Amazon Web Services ブログ

Amazon Bedrock による予知保全の強化

競争の激しい産業分野では、ダウンタイムを最小限に抑えることが財務的な成功に不可欠です。課題は、事業環境内のさまざまなシステムに分散している複雑なデータを管理することにあります。高度な分析なしでは、問題を特定して解決することは困難です。

産業装置のオペレーターは、問題を診断して手順に従うために、しばしばマニュアルを参照することに時間を費やします。自動化によってこのプロセスは合理化できます。重要なのは、異常を早期に発見し、トラブルシューティングの指示を迅速に提供することです。

Amazon Web Services (AWS) はこうした業務の改善をより簡単にするのに役立ちます。

AWS IoT SiteWiseAmazon Lookout for Equipmentと、Amazon Bedrock はパワフルな組み合わせです。AWS IoT SiteWise は、工場やプラントの設備からの時系列データを大規模に収集して可視化します。Amazon Lookout for Equipment は機械学習を使用して微細な異常を検出し、コストのかかるダウンタイムを防ぎます。Amazon Bedrock はオペレーターに対して、検出された異常に対処するための手順を対話的に提供します。この 3 つのサービスが連携して産業設備からのデータを処理し、異常を検出し、効率的なトラブルシューティングの手順を提供します。オペレーターは、問題を迅速に解決し、ダウンタイムを最小限に抑え、業務効率を高めるための力を手にできます。

この技術ブログでは、AWS IoT SiteWise、Amazon Lookout for Equipment、Amazon Bedrock の統合による高度な産業分析システムの構成について説明します。焦点は、発生する機器の故障の検出、関連マニュアルの取得、包括的なメンテナンス計画の作成です。目標は、稼働時間を最大化し、生産性を高め、コストを削減し、工場やプラントの運営効率を飛躍的に高めることです。

ソリューションの概要

ここで説明する産業分析ソリューションでは、AWS IoT Greengrass と AWS IoT SiteWise を使用して、工場の設備から時系列データを大規模に収集して可視化します。AWS IoT Greengrass により、IoT(モノのインターネット)デバイスや産業用デバイスは、データが生成された場所の近くでデータを収集して分析し、ローカルイベントに自律的に対応し、ローカルネットワーク上の他のデバイスとセキュアに通信することができます。このソリューションでは、AWS IoT SiteWise Edge ゲートウェイが産業機器と AWS IoT SiteWise の間の仲介役を果たします。AWS IoT SiteWise Edge ゲートウェイソフトウェアは、AWS IoT Greengrass を実行できるどのデバイスにもデプロイできます。

AWS IoT SiteWise では、AWS IoT SiteWise アセットモデル (テンプレート) とアセットを使用して産業機器とプロセスをモデル化できます。さらに、産業分析ソリューションはこれらの設備間の関係を定義し、国際自動制御学会 (ISA) の ISA-95に基づいてアセットの階層を構築します。

Architecture
図 1. アーキテクチャ概要

このソリューションでは、AWS IoT SiteWise と Amazon Lookout for Equipment とを統合して用いています。これにより、ユーザーは機械学習に関する深い技術的知見を必要とせずに多変量を要因とする異常を検出できます。Amazon Lookout for Equipment では、機器あたり最大 300 個のセンサーからのデータを使用し、自動化された機械学習 (AutoML) を使用して最適なモデルをトレーニングできます。使用できる機器の例としては、コンプレッサー、ポンプ、モーター、ボイラー、ロボット、コンピューター数値制御 (CNC) マシンなどがあります。

Amazon Bedrock は、検知された異常に対処するようオペレーターに指示することで対応します。Amazon Bedrock は業界をリードする AI 企業の多様な基盤モデルを提供するフルマネージド型サービスで、セキュリティ、プライバシー、責任ある AI プラクティスに重点を置いた生成 AI アプリケーションを構築する機能を提供します。

この産業分析ソリューションでは Amazon Titan を使用しています。Amazon Titan は、AWS が作成し、大規模なデータセットで事前にトレーニングされた Amazon Bedrock 独自のモデルファミリーです。このソリューションでは、Amazon Titan Text Embeddings モデルを利用して、手順書を含むナレッジベースに記載された、事象の種類、前提条件、根本原因、解決手順、およびアプリケーションに関連する運用情報などから埋め込み (セマンティックベクトル) を生成します。

Anthropic の Claude ファミリーのように、Amazon Bedrock を通じて利用できる AI モデルは、ベクターデータベース内のコンテキストと異常検知結果から、適切な応答を作成します。これらの応答には、トラブルシューティングの手順、追加の詳細の確認、作業メモの追加、システムの問題に関するユーザーへの警告などが含まれます。このソリューションには、システムの運用状況を追跡できる統合異常検知ダッシュボードが含まれており、ソリューションの信頼性が向上します。

チュートリアル:異常検出と知識主導型メンテナンス

異常検知

Anomaly detection

図 2.異常検知

AWS IoT SiteWise ゲートウェイは、OPC 統合アーキテクチャ (OPC UA) サーバーなどのデータソースに接続して、工場現場からリアルタイムデータを取得します。AWS IoT Greengrass コンポーネントを搭載したゲートウェイソフトウェアは、このプロセスを簡単に実現できるようにします。その後、AWS IoT SiteWise は AWS IoT Greengrass ゲートウェイからこのデータを受け取ります。AWS IoT SiteWise Monitor を使用すると、工場の診断データをリアルタイムでモニタリングできます。収集されたデータは、分析の一貫性を保つために正規化されます。Amazon Lookout for Equipment は、設定時に提供された履歴データから構築されたモデルを使用して、リアルタイムデータを分析することで異常を検知します。異常が見つかると、Amazon Lookout for Equipment は AWS Lambda の自動処理を開始し、Amazon Bedrock に詳細なプロンプトを生成します。このシームレスなフローにより、産業環境における効率的なデータ処理、分析、対応が可能になります。

静的な知識をベースとしたメンテナンスプランの生成

Static knowledge analysis

図 3.静的な知識をベースとしたメンテナンスプランの生成

マニュアルと手順書で構成されるドキュメントは、オブジェクトストレージサービスである Amazon Simple Storage Service (Amazon S3) のバケットに格納されています。ワークフローでは、デジタルドキュメントには Amazon Bedrock (Amazon Titan モデル) を使用し、ドキュメント内のテキスト、手書き、およびレイアウト要素の処理には Amazon Textract を使用します。Amazon Lookout for Equipment によって異常が検出されると、AWS Lambda 関数が起動して、Amazon Titan を使って作成したベクトルデータを元に検索した文書をコンテキストとして含んだプロンプトが作成されます。その後、このプロンプトは Amazon Bedrock に転送され、Bedrock がドキュメントの内容にアクセスできるようになります。Amazon Bedrock に転送されたドキュメントの内容は、Amazon Lookout for Equipment によって生成されたアラートと組み合わされて、Amazon Bedrock に送信されます。その後、書式整形されたカスタムのメンテナンス計画が生成されます。最後のステップでは、AWS Lambda 関数が Amazon Simple Notification Service (Amazon SNS – フルマネージド型の Pub/Sub 型メッセージングサービス) を通じてカスタムメンテナンスプランを送信し、後で参照できるように Amazon S3 バケットにアーカイブします。
訳者注記:ここで説明されているのは一般的に検索拡張生成(RAG)と呼ばれるテクニックです

結論

利益率が低い業界では、計画外のダウンタイムや業務の非効率化を防ぐことが急務です。このブログ記事では、AWS IoT SiteWise、Amazon Lookout for Equipment、Amazon Bedrock の統合が、このニーズを満たすのにどのように役立つかを学びました。

Amazon IoT SiteWise と Amazon IoT Greengrass は、IIoT エッジゲートウェイからデータを収集して変換することにより、総合的な洞察を提供します。Amazon Lookout for Equipment の機械学習は、異常を早期に検出し、コスト増につながる操業停止を回避するのに役立ちます。Amazon Bedrock は、組織の知識を活用して解決プロセスを自動化し、ユーザーに合わせたトラブルシューティングガイドを提供します。データの取り込みから異常の検出、メンテナンスの処方まで、このインテリジェントなループにより、新たな問題に迅速に対処できるようになり、ダウンタイムを減らし、関連コストを大幅に削減できます。

工場やプラントにおけるこれらの AWS サービスの統合について、デモンストレーションをご覧になりたい場合や、より深く掘り下げてみたいという場合は、AWSの担当者にコンタクトいただくか、Webフォームからお問い合わせください。私たちは、お客様がこれらのテクノロジーを活用し、生産業務の運用にプラスの変化をもたらすお手伝いをします。

この投稿は「Empowering predictive maintenance with Amazon Bedrock」を AWS Japan SA の岩根 義忠が翻訳しました。

Roberto Catalano

Roberto Catalano

Roberto は、スイスを拠点とする AWS のソリューションアーキテクトです。コンサルティング、クラウドコンピューティング、ソリューションアーキテクチャ、サイバーセキュリティで 6 年以上の専門知識を持つ彼は、熱心なテクノロジー愛好家です。彼の実践的な知識は、サイバーセキュリティ、ネットワーキング、IoT の導入など、さまざまな分野に及びます。

Luca Perrozzi

Luca Perrozzi

Luca は、スイスを拠点とする AWS のソリューションアーキテクトです。AWS でのイノベーションのトピック、特にデータ分析と人工知能の分野に注力しています。Luca は素粒子物理学の博士号を持ち、リサーチサイエンティストおよびソフトウェアエンジニアとして 15 年の実務経験があります。