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【開催報告】AWS Autotech Forum 2023

みなさんこんにちは。ソリューションアーキテクトの眞壽田(ますた)です。7/28にAWSが主催する自動車業界向けイベント「AWS Autotech Forum 2023」を開催しました。AWS Japanでは、自動車業界の皆様にクラウドを活用してビジネスを加速して頂くことを目指し、 2018 年より事例や最新技術の活用方法等をご紹介する本イベント「 AWS Autotech Forum」 を開催して参りました。今回で6回目となる本イベントも昨年同様オンライン開催となりましたが、1000名近くの多くの方にご登録頂きました。CASEによる変革が自動車業界で起動に乗った今、CASEという言葉が生まれた当初の想定通り、世の中で自動車に対する価値が変わってきていることを私自身も実感しています。今年の本イベントでは、自動車の新しい価値を第一線で創造しているお客様を代表して、ソニー・ホンダモビリティ株式会社様、TIER IV, Inc.様、KINTOテクノロジーズ株式会社様にご登壇頂きました。

オープニング

– 竹川 寿也 アマゾン ウェブ サービス ジャパン 合同会社 事業開発本部 シニア事業開発マネージャー

オープニングでは、これまでAuto Tech Forumのあゆみをお伝えすると共に、AWS for Automotiveという自動車業界のお客様を支援するチームの取り組みやご支援内容をご紹介し、自動車業界の皆様にAWSがどのように貢献できるかということをご説明しました。

ソニー・ホンダモビリティが目指す新たなモビリティの価値

– 川西 泉 様 ソニー・ホンダモビリティ株式会社 代表取締役 社長 兼 COO

セッションでは、ソニーホンダモビリティの設立の経緯から、車両がユーザーに提供する新たな価値と、それを実現するための車両開発のアプローチについてお話頂きました。AFEELAが、ユーザーに提供する新たな価値とは、ユーザーに感動を与える空間を提供することであり、移動の価値を継続的に進化させていくことである。その継続的な進化は、量産後も継続的に車載ソフトウエアをアップデートすることで実現し、それを実現するには車両アーキテクチャーがSoftware-Definedでなければならない。そしてSoftware-Definedな車を実現するには車の演算能力も高くあるべき、ということから、業界内で話題となっている車載のSoCを選定した経緯もお話頂きました。

以下、所感になりますが、AFEELAはAIBOと同様に、車両(IoTデバイス)、スマホ、クラウドがそれぞれ接続し、様々なサービスと連携することを想定しており、その中でAWSクラウドが果たす役割は非常に大きいと感じました。自動車業界一般的にも言えることですが、この領域に関してAWSクラウドの役割を具体的に列挙すると次のようになります。認証、データアップロード、データ解析、OTA、パーソナライズ、ADAS機能開発、車両ソフトウエア開発。
IoTデバイスの認証においては、AWS IoT Coreを使用するユーザー事例が一般的になりつつあり、ソニー様においてもAIBOの認証機能でAWS IoT Coreが採用されています。データアップロードにおいては、認証と同様にAWS IoT Coreを使用するケースや、AIBOの事例では、AWS AppSyncを利用し、デバイスとAWSクラウド間、スマホアプリとAWSクラウド間をGraphQLで情報同期をする方法が採用されています。パーソナライズやADAS機能開発でAmazon SageMakerなどの機械学習サービスを利用するケースも一般的になりつつありますが、新しい自動車業界の潮流として、車載ソフトウエアの開発を可能な限りAWSクラウド上で行い、V字の開発プロセスにおいてShift-Leftを目指す事例が、海外の自動車メーカー様でも増えてきています。

自動運転の事業化を加速するWeb.Auto

– 関谷 英爾 様 TIER IV, Inc. Architect

セッションでは、自動運転の潮流や、Autowareという自動運転のソフトウエアをオープンソースとして提供するTIER IV様のビジネスの方式や、各プロダクトの実際の開発・アーキテクチャー、運用の効率化についてお話頂きました。
TIER IV様のビジネスは、Autowareを実際のプロダクションフェーズで利用するために必要な関連プロダクトを提供することであり、大きく3つのプロダクトをご紹介頂きました。自動運転ソフトウエアの開発環境を提供するWeb.Auto、主に狭域自動運転などのMaaSで利用される自動運転用のプラットフォームであるPilot.Auto、自動運転で必要となる車載センサーデバイスであるEdge.Autoの3つです。本セッションでご紹介頂いたWeb.AutoとPilot.Autoは、非常に完成度が高い印象を受けました。また、ご紹介頂いたアーキテクチャーも大変参考になる情報が多く、個人的に感銘を受けたのはパスプランニングの経路探索で利用するGraphデータベースにAmazon Neptuneを採用している点でした。ベクターマップから抽出した道路リンクをGraphデータベースとして表現する際、プログラム上でメモリ管理することは比較的容易なのですが、その機能をクラスタ化することは過去の私の体験談で苦労した経験があったためです。一方で、MLOpS、DevOpSに関してもアーキテクチャーを詳細にご紹介頂いており、シミュレーション機能を複数のコンピューティングリソースでクラスタ化させて動作させる際、そのノードを自動でProvisioning、Deprovisioningする仕組みをAWS Step FunctionsAmazon EKSで実現している点、AD/ADASの機能を開発する開発者様にも参考になる事例ではないかと思いました。
セッションの後半では、Web.Autoが、AWS Foundational Technical Review (FTR) の承認を受けたことをご紹介頂きました。FTRは、AWS Well-Architected Framework で定義されたガイドラインでシステムが設計されていることをAWSがレビューする評価サービスで、Web.Autoはその承認を受けたことで、第三者に品質をアピールすることができているとその効果をご紹介を頂きました。FTRは、潜在顧客に対してAWSを使ったプロダクトを販売する際、セキュリティ、信頼性、運用に関するリスクを低減していることを客観的にアピールできる仕組みということで、多くのパートナー企業様にもご利用いただいています。
まだまだ語りきれない情報含め、有益な情報を多くご提供頂いた関谷様のセッションは、次のリンクからご視聴頂くことができます。

資料ダウンロード(自動運転の事業化を加速するWeb.Auto)

カーナビのクラウド化と固まっていた常識を変えるプロダクト開発

– 中西 葵 様 KINTOテクノロジーズ株式会社 開発・編成本部 プラットフォーム開発部 共通サービス開発グループ プリンシパル エンジニア

セッションでは、ソフトウエアの技術を使ってお客様に迅速にサービスを提供するために生まれたKINTOテクノロジーズ様と、トヨタ自動車様との関係性や組織構造のご紹介、KINTOテクノロジーズ様が手掛けるKINTOの様々なサービスについてご紹介頂きました。今までKINTOイコール車のサブスクリプションサービスという認識でおりましたが、それだけではなく、多くの興味深いサービスをお客様に提供していることが中西様のセッションから実感できました。
中でも一番驚いたのが、KINTO FACTORYでした。現在の自動車業界のSoftware-Defined Vehicleは、車両の量産開始までにハードウエアを決定し、ソフトウエアは後から更新することを想定していますが、後から更新されるソフトウエアで提供できるサービスは、量産開始前に決められたハードウエアで制限が掛けられてしまうという潜在的な課題があるように思います。KINTO FACTORYはその課題をポジティブに解決できうるサービスで、ハードウエアは車両購入時に決める必要はなく、後から必要に応じて追加することを可能とするようです。これはKINTO様の所有から使用へを推進するビジネスを大きく拡張することができるサービスではないかと思いました。
また、OTAでアップデートするソフトウエアについて、個人の運転志向に基づいてパーソナライズされた機能を提供することができると紹介頂きました。パーソナライズを実現する要となるのはデータであり、自動車や販売店から収集したデータを効率的に処理するアーキテクチャーとして、FrontendやBackendで、Elastic Load BalancingとAmazon ECSの組み合わせて処理を実行する構成や、バッチジョブでAmazon EventBridgeとAmazon ECSを連携させる構成をご紹介頂きました。
セッションの後半では、技術選定とエンジニア採用について興味深いお話をして頂きました。JavaやSpring Bootのような(流布されている)技術を指定して、一定のエンジニアを獲得することは比較的容易である。一方で、先進的なサービスを構築するために特殊なこと実行しようとすると、チームを組織することは難しくなる。そのために、臨機応変な技術選定をすることは会社の成長のためにとても重要であるとお話頂きました。
まだまだご紹介できていないサービスの詳細含め、有益な情報を多くご提供頂いた中西様のセッションは、次のリンクからご視聴頂くことができます。

資料ダウンロード(カーナビのクラウド化と固まっていた常識を変えるプロダクト開発)

パネルディスカッション

– 関谷 英爾 様 TIER IV, Inc. Architect
– 中西 葵 様 KINTOテクノロジーズ株式会社 開発・編成本部 プラットフォーム開発部 共通サービス開発グループ プリンシパル エンジニア
– 三浦 直樹 様 KINTOテクノロジーズ株式会社 開発・編成本部 プロジェクト開発部 プロジェクト推進G プリンシパル プロダクトマネージャ
– 竹川 寿也、アマゾン ウェブ サービス ジャパン 合同会社 事業開発本部 シニア事業開発マネージャー

パネルディスカッションでは、新たにKINTOテクノロジーズ様の三浦様にご参加頂き、「次世代に向けた変革」についての課題と解決方法ついてのトピックでお話し頂きました。新たな価値を創造している2社様ですが、自動運転という世の中になかった新しい技術を開発しているテックベンチャーのTIER IV様と、トヨタグループの中で車のサブスクビジネスを提供されるKINTOテクノロジーズ様、両社の課題はそれぞれ異なり、ディスカションでは大変興味深いやりとりがありました。また、最後のトピックでは「AWSの良い点、もう少し頑張ってもらいたい点」について、パネリスト様から貴重なご意見を賜りました。パネルディスカッションの詳細は下記の動画でご視聴頂くことができます。

パネルディスカッション | AWS Auto Tech Forum 2023

おわりに

6年目となる今回の AWS Autotech Forum は、長い歴史を持つ自動車業界の中では比較的新しい企業様にご登壇頂き、新たなコンセプトやサービス、先進事例をご紹介頂き、視聴者の皆様からも多くの反響を頂けたことを、主催者の一人として大変嬉しく思います。一方で、現在の自動車業界は、CASEの対応で増大化したソフトウエアを、Software-Definedな車載アーキテクチャーへの変化を推進することで、その増大化を抑えようとしています。そのプロセスには様々な課題があります。その課題を解決するために、AWSとしてお客様を支援できること、AWSパートナー企業様と協調することで支援が可能になることなど様々ございますが、次のイベントではそのSoftware-Defined Vehicleを推進する車載ソフトウエア開発の取り組みをご紹介できるよう、自動車業界のお客様を支援するソリューションアーキテクトとして、日々お客様と帆走していきたいと思います。
今後も先進的な取り組みを発信されたいお客様にイベント登壇頂き、自動車業界の皆様への参考としていただけるように本イベント活動も続けて参ります。

過去のイベント

AWS Autotech Forum 2022
AWS Autotech Forum 2021
AWS Autotech Forum 2020 #1
AWS Autotech Forum 2020 #2
AWS Autotech Forum 2019

著者

眞壽田 英輝 (Masuta, Hideki)

アマゾン ウェブ サービス ジャパン 合同会社
Mobility領域のお客様を支援するソリューションアーキテクト。好きなAWSサービスはAmazon Managed Streaming for Apache Kafka (MSK)です。