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ライブOTTイベントにおけるコンテキスト化された視聴者エンゲージメントと収益化

人気のライブ配信イベントの多くは、そのコンテンツのスリルや予測不能性、新鮮さ、未知要素によって、視聴者の高い注意を引き付けます。一方、オーバーザトップ (OTT) の世界では、ラストマイルのネットワークレイテンシーとメディアプレーヤーバッファによって、多くの場合、視聴者はリアルタイムよりも少なくとも数秒遅れに抑えられています。視聴者のその関心の高まりとラストマイルのネットワークレイテンシーを組み合わせて活用することで、コンテキスト化されたハイパーターゲットによるエンゲージメントや、ティーザー広告、サプライズを提供することができます。それは、収益化の機会の増大や効果的な視聴者エクスペリエンスにつながる可能性があります。ライブコンテンツのコンテキストと視聴者プロファイルに応じて、パーソナライズされ、コンテキスト化されたエンゲージメントのインストルメント(手段)を、ほぼリアルタイムで視聴者のインターフェイスにプッシュすることが可能です。そのようなインストルメントには、トリビア、クーポンのオファー、投票、コンテスト、アクションを促すパーソナライズされた広告などがあります。

ライブイベントの特別な瞬間に伴う喜びと衝動は、視聴者側から見ると短命です。そのような決定的瞬間を、可能な限りパーソナライズされた最高の満足度をもって活用することが重要です。それがより長期的にはチャーンの減少、ブランド価値の高まり、コンテンツサービスプロバイダーの収益増大につながります。

この記事ではこの問題に適したソリューションを実装する際に伴う代表的な課題についてご説明します。さらに、このようなオポチュニティ向けに導入できるソリューションフレームワークを提供します。

参入への障害

市場調査によってこのようなソリューションが成功すると予測され、さらにはエグゼクティブスポンサー役が整っている場合でも、企業にとっては依然、次のような潜在的な障害が存在します。

  • 機械学習のユースケースを提供するための、組織内の専門知識やインフラストラクチャの可用性の有無。機械学習モデルの精度だけでなく、スケーラビリティ、信頼性、低レイテンシーも、このようなユースケースにおけるアーキテクチャ上の重大な懸念事項です。
  • スケーラブルで信頼性が高く、安全で、高性能のイベント駆動型ソリューションを提供することに対する、チームの自信と余裕。
  • 短いタイムツーマーケットのソリューションを提供できるアジリティ。
  • コストの正当化と最適化。このようなビジネスモデルは、多くの場合、実験的なものであり、進化を成功させるためには数回の繰り返しが必要です。

この記事では、クラウドネイティブアーキテクチャを使って、これら潜在的な参入障害のほとんどについて効果的に対処できる方法をご説明します。

エンゲージメントの方法を決定する

視聴者IDとメディアプレーヤーの現在位置情報とともにリクエストを受信した場合、視聴者がこれから見るもの(ラストマイルのネットワークレイテンシー時間がある場合)や、直前の数秒間に見ていたもの(エクスタシーや決定的瞬間の時間範囲内で)を調べることができます。パズルの次のピースは、この分岐点で視聴者に何のインストルメントを届けるのがベストか、ということです。ハイパーターゲット広告やエンゲージメントウィジェット、マーケティングクーポン、または、視聴者に個人的満足をもたらすその他任意の超革新的な方法でもいいのです。実装の観点からは、ルールエンジン、効果的なセグメンテーションアルゴリズム、または機械学習分類子が必要になります。この分類子は、ビジネス上許容できるレベルの精度と、必要な信頼性、スケーラビリティ、レイテンシーをもって、このような決定を提供できる必要があります。本シリーズの後続ブログでは、AWSでこのような効果的なメカニズムを、高いアジリティ、スケーラビリティ、費用対効果をもってどのようにセットアップできるかについてご説明します。

コアソリューションのビルディングブロック

つづいて、ライブOTTイベントにおけるコンテキスト化された視聴者エンゲージメントのユースケースを提供するために必要な、コアソリューションのビルディングブロックについてご説明します。

  1. ライブストリームソース:ライブストリームの生成は、AWS Elemental MediaLiveへの入力に始まり、AWS Elemental MediaPackageを介し、Amazon CloudFrontで視聴者の消費用エンドポイントが提供されます。アウトプットのHLSストリームは、視聴者の消費用と、ライブイベントに関するコンテキストとインサイトの取得用の両方で使用されます。
  2. ライブストリームアナライザー:これは Amazon Elastic Computing Cloud (Amazon EC2)インスタンスでホストされるPythonスクリプトで、ライブストリームのマニフェストファイルを継続的に読み取ります。ライブイベントの場合、イベントの進行に伴いトランスポートストリーム (TS) のセグメントがマニフェストに増分として追加されていきます。Pythonスクリプトは、イベント開催中はループで実行し、そのような増分のTSセグメントを対象にポーリングさせる必要があります。新しいTSファイルが受信されると、Pythonスクリプトによってその完全修飾URLは事前設定されたAmazon Simple Notification Service(Amazon SNS)トピックに投稿され、さらに下流分析の対象となります。レイテンシー問題を最小限に抑えるために、このインスタンスを、MediaPackage(使用する場合)と同じリージョン、または最寄りのエッジキャッシュに最も近いリージョンで起動することが推奨されます。さらに、複数のアベイラビリティゾーンにわたってAuto ScalingグループでこれらのEC2インスタンスタイプをホストすることにより、必要なパフォーマンスと可用性が実現できます。
  3. コンテンツアナライザー:AmazonSNSトピック(前のセクション参照)から新しいTS ファイルURLを受信すると、AWS Lambda関数がトリガーされ、TSセグメント内のコンテンツが分析されます。コンテンツ分析タスクには、スポーツジャージー、有名人、顔の表情、スポンサーロゴ、テキスト、音声トランスクリプトなど、興味の対象が含まれます。Amazon RekognitionAmazon TranscribeAmazon ComprehendなどのAWSサービスでは、このような分析にすぐに使用できるインターフェイスが用意されています。Amazon Simple Queue Service(Amazon SQS)ファンアウトパターンの使用によって、リクエストはコンテンツ分析のそれぞれの局面に応じて個別のLambda関数にルーティングされ、結果はAmazon DynamoDBに保持されます。視聴者の読み取りリクエストが確実にレイテンシーをもって処理されるよう、Amazon DynamoDB Accelerator (DAX) が使用されます。ほとんどのシナリオでは、2秒ごとに1フレームを処理し、コンピュートリソースのコストと使用量を最小限に抑えることが推奨されます。さらに、コンテンツを総合的に分析するか、サブセットのみを分析するかについては、視聴者を惹きつけ満足させるための戦略にどちらが必要かという、ビジネス上の選択になります。
  4. コンテキストパーソナライザー:メディアプレーヤーの現在位置が分かっていれば、視聴者が直前の数秒で何を見たかを特定することができます。また、数秒後に何を見るかを特定することもできます(ラストマイルのネットワークレイテンシーまたはプレーヤーバッファがあると想定した場合)。同様に、ビューアIDが照会され、最も一致するデモグラフィッククラスターまたは行動学的クラスターが特定されます。これら2つの入力に基づいて、コンテキストに応じた最適なパーソナライザーインストルメントが決定され、視聴者に配信されます。対象のコホートを正確かつ適切な内容に保つには、定期的に更新される機械学習クラスタリングモデルが必要です。さらに、ビジネスインプットの場合は、パーソナライズされたインストルメントを選択するルールエンジンを使用することも可能です。たとえば、デモグラフィッククラスターA、行動クラスターBに対して、サッカーの試合でお気に入りのチームが勝利した場合、視聴者に提示できる最高のものは何でしょうか?選択肢には、広告、クーポン、または報酬付きのトリビア問題などがあります。実装が成熟していけば、この機能を機械学習分類子に置き換えて、視聴者への配信に最も適切なインストルメントを予測することができます。
  5. パーソナライザーインストルメントフィルター:お気に入りのライブイベントで夢中になっている視聴者に対して、干渉と雑音のレベルは戦略的に最低限に抑えることが重要です。したがって、モジュールから受け取った複数の選択肢の中から最高の1つ(または2つ)のみを提供することで、視聴エクスペリエンスにスムーズに溶け込ませ、許容できるものにします。Amazon Personalizeを活用してコンテキストパーソナライザーインストルメントを、特定の視聴者に対して最も関連性が高いと予測された順にランク付けできます。
  6. キャンペーン管理インターフェイス:厳密にはこのソリューションコンテキストの範囲内ではありませんが、目標や目的、フライト、支出、エンゲージメントツール、ターゲットセグメントなどの点で包括的なキャンペーンサイクルを管理するには、キャンペーン管理ツールとの連携が不可欠となります。

次の図は、これらビルディングブロックの統合により、このソリューションが実現される仕組みを示しています。

視聴者エンゲージメント向けに機械学習を導入

このソリューションの構想に機械学習を組み込むことは不可欠ですが、以下に示すような課題が伴います。

  • One-size-fits-all(万能パターンの)スタイル:コンテンツ、デモグラフィック、行動の多様性、その他の影響要因によっては、1つの機械学習モデルですべてのシナリオに対して結果が得られるとは限りません。例えば、同じサッカーの試合を見ているときでも、若い成人の期待値とエンゲージメントは、大陸をまたいで異なるかもしれません。
  • データのコスト:多様で大規模なデータを取り込み分析すること、そして完全な機械学習パイプラインを実現することには、多大なコストがかかります。費用対効果の分析は不可欠です。
  • 移り気なターゲットグループ:視聴者の行動は不安定であることが多く、社会経済的要因やソーシャルメディアの影響によって関心が変化します。
  • 視聴者の真の意向:アプリケーションのクリックストリームからキャプチャされた視聴者の行動は、その真の意図を完全に示していない可能性があります。
  • 運用コスト:すべての視聴者にMLベースのエンゲージメントサービスを呼び出すことは費用対効果に優れない場合があります。視聴者を適切なデモグラフィック、心理学、または行動学のクラスターに動的にタグ付けして、運用コストを削減することが効率的かもしれません。
  • 絶好の機会:ライブイベントに反応する視聴者の高揚感と衝動のスパンを、どのように測定するのが最適なのかという課題があります。

次の図に要約したように、このようなユースケースに向けたソリューションを設計する際に、さらに考慮すべきテネッツがあります。

  • 現在のメディアエコシステムは、移り気な消費者行動により多様となっています。適切な予測変数セットを取得するためには、リアルタイムのコンテンツメタデータ、イベントの特徴量、クリックストリーム、ソーシャルメディアなど、さまざまなソースからデータを取り込む必要があります。
  • 分類子、セグメンテーション、マルコフ連鎖やベイジアンネットワークなどのリアルタイム確率モデルなど、適切なMLモデルのミックスに向かって進化していく必要があります。多くの場合、視聴者の行動は履歴を反映せず、むしろ、状態遷移確率によって、より正確に予測されます。
  • ミニマルでありながらエレガントなユーザーエクスペリエンスを視聴者に提供する必要があります。特定のコンテキストで視聴者に提示されるべき最良のエンゲージメントインストルメントを決定するためにはランキングメカニズムが必要です。
  • 最適化されたモデルトレーニングの実現には、入念なデータ解析、次元低減、ドメイン駆動型特徴量エンジニアリングが必要です。

結論

この記事では、視聴者の注意が絶えず断片化されている世界で、ライブイベント中に視聴者の注意と関心を捉えることが可能であることを概説しました。ライブイベントに伴う注意と関心の高まりに加え、ラストマイルで多くの場合発生するレイテンシーを利用することにより、コンテキスト化され、パーソナライズされたエンゲージメントを通じた、視聴者を取り込むための短くも効果的なウィンドウが得られます。今後の記事では、具体的な実装方法の詳細、クイックスタートガイド、および特定のコンテキストインプット一式に対してパーソナライズされた満足度の得られる選択を効果的に行うためのメカニズムについて詳しくご説明します。


参考リンク

AWS Media Services
AWS Media & Entertainment Blog (日本語)
AWS Media & Entertainment Blog (英語)

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翻訳は BD山口が担当しました。原文はこちらをご覧ください。