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産業変革の青写真:AWS IoT SiteWise による強力なデータ基盤の構築

はじめに

過去数年にわたり、産業や製造の領域では、インダストリアル IoT (IIoT) 、人工知能 (AI) 、機械学習 (ML) の進歩による変革が加速しています。この変革の中心にあるのはデータであり、これを効果的に活用すれば、ビジネスのオペレーション効率、イノベーション、顧客満足度を新たな高みに押し上げることができます。強固な産業データ基盤の構築は、単なる戦略的な活動ではありません。デジタル時代における成功を目指すメーカーや産業界にとって不可欠です。

AWS IoT SiteWise は、産業機器から大規模なデータを簡単に収集、整理、分析できるマネージドサービスであり、顧客がより適切でデータ主導の意思決定を行えるよう支援します。Volkswagen GroupCoca-Cola İçecekYara International などのお客様は、AWS IoT SiteWise を使用して、工場全体で生成されたオペレーショナルテクノロジー (OT) データをコンテキスト化して分析できる産業用データプラットフォームを構築し、事業とビジネスのグローバルビューを構築しています。さらに、Embassy of Things (EOT) 、Tata Consulting Services (TCS)、Edge2WebTensorIoTRadix Engineering などの AWS パートナーは、予知保全やアセットパフォーマンスモニタリングなどのユースケースを可能にする専用アプリケーションの基盤となっています。お客様やパートナーとのこうした取り組みを通じて、デジタルトランスフォーメーションの取り組みを拡大する上での主な障害は、プロジェクトの複雑さ、インフラストラクチャのコスト、価値実現までの時間にあることがわかりました。

こうした障害に対処するため、AWS IoT SiteWise ではお客様やパートナーが AWS IoT SiteWise に保存されている産業機器データに分析と AI/ML を適用する方法を簡素化する新機能をリリースしました。これらの新機能により、データをクラウドに取り込むコストを最大 70% 削減し、プロジェクトのタイムラインを数か月から数週間に短縮、ビジネスインテリジェンス (BI) ダッシュボードや ML アプリケーションでデータに簡単にアクセスできるようになります。これらの機能強化により、お客様はアセットモデルと階層をより迅速に導入し、取り込みから数分以内に分析ワークフローを実行し、予測メンテナンスのユースケースをより迅速に展開して計画外のダウンタイムを回避できます。今回の新機能により、AWS は、大量の多様な産業データを実用的な洞察に変換し、オペレーション効率を高め意思決定を改善することをより簡単かつ費用対効果の高い方法で実現できるようになりました。

このブログ記事では、AWS IoT SiteWise で最近リリースされた機能の詳細と、AWS のお客様とパートナーがデータ基盤の近代化を促進するためにこれらの機能をどのように使用しているかについて詳しく説明します。

変革のペースを加速する

業務全体の可視性を標準化することは、産業変革の重要な要素です。これは、従来の分断された手動の監視方法からの転換を意味し、コンテキスト化されたデータの統一されたビューに基づいて構築された、統合されたデータ主導型のアプローチが必要です。AWS IoT SiteWise は、このようなデータの標準化とコンテキストをアセットモデルで提供します。モデルはデータを整理し、企業、サイト、エリア、およびマシンレベルでの分析に役立ちます。しかし、産業のオペレーションが複雑であることを考えると、物理資産を正確に表すモデルの構築と維持には時間がかかり、洞察を得るまでの時間が遅れる可能性があります。

新たに追加された API により、AWS IoT SiteWise では、データヒストリアン、他の AWS アカウント、または AWS の独立系ソフトウェアベンダー (ISV) パートナーの場合は独自の産業データモデリングツールなどのさまざまなシステムから、産業アセットモデルのメタデータを大規模にインポート、エクスポート、更新ができるようになりました。

図 1: ヒストリアンなどの外部システムから機器メタデータをインポート

さらに、AWS IoT SiteWise は、お客様が新しいアセットモデルを作成するために再利用できるアセットモデルコンポーネントとサブコンポーネントの作成をサポートするようになりました。アセットモデルコンポーネントにより、お客様は複雑な機械を企業全体で再利用可能な部品に分割できます。お客様は全社的なコンポーネントライブラリを作成できるため、モデルの標準化が促進され、業務の拡大や複雑化に伴うより効率的なスケーリングが可能になります。下の図は、再利用可能なサーボモーターコンポーネントを使用して複雑な溶接ロボットをモデル化する方法を示しています。新機能により、新しい産業用ユースケースを導入するまでの時間が数か月から数週間に短縮され、さまざまな産業用データソースからのデータを統合ビューにすばやく取り込むことで、価値実現までの時間が短縮されます。

図 2: 再利用可能なコンポーネントモデルを作成してアセットを記述し、データを整理

リアルタイムおよび過去の機器データの統合ビューの作成

AWS IoT SiteWise は、リアルタイムの機器データと過去の機器データの両方を安全に一元管理できるストレージを提供します。エンドユーザーと産業用アプリケーションは、AWS IoT SiteWise に保存されているデータを利用して、貴重な洞察を得てビジネス成果を促進できます。

機器からリアルタイムのデータを収集するために、AWS IoT SiteWise では AWS IoT SiteWise Edge を提供しています。これは AWS によって作成され、オンプレミスにデプロイされ、エッジでの機器の収集、整理、処理、監視を簡単に行えるようにするソフトウェアです。SiteWise Edge を使用すると、お客様は OPC-UA などの産業用プロトコルや標準を使用して機器に安全に接続し、機器からデータを読み取ることができます。AWS パートナーである Domatica 社と協力し、MQTT、Modbus、SIMATIC S7 などの 10 種類の産業用プロトコルのサポートを追加しました。これにより、機器、機械、レガシーシステムから AWS IoT SiteWise に取り込んで、エッジでの処理や産業用データレイクを強化できるデータの種類が多様化されました。1 秒未満のレイテンシーでデータをクラウドに取り込むことで、お客様は AWS IoT SiteWise を使用して、産業活動全体にわたる何十万ものアセットをほぼリアルタイムで監視できます。

図3: AWS パートナーである Domatica 社の EasyEdge ソフトウェアをを利用することにより新たにサポートされたプロトコルによる機器への接続が可能

ただし、クラウドにおいてすべての機器データがニアリアルタイムで必要なわけではありません。エネルギー、組立製造、プロセス業界のお客様とのプロジェクトを通して、クラウドに送信された機器データのうち、クラウド上のダッシュボードで使用されているニアリアルタイムのデータはわずか10~30%であることがわかりました。残りの 70% ~ 90% は、BI ダッシュボードや機械学習モデルトレーニングなど、クラウド内のデータを数秒ではなく数分以内に必要とする分析アプリケーションで使用されます。そのため、データの取り込みと保存の方法を最適化する必要がありました。

そこで、分析のユースケースに適したコストとパフォーマンスを提供するために、バッファリングされたデータ取り込みを発表しました。バッファリングされたデータ取り込みでは、クラウドに取り込まれる前にエッジでバッファリングするデータストリームを顧客が設定できます。これにより、お客様はクラウドへのデータ取り込みコストを最大 70% 削減できます。

コスト効率が高く分析クエリ用に最適化されたストレージ

AWS IoT SiteWise には複数のストレージ階層があり、パフォーマンスとコスト効率のバランスを取りながら、さまざまなユースケースを柔軟にサポートできます。ホットストレージ階層は頻繁にアクセスされるデータに最適化されており、インタラクティブダッシュボードなどのリアルタイムアプリケーションでは書き込みから読み取りまでの待ち時間が短くなります。コールドストレージ層は、Amazon S3 バケットを使用して、稀に使用されるデータを保存します。新機能としてデータをコスト効率よく保存できるように設計された新しいウォームストレージ階層を追加しました。ウォームストレージ階層は BI、レポートツール、ML モデルトレーニングなどのアプリケーションで、書き込みから読み取りまでの待ち時間が中程度の大量のデータを取得するのに最適化されています。このウォームストレージ階層により、お客様は大量のデータを、 Amazon S3 に近い 1 GB あたりの価格で保持できます。

ウォームストレージ階層を使用しているお客様は、新しい Query API も使用できます。Query API を使用すると、お客様は SQL に似たクエリステートメントを使用して、1 回の API リクエストで、アセットモデル、アセット、測定値、メトリクス、変換、集計からメタデータと時系列データを取得できます。この機能は、Amazon QuickSight、PowerBI、Microsoft Excel などのツールと互換性があり、ニアリアルタイムや過去の企業業績のレポートを作成できます。

お客様は、新しい Query API で SQL クエリステートメントを使用してデータを探索し、洞察を抽出できます。次の例は、ユーザーが名前に「Engine」を含むすべてのマシンの RPM 情報をクエリする方法を示しています。

select a.event_timestamp,b.asset_name ,c.property_name , a.quality,a.integer_value
from raw_time_series a,asset b , asset_property c
where a.event_timestamp > 1698335614
and b.asset_name LIKE ‘Engine%’
and c.property_name = ‘RPM’
event_timestamp asset_name property_name quality integer_value
26-10-2023T15:53:34 Engine001 RPM GOOD 2857
26-10-2023T15:53:34 Engine002 RPM GOOD 2549
26-10-2023T15:63:34 Engine001 RPM GOOD 2753
26-10-2023T15:63:34 Engine002 RPM GOOD 2349

表 1: SQL ステートメントを使用したクエリによるデータ取得

機械学習を使用した予知保全プログラムの推進

複数のお客様が、AWS IoT SiteWise からの産業機器データを Amazon Lookout for Equipment と統合して、予測を行い、機器の異常な動作を検出できる機械学習モデルを作成しています。しかし、サービス間の連携のためにお客様が複数のステップを踏む必要があり、時間のかかるプロセスでした。AWS IoT SiteWise と Amazon Lookout for Equipment の新しいネイティブ統合により、連携のための複雑な仕組みの構築やコードを記述したりすることなく、これら 2 つのサービス間でデータを直接同期できるようになりました。これにより、Lookout for Equipment の機械学習モデルを AWS IoT SiteWise から簡単に構築でき、異常検出と予知保全が可能となります。

トヨタ自動車ノースアメリカ (TMNA) は、AWS IoT SiteWise データを使用して Amazon Lookout for Equipment で作成されたモデルを自社の CNC マシンにデプロイしました。サイトあたり200台以上の CNC マシンが年中無休で稼働していたため、TMNA メンテナンスチームにとって予知保全には時間とコストがかかりました。TMNA は、AWS IoT SiteWise を使用して、障害を数日前に予測し、計画外のダウンタイムを削減できる予測メンテナンスソリューションを開発しました。導入以来、お客様は数十件の事故や何時間ものダウンタイムを防ぐことができただけでなく、オペレーション可用性を過去 12 か月間の平均で 10% 向上させました。

「当社のフォーカスラインの稼働率は78~ 82% で、毎月約40時間のダウンタイムが発生していました。AWS の支援により、マシンに多くの問題が見つかりました。気付かないままにしておくと、重大な障害につながります。現在、当社の OA は 92% で、ダウンタイムは約20時間です。」— Braden Burford, Sr. Maintenance Engineer, Toyota

機器データのコンテキスト化による強力な洞察

産業の変革は、主に機器、機械、レガシーシステムから得られるデータの可能性を解き放つことに重点を置いています。従来のデータ管理システムでは、効率性、拡張性、革新性に向けた高い要求を満たすにはもはや十分ではありません。これらの機能強化により、AWS IoT SiteWise は、データを資産として活用するためのスケーラブルで統一された統合アプローチを可能にする最新の産業用データ基盤を実現します。コスト効率が高く、安全で再現性のあるフレームワークを提供することで、お客様が産業変革のための強固な基盤を構築し、業務を最適化するのに役立つ産業用データセットへのアクセスを可能にします。

AWS のお客様であるバイオ医薬品の世界的リーダーである Bristol Myers Squibb (BMS) は、AWS IoT SiteWise による産業データ基盤の近代化によって業務変革を実現されたお客様です。生物製剤、製薬、細胞療法の各部門にわたる事業戦略を強化するという目標を掲げており、BMS は従来のデータシステムの見直しの必要性を認識しました。彼らの主な目的は明確でした。1/ 企業全体の可視性を実現すること、2/ エンドツーエンドのトレーサビリティを確立すること。3/ プロセス監視、予測的資産保守、継続的プロセス検証 (CPV) のための検証済みの単一エンタープライズソリューションを実装すること。

BMS は、企業全体の可視性と分析を強化できるデータ管理への統合アプローチを求めて、AWS IoT SiteWise を採用しました。BMS は、Enterprise PI Historian からデータを引き出し、それを AWS 上の統合データレイクに送ることで、データ管理においてかつてないスケール、パフォーマンス、スピードを実現しました。

BMS の重要な進歩の 1 つは、エンタープライズリソースプランニング (ERP) やその他のシステムからの情報とデータを集約することで、データにコンテキストを追加できることでした。これにより、さまざまな場所で製造されている製品バッチのより詳細なサイト分析が可能になりました。

「生物製剤、製薬、細胞療法におけるビジネス戦略の改善を目指すにあたり、可視性とトレーサビリティの強化が不可欠であり、AWS IoT SiteWise は完璧なソリューションでした。AWS を使用してデータ基盤を最新化することで、さまざまなデータソースを統合データハブにシームレスに統合し、効率とスケーラビリティを最適化しました。この変革により、さまざまなシステムからのデータを組み合わせることができ、複数のサイトにわたる製品バッチの洞察に満ちた分析が可能になりました。これにより、アセットのメンテナンスを予測する能力が大幅に強化され、新しい潜在的なユースケースに光が当てられました。これはゲームチェンジャーです。」— Nitin Bhatti, GPS IT, Manufacturing Analytics at Bristol Myers Squibb

BMS の変革は、将来のイノベーションの舞台となりました。インフラストラクチャが最新化されたことで、Predictive Asset Maintenance (PAM) や多変量分析など、新たなユースケースを検討できるようになりました。長期的なビジョンには、データの使用と分析を現場の担当者の範囲を超えて拡大し、企業全体の包括的な視野を提供することが含まれます。

AWS パートナーと協力してビジネス成果を実現

デジタルトランスフォーメーションを進めている産業界では、プロジェクトの拡大が難しいことに気付きました。PoC から大規模な企業への本格導入までイニシアチブをとることは、リソースを大量に消費し、専門的なスキルが必要です。AWS パートナーは、業界全体にわたる深い専門知識を持ち、基幹業務のユースケースを解決するソリューションを提供することで長期的な顧客価値を生み出すために必要な推進要因を理解しています。これらのパートナーは、お客様が AWS IoT SiteWise を使用して堅牢なデータ基盤を構築できるよう支援し、そのデータ基盤を使用してお客様の特殊なユースケースの解決を支援します。AWS IoT SiteWise パートナーのいくつかの例を以下に示します。

EOTTwin Fusion を構築しました。これは、AWS IoT SiteWise を使用して、AWS クラウド内の高度な分析、ML、生成 AI を活用してレガシー IoT データの活用、管理、視覚化、アクションを実現する、Software-as-a-Service (SaaS) 製品です。Twin Fusion は、産業データファブリック (IDF) に関する AWS ガイダンスの一部です。Twin Fusion は、マシンや時系列データからの IIoT データやセマンティックデータを AWS IoT SiteWise に取り込むためのエンドツーエンドのソリューションを提供します。Twin Fusionは、複数の産業用データソースからのメタデータを統合する企業全体のデジタルツイングラフアセットモデルを提供します。この製品は、エンドユーザーデータ分析、アセット階層検索、埋め込みMLモデル、およびAIによる産業資産の企業全体の最適化のためのオペレーションダッシュボードを提供します。

TCS は、時系列データを AWS サービスでモダナイズするパートナーであり、エッジと AWS クラウドに AWS IoT SiteWise をデプロイすることで、顧客の価値実現までの時間を短縮しています。TCS は、お客様が複数の時系列データを単一のエンタープライズクラウドヒストリアンに取り込み、データのサイロ化を解消して、機器のダウンタイムの最適化、サイクルタイムの改善、一貫した生産性、不良率の低下、環境コンプライアンスなどの産業上の課題を解決できるよう支援します。

Edge2Web は、ノーコードおよびローコードの産業用アプリケーションのオープンプラットフォームの基盤として AWS IoT SiteWise を使用しています。Edge2Web アプリケーションは、お客様が資産をより適切に管理し、機械のダウンタイムを削減し、製品品質を向上させ、生産パフォーマンスを最適化するのに役立ちます。

TensorIoT は、AWS IoT SiteWise 上に構築された SmartInsights ソリューションを開発しました。SmartInsights は、「起こったこと」と「これから起こること」を1つの画面で確実に視覚化します。SmartInsights を使用すると、お客様は予知保全、リモートアセット監視、再生可能資産の性能予測と保守などのユースケースを解決できます。

Radix Engineering は、産業界のお客様がエッジに保存されている時系列データを活用し、AWS IoT SiteWise を使用して従来の産業オペレーション技術 (OT) アーキテクチャを最新化できるよう支援すると同時に、統合された機械学習 (ML) モデルと洞察により運用と信頼性の向上を促進することに重点を置いています。

これらのパートナーソリューションはそれぞれ、特定の産業上の課題に対処するだけでなく、長期的なビジネス価値と効率性を実現するためにデジタルトランスフォーメーションの取り組みを成功させる上で、専門知識と AWS IoT SiteWise などの高度なツールが果たす重要な役割を示しています。

変革の青写真

トヨタ自動車北米と Bristol Myers Squibb の成功事例は、他の企業の青写真として役立っています。これらのリーダーをはじめとする多くの企業が、スケーラブルで再現性のある産業データ基盤を提供するサービスとして AWS IoT SiteWise を採用し、それを日常業務に統合し、過去およびリアルタイムの機器データの力を活用してデジタルトランスフォーメーションの価値を実現しています。

AWS IoT SiteWise を開始するには、ここをクリックしてください。re:Invent 2023 に参加する場合は、以下のセッションに参加して、これらの新機能を深く掘り下げてください。

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この記事は Sophie Pagalda、Sharon Allpress、Jan Borch、David Castro によって書かれた The Blueprint for Industrial Transformation: Building a Strong Data Foundation with AWS IoT SiteWise の日本語訳です。この記事は Solutions Architect の西亀真之が翻訳しました。