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AWS IoT によるコネクテッドな世界へのビジョン

AWS IoT 担当バイスプレジデント Yasser Alsaied が IoT 領域の戦略・取り組み・展望について語ります

はじめに

モノのインターネット (IoT) の将来については、現在も議論と憶測が飛び交っています。IoT ハイパースケーラー、ベンダー、顧客などに影響が及ぶ中、状況は急速に進化しています。このトピックを明らかにするために、アマゾン ウェブ サービス (AWS) の IoT 担当バイスプレジデントである Yasser Alsaied に話を聞きました。このブログでは、IoT テクノロジー、戦略、業界成長の未来、そしてそれらが IoT エコシステムにどのように影響するかについて、Yasser の洞察を探ります。

Yasser さん、インタビューの機会をいただきありがとうございます。まず、AWS でのあなたの役割と IoT の経験について少し教えていただけますか?

テクノロジーと IoT 業界でおよそ 32 年の経験があります。2021 年に IoT 担当バイスプレジデントとして AWS に入社しました。私はロボティクス、産業、自動車、消費、公共部門、商業部門を対象とする AWS IoT 事業を率いています。当社のサービスは、世界で最も接続された IoT サービスの 1 つであり、デジタルツイン、スマートシティ、コネクテッドカーの分野で成長を続けています。AWS に入社する前は、Qualcomm の IoT 担当バイスプレジデントを務めていました。Qualcomm 在籍中は、Qualcomm 初の携帯電話向けワイヤレスローカルエリアネットワーク (WLAN) チップの立ち上げ、Qualcomm Innovation Center や、オープンソースソフトウェアリリースに関する法的および運用上の問題を解決するための Code Aurora 財団などで、指導的役割を果たしました。Qualcomm での最後の 4 年間、私は Qualcomm の IoT エコシステムを管理し、人工知能 (AI)、コンピュータービジョンドローン、ロボット工学、5G などの主要テクノロジーを含む IoT チップセットのスケーリング戦略を主導しました。Qualcomm に入社する前は、米国宇宙ロケットセンター、レイセオン、ロッキードマーティン・ミサイル・ファイヤーコントロール、コールマン・エアロスペースと協力し、軍事用途のソフトウェアを開発していました。

黎明期から IoT に携わっていますが、現在の IoT 業界の変化についてどう思いますか? また、これは顧客やサービスプロバイダーにとってどのような意味を持つのでしょうか?

IoT 業界が発展するにつれて、お客様から IoT への強い関心と採用が引き続き見られます。IoT の成長がすぐに鈍化することはないと予想しています。しかし、IoT ハイパースケーラーの役割が変化していることは明らかです。これは主に、業界が水平ソリューションとしての IoT ではなく、垂直型ソリューションへシフトしていることと結びついています。この変化は、お客様にとって最大の利益となります。なぜなら、お客様は私たちに直接 IoT を求めることは決してないからです。その代わり、具体的なビジネス成果を求め、テクノロジーを活用してビジネスプロセスを監視、制御、最適化して成果を上げる方法を決定するための支援を求めています。この変化がクラウドや IoT ソフトウェアプロバイダーにとって意味することは、顧客の社内スキルセットや IT 規模の要件、ユースケースに基づいてビジネス価値を高めるための業界特化のソリューションとパートナーを提供することにより、IoT を顧客固有の垂直的課題に対応させる必要があるということです。

クラウドと IoT ソフトウェアプロバイダーの役割の変化は、AWS での仕事にどのような影響を与えますか?

AWS では、お客様中心の垂直アプローチを IoT 戦略の道しるべにしています。お客様により良いサービスを提供するために、業界固有のユースケースの成果を加速するよう、最適化された IoT および AI サービスを開発してきました。たとえば、AWS IoT SiteWise や AWS IoT TwinMaker は、インダストリアル IoT を検討しているお客様を対象に、産業データの収集、整理、分析や、現実世界における産業環境のデジタルツイン作成を支援するために開発されました。AWS IoT FleetWise は、自動車とコネクテッドカーのお客様をサポートしています。また、これらのサービスを利用してお客様向けのソリューションを構築する業種に特化したパートナーとも連携しています。原則として、当社の IoT 製品、販売、サポートのリソースを、主要なお客様の業種に合わせて再編成し、よりお客様を意識した、お客様のニーズや課題に対する合理的な対応ができるようにしました。

垂直化されたソリューションとパートナーが AWS とその顧客にとってなぜそれほど重要なのでしょうか?

IoT を始めたばかりのお客様の中には、概念実証から本番環境への移行、スケーリング、必要なすべてのサービスの追加に苦労している方もいます。ワークロードには多くの要素が必要ですが、お客様はどのサービスが含まれているか、どのように統合されているかには関心がありません。その代わりに、顧客は自分たち独自の課題に対応し、管理、適応、拡張、拡大が容易な、業界に特化したソリューションを求めています。そのため、当社の IoT 戦略の重要な部分は、特定のユースケースに合わせてすぐに展開できるコードや構成、カスタマイズ可能なアーキテクチャガイダンスを提供する垂直化された AWS およびパートナーソリューションに焦点を当てています。私たちのアプローチは常に、歩留まりの改善や車両管理など、お客様固有のビジョンや課題を理解することから始まります。そこから逆算して、それぞれのニーズに合ったソリューションを考案します。信頼性が高くスケーラブルなクラウドと、AI、機械学習、分析、コンピューティング、ネットワーキング、ストレージを網羅する 200 以上のサービスを使用して、適切な要素をすべて組み合わせたソリューションを実現します。また、これらのサービスの上に新しいものを構築する必要がある場合は、パートナーネットワークを活用して、個々のお客さまに合わせたソリューションだけでなく、同じ業界の他のお客さまにもメリットをもたらすようなソリューションを構築します。このサービス方式は世界中で再現可能であり、プロセスを迅速化することができます。

私たちにとってもうひとつの重要な取り組みは、AWS パートナーネットワーク (APN) を成長させ、協働していくことです。なぜなら、お客様にとって、スキルギャップを埋め、規模要件を満たし、業種別のユースケースに特化できるさまざまなタイプのパートナーにアクセスできることが重要であることを理解しているからです。APN には、IoT 設計サイクルのさまざまな段階を支援できる独立系ソフトウェアベンダー (ISV)、システムインテグレーター (SI)、ハードウェアベンダー、ディストリビューターなど、さまざまなタイプのパートナーがいます。ISV パートナーは、事前に構築されたソフトウェアソリューションを提供しています。このソリューションを当社の IoT サービスやプラットフォームに統合することで、ISV の能力や機能を強化できます。お客様がそれぞれの要件に合わせたカスタマイズを必要とする場合、専門性の高い SI と協力して、社内のエンジニアリングリソースに新たに投資することなく、さまざまなシステムやテクノロジーを統合してまとまりのあるソリューションを構築することができます。

垂直化の先にある、AWS における IoT の未来はどうなるのでしょうか? どこに大きな賭けをしていますか?

私たちが次に何をするかについては多くの憶測が飛び交っていますが、私たちは継続的にイノベーションを起こし、お客様が IoT ソリューションをより簡単に、よりコスト効率よく実現することに全力を尽くしていると言えるでしょう。私が AWS に入社してから 2 年で、AWS IoT FleetWise、AWS IoT ExpressLink、AWS IoT TwinMaker、AWS IoT RoboRunner といった新しい専用サービスを立ち上げました。 認定デバイスカタログのリポジトリは   800 台を超えるパートナーデバイスにまで拡大しました。コスト効率を高めるための値下げを発表し、最近発表された AWS IoT Core と Amazon Sidewalk の統合を深める AWS IoT Core for Amazon Sidewalk を含む 50 以上の IoT 機能のアップデートを展開しました。私たちはスピードを緩めてはいません。なぜなら、IoT は私たちがお客様の問題を解決し、お客様の規模拡大を支援する上で欠かすことのできない要素だからです。Industry 4.0 のようなユースケースでは、データを大規模かつ信頼性が高く安全な方法で管理・処理する必要があります。データはすでに存在していますが、IoT がなければ、サイロ化された工場やプラントの中に閉じ込められてしまいます。IoT は接続を容易にし、データを活用してスマートファクトリーを実現します。5G、Wi-Fi 7、LPWAN、その他のテクノロジーのいずれでも、IoT はデジタル化を語る上で欠かせない要素です。

さらに、IoT ソリューションをより利用しやすくするという当社の取り組みは、ハイブリッドクラウドとエッジコンピューティングの機能を拡大するための継続的な取り組みと直接結びついています。AWS のインフラストラクチャ、サービス、アプリケーションプログラミングインターフェイス (API) やツールを、オンプレミスデータセンター、5G タワー、スマートファクトリーなどのエッジロケーションに拡張することで、低遅延、データレジデンシー、ローカルデータ処理、または複雑なアプリケーションの相互依存性を必要とするワークロードに、クラウドのメリットをすべて提供できるようになりました。現在、AWS では、エッジゲートウェイとして機能する AWS IoT SiteWise EdgeAWS IoT Greengrass などの IoT サービスを提供しており、オンプレミスで設備データを簡単に収集、処理、監視できるだけでなく、エッジデバイスにインテリジェンスをもたらすこともできます。AWS では、エッジでのアプリケーションの展開を容易にする機能を開発し、お客様の価値実現までの時間を短縮し、設備投資を事業運営費用に変換しています。

Amazon の成功にとって IoT はなぜ重要なのでしょうか?

倉庫業務、フルフィルメントセンター、輸送、物流、店舗、デバイスなど、Amazon のコアビジネス領域の多くは、AWS の IoT サービスによって直接サポートされています。私たち自身が顧客であり、Amazon は顧客にこだわっているため、私たちのサービスは最高のものでなければなりません。Amazon を含む当社の幅広い顧客基盤を通じて、このテクノロジーの信頼性と規模に対する圧力テストが行われています。私たちは、Amazon の中核的な事業ニーズとイノベーションの DNA を燃料に、共に大きくなっていきます。

たとえば、IoT は小売業のロジスティクスと購買プロセスにおいて主要な役割を果たします。Amazon には、IoT サービスと 75 万台以上のロボット駆動ユニットのようなエッジデバイスを利用している 300 以上のオペレーション施設が世界中にあります。この規模は、毎日フルフィルメントセンターを通過する 160 万個の荷物に対応しています。 自動化とロボット工学はこの仕組みの大きな部分を占めており、Amazon のサプライチェーンを時計仕掛けのように稼働させ続けるには、これらのテクノロジーをリアルタイムで制御、検査、および保守する必要があります。AWS IoT を使用すると、Amazon は測定したデータを遠隔で取得して処理できるため、オペレーターが業務を監視し、重要なメンテナンススケジュールを把握し、すべてのパッケージが予定どおりに配達されるようになります。

Amazon はまた、全国各地で荷物を受け取る大規模なトラック群を運行しています。以前は、どの Amazon フルフィルメントセンターでも、チェックインして自車がどのベイに割り当てられているかを確認するために、ドライバーの長蛇の列ができていたものです。しかし、AWS IoT、そして特別に構築された AWS IoT サービスである Amazon Kinesis Video Streams を使用することで、チェックインとチェックアウトのプロセスを合理化できるようになりました。今では、ドライバーはモバイルアプリケーションで自動的にチェックインし、行き先を確認できるようになりました。これにより、北米全域のドライバーと運送業者は、2022 年だけで 775,000 時間を節約できました。そして、Amazon には Amazon の配送担当者の現場での荷物配送を調整する Amazon Flex アプリケーションがあります。Flex は AWS IoT を介して数十のバックエンドサービスとデータを送受信し、合計で 1 秒あたり最大 22,000 件のトランザクションを処理して荷物の配送を調整しています。最後に、実店舗で商品を購入する際、多くの Amazon やサードパーティの店舗では、Just Walk Out テクノロジーを使用してレジの列を完全にスキップすることができます。店舗に入るには、Amazon ショッピングアプリ、Amazon One、またはクレジットカードを使用し、購入したい商品を手に取るだけで帰ることができ、外出先でより簡単かつ迅速に買い物をすることができます。私自身も体験して、その手軽さに魅了されています。Just Walk Out テクノロジーは、Kinesis Video Streams を活用して店内カメラの映像を AWS にストリーミングすることで、顧客が入店後に欲しいものを手に取り、すぐに出発できるようにするための最先端のコンピュータービジョンアルゴリズムの実行を可能にしています。

私たち自身が顧客であることには、独自の課題も伴います。Amazon がグローバルに展開する事業の規模は非常に大きいため、AWS IoT がデバイス、テレメトリデータストリーム、およびセキュリティを同様の規模でサポートすることがとても重要です。より堅牢で、効率的で、費用対効果の高いサービスをお客様に提供するために役立つ新たな学びが、私たち自身のサービス利用によりもたらされ続けています。

AWS IoT の恩恵を受ける業界にはどのようなものがありますか?

過去 10 年間で、IoT は夢の技術から、企業が問題を解決し、収益の創出、業務の改善、イノベーションを通じて価値を高めるための中核的な差別化要因へと成長しました。消費者向けには、コネクテッドデバイスを扱う多くの機器メーカーやデザインメーカーと協業しています。彼らは、安全な製品を迅速に構築し、デバイスを接続し、スケーラビリティと信頼性をサポートすることができます。その一例が Rachio で、彼らは AWS IoT を使用してデバイスをクラウドアプリケーションやその他のデバイスに安全に接続しています。また、AWS IoT により、Rachio は AWS Elastic Beanstalk  などの他の AWS サービスにシームレスに移行して、ウェブサイト、ウェブアプリ、API インフラストラクチャを展開・管理できるようになりました。最近では、Rachio は Amazon Alexa Skills Kit を使用して、第 2 世代の Rachio スマートスプリンクラーコントローラーで音声コマンドの提供を開始しました。AWS IoT のセキュリティ機能により、Rachio は開発コストを 40% 削減し、可用性とスケーラビリティの管理について悩む必要がなくなりました。

工業および製造業では、お客様と協力してプロセスのパフォーマンスと生産性、在庫追跡、運用管理、安全性を向上させています。その一例として、当社のお客様である Coca-Cola Içecek (CCI) が AWS IoT を使用して製造現場と製造プロセスをデジタル化し、26 の瓶詰め工場すべてに展開可能な完全なデジタルツインソリューションを作成した方法が挙げられます。彼らは AWS IoT SiteWise と AWS IoT Greengrass を使用して、2 か月でラインサニテーションプロセス用の高度なデジタル分析ソリューションを構築しました。これにより、プロセス効率と環境の持続可能性が向上し、年間 20% のエネルギーと 9% の水の節約が可能となりました。

公共部門、スマートシティ、交通機関では、お客様は IoT を利用して業務や物流の改善、戦術的優位性の強化、交通や公共の安全の管理を行っています。商業ビルやスマートビルでは、お客様は店頭での顧客体験の向上と建物の持続可能性の改善を求めています。最後に、ロボティクス分野では、お客様は IoT サービスを利用してロボットからデータを収集し、新しいアプリケーションの構築、自動化の最適化、効率の向上に役立てています。コネクテッドカーでは、IoT によって車両データを管理し、機械学習モデルや車内体験を向上させることができます。たとえば、WirelessCar は AWS IoT と連携して、インフラを管理せずに車両群を大規模に管理し、何百万台もの車両をクラウドに接続できるようにしています。

次の段階に進むにあたり、どのような IoT トレンドを予測すべきでしょうか?

IoT は例外ではなく、ビジネスにおける普遍的な期待事項になると思います。多くの企業や業界が今後も IoT に投資を続け、ビジネス上および運用上の価値をもたらすでしょう。小売業界のように新たな業界が IoT に価値を見出しているのを常に目の当たりにしています。お客様は、オンラインとオフラインの間を簡単に行き来できる統一された体験を構築しようとしています。その結果、モバイル、ソーシャルメディア、IoT が融合し、いつでもどこでもサービスを提供することが可能となります。また、よりシンプルな IoT 中心のツールに対するニーズの高まりも認識しています。IoT 技術の採用が進む中で、企業がイノベーションを起こし、ツールを活用するために、これらのツールをより身近なものにし、業界に参入しやすくすることが重要です。たとえば、AWS IoT Core Device Advisor のようなツールは、開発者が IoT デバイスを検証し、AWS との信頼性の高い安全な接続を可能にするのに役立ちます。再接続できないなどのデバイスソフトウェアの問題を特定し、詳細なログを取得して、開発およびテストサイクル中の問題をトラブルシューティングできます。

最後に、お客様はサステナビリティへの取り組みを、排出量の削減だけでなく、スマート環境 (都市、ビル、工場など) の構築にまで拡げ、IoT を活用してエネルギー性能を監視し、廃棄物を削減し、施設運営を稼働率に合わせて調整しています。その好例の1つは、Yara が私たちと協力して、農業業界向けの効率的で持続可能なデジタル生産プラットフォーム (DPP) を構築したことです。この DPP は、28 の生産拠点、122 の生産ユニット、および 2 つの鉱山にわたる生産システムをデジタル化する上で重要な役割を果たします。DPP は、AWS IoT SiteWise、AWS IoT Greengrass、AWS IoT Core、AWS IoT AnalyticsAmazon SageMaker を使用して、生産性、信頼性、環境、安全性、品質、イノベーションに関連する生産データを検出し、収集し、高度な分析を実行します。 このソリューションにより、Yara は製品の品質と組成を予測し、工場における用役のバランスを改善し、機械の修理やメンテナンスが必要な時期を検出し、生産を最適な効率レベルに保つことができました。

Yasser さん、AWS IoT の未来について語っていただき、ありがとうございました。AWS が Amazon を含む様々なお客様のニーズを満たすために、IoT ソリューションに引き続き多額の投資を行っていることがよくわかりました。

AWS IoT のサービスと機能の詳細については、私たちのウェブサイトをご覧ください。

この記事は Rachel Burke-Smalley によって書かれた Sharing a vision for a more connected world with AWS IoT の日本語訳です。この記事はソリューションアーキテクトの岡本晋太朗が翻訳しました。