3Dプリント技術を用いて生産を最小にする
商品がデジタルで設計されたら、企業はフルスケールの製造工程が始まる前に事前注文で利用可能にすることができます。Augmented Reality (拡張現実感, AR) は消費者にバーチャルな「買う前に試す」体験を提供します。顧客がもしエシカルな商取引のスコアを商品に見つけたら、より商品を理解した上での意志決定や評価、フィードバックを商品の設計段階を出る前に提供してもらえることでしょう。企業も事前注文を履行することができ、在庫の需要をより正確に見積もることができるため、値引き商品につきものの廃棄を減らすことにつながります。3次元プリント技術は商品開発のリードタイムを短くするため、顧客は注文から数ヶ月も待つ必要がなくなります。
詳細は、Amazon Forecast をご覧ください。
6. バイアスを正す
これらのデータが収集できたら、企業活動に染みこんでしまいがちなアンコンシャス・バイアスをすべて除去することが不可欠です。AI と機械学習は大量のデータを検証して、偏見や不平等、ステレオタイプといった暗黙のバイアスを無自覚に永続させる安易な道を取り除きます。人によって作られた AI と機械学習のモデルを監査して、決定が本当にその企業の価値観を反映しているのか、また、偶然より多くのバイアスを組み込んでしまっていないのかを保証することが重要です。企業が信頼できる AI と機械学習のモデルを使うことで、広告とマーケティング、雇用、ブランドや商品の提供において、多様性、平等性、そしてインクルージョンを担保することができます。
詳細は、Amazon SageMaker Clarify をご覧ください。
7. データの交換による協業の取り組み
「上げ潮はすべての船を持ち上げる(訳注:好況になればすべての人間が利益を得るの意)」の精神で、エシカルな商取引のデータを収集する企業はそれを共有することで最大の利益を得ることができます。消費者は同じ小売事業者で異なるブランドの買い物をすることができます。すると、小売事業者はしばしば同じサプライヤーを使います。すると、サプライヤーはしばしば同じ場所から原材料を調達します。データの交換をする取り組みを通じて非競争的なデータポイントを提供することで、サプライ・チェーンを横断する様々な企業でエシカルな商取引の世界的な標準に参加することが可能になります。
まとめ
今日の消費者は、エシカルな商取引に関して要求が高いと言えます。テクノロジーはただ単にそれらの要求に応えるだけではなく、企業の競争的な優位性をもたらします。よい行いとテクノロジーとデータ収集に投資することで、流通小売と消費財業界の可能性は尽きません。
詳細は、AWS Data Exchange Sustainability をご覧ください。
もしエシカルな商取引の取り組みの準備ができているならば、AWS がお力になれます。アカウントチームにご連絡いただくか、流通小売業界と消費財業界のページをご覧ください。
著者について
Joanne Joliet
Joanne Joliet は、AWS のアパレル・ファッション小売・消費財業界のワールドワイド戦略・ソートリーダーシップのリードです。AWSの小売・消費財業界のリーダーシップと協働して、クラウドマイグレーションとモダナイゼーション戦略 、パートナーソリューション、go-to-market支援をアパレル・ファッション関連企業に届けています。Joanne は20年以上のリテールテクノロジーと小売業界の経験があり、過去には Gartner, Inc.、Belk Department Stores、Family Dollar Stores、Accenture といった企業でリーダーシップblock役職も経験しています。
Madeline Steiner
Madeline Steiner は AWS の 小売・消費財業界チームにおいてエシカルな商取引に取り組む MBA インターンです。Madeline は小売業とリテールテクノロジーに関する8年の経験があり、そのうち5年間は Gap にてマーチャンダイジングと商品開発の役職を務め、3年間は Trendalytics のカスタマーサクセスでデータドリブンな商品判断のための消費者インテリジェンスプラットフォームに携わりました。現在はニューヨーク市にある Baruch College にて MBA 取得を目指しており、2022年6月に卒業予定です。
翻訳は Solution Architect 國田が担当しました。原文はこちらです。