Amazon Web Services ブログ
AWSを利用した運航障害中における航空会社の回復と復旧
はじめに
私たちは、いつでも国や世界を飛び回れることが簡単で当たり前のことと思っています。しかし、航空会社は、想像以上に頻繁に、予期せぬ気象現象、山火事、地政学的事象、物流問題、その他、通常業務に影響を与える外部要因などの課題に直面しています。このような事態は運航の乱れにつながり、フライトの遅延や欠航を引き起こし、乗務員のスケジューリングに支障をきたし、結果として収益や旅行者の信頼を失うことになります。
厳格なビジネスプロセス、老朽化したインフラ技術、航空運航をサポートするソフトウエア機能不足によって、イレギュラーなオペレーションが悪化する可能性があります。これらの事象をすべて解決することは不可能ですが、航空会社は効果的に管理することができます。
このブログでは、航空会社が直面する運行中断の可能性を増大させる特有の課題のいくつかに焦点を当てます。復旧時間を改善するための Amazon Web Services (AWS) のソリューションガイダンスを提案し、航空会社が技術スタックの全体的な回復力を高める方法を取り上げます。
課題
技術基盤の老朽化:
今日の航空業界の業務の大部分を支える老朽化したインフラ技術には単一障害点が存在します。ルーターの故障、ネットワークケーブルの切断、ストレージサブシステムの故障のような物理層における単純な問題は、技術チームが故障したコンポーネントの修理に奔走する間、数時間に及ぶグランドストップを引き起こしています。
複数の アベイラビリティゾーンや複数のリージョンを活用した AWSのWell-Architected 設計と組み合わせることで、AWS グローバルインフラストラクチャはハードウェア障害に対する耐障害性を提供し、業界の最新のハードウェアイノベーションをすぐに利用できます。また、需要に合わせて使用量を増減できるため、ピーク負荷を予測してサイズを調整する必要がなくなります。オンプレミスのデータセンターからAWSにワークロードを移行するだけで、IDC によると、お客様は計画外の停止を69%削減できると言われています。
ソフトウエアシステムの不備:
ソフトウェア機能不足は、ハードウェアの障害以上に航空会社のオペレーションに影響を与える可能性があります。航空会社が使用する、新しいフライトスケジュールの生成、航空機の割り当ての決定、乗客の再収容、客室乗務員の割り当てをおこなうニッチでレガシーなソフトウエアシステムの多くは、数十年前のものであり、航空会社が今日直面している大規模な障害に対応できるようには構築されていません。
航空会社はこのような課題を認識していますが、利益率の低い厳しい市場で競争力を維持するために新たな機会を追求しながら、すべての課題に対処するための十分な予算も人材も持ち合わせていません。この技術的負債に対処するための予算を確保する1つの方法は、ワークロードをクラウドに移行してモダナイズすることです。すでに述べた可用性の向上に加え、AWSに移行した顧客は、5年間の運用コストを平均50%削減し、ITインフラチームの効率を平均47%向上させています。これにより、新たな収益を生み出すプロジェクトと技術的負債の解消のため投資できます。
AWSでは、移行方法に柔軟性があります。既存のワークロードを単純にリホスト(リフト・アンド・シフト)して、すぐに回復力とパフォーマンスを向上させることもできます。また、クラウドネイティブサービスを活用して、一からリファクタリングとアプリケーションモダナイゼーションをして、さらなる拡張性とコスト削減を実現することもできます。
AWSには、AWS上に構築された業界固有のソフトウェアを提供するテクノロジー企業を含む、AWS トラベル・サービスコンピテンシーパートナーの豊富なネットワークがあります。ポートフォリオ分析を実施し、固有のワークロードに最適な移行アプローチの決定するのを支援するコンサルタント会社もあります。
手作業によるプロセスは障害からの回復を遅らせる:
障害からの復旧に関わる多くのプロセスは、ほとんど手作業であったり、顧客と航空会社の担当者の間で双方向のコミュニケーションが必要になったりします。そのため、急な人員増強が必要となり、問題解決プロセスが遅れ、顧客体験の低下につながります。
AWSのサービスとパートナー製品は、高度な自動化を実現するのに役立ちます。航空会社は、AWS Step Functions や Amazon Textractといったサーバーレスやローコードのサービスを活用し、手動のワークフローやプロセスを自動化できます。新型コロナウィルスの期間中、ユナイテッド航空のデジタルチームは、旅行書類を検証するソリューションを AWS 上に構築しました。このソリューションは、400万の乗客のためにアップロードされた新型コロナウィルス検査フォームの3分の2以上を自動的に検証し、この要件を満たすために必要な手作業の労力とコストを削減しました。
スタッフや顧客とのコミュニケーション:
フライトの遅延や欠航が発生した場合、顧客が最初に取る行動は、航空会社に電話し代替便を予約します。多くの顧客が影響を受ける大規模なイベントの際、従来のコールセンター・テクノロジーでは、短期間で増加する問い合わせに十分に対応できるようにスケールできません。これでは完全なコミュニケーション不全となり、顧客体験を著しく低下させてしまいます。社内では、客室乗務員が空席状況を報告し、割り当てを取得するために電話をかけようとすると、顧客に対応する代わりに何時間も待たされることになり、さらなる障害につながってしまいます。
業務が中断しても、顧客とのやり取りを適切に処理することで、顧客満足度(CSAT)やネットプロモータースコア(NPS)を向上させることができます。Amazon Connectを使えば、数分でコンタクトセンターを立ち上げることができ、数万人のエージェントで数百万人の顧客をサポートできる規模にスケールできます。航空会社は、需要に合わせてスケールできない融通のきかないレガシーコンタクトセンター技術の代替として Amazon Connect を使用しています。Amazon Connect を使用すると、対話型 IVRでコールをルーティングし、Amazon Lex を搭載したチャットボットで複雑度の低いケースを処理し、顧客からの電話に対応するエージェントにステップバイステップのガイドを提供し、ほぼリアルタイムの会話分析を実行して、顧客のアイデンティティと感情を判断することができます。
デルタ航空がどのように Amazon Connect を採用し、卓越したカスタマーエクスペリエンスを提供し、エージェントとのやり取りを変革し、競争力を維持したかをご覧ください。
データへのアクセスの欠如:
航空会社は、障害に効果的に対処するために、統合された一連のデータ・ドメインに素早くアクセスする必要があります。しかし、復旧に役立つ重要な情報は、組織の境界や技術的な制約により、サイロ化されることがよくあります。その結果、障害を予測したり、障害の影響やコストを定量化したり、障害発生時に迅速に行動できなくなります。障害発生時には、以下のシステムからのデータを統合し、シームレスな影響の把握と復旧を行う必要があります。
- 予約システム
- 出発管制システム(DCS)と空港業務
- IROPS(Irregular Operations)ツール
- 空港オペレーション DB(AODB)
- スケジュール
- バゲージ・ハンドリング・システム(BHS)とトラッキング・システム
- 払い戻しおよび補償管理システム
- CRM およびロイヤルティシステム
航空会社は、すべてのデータを一元的に把握する必要性を認識し、その多くが AWS を利用したデータレイクとクラウドデータウェアハウス機能を構築しています。AWSは、業界で最も広範かつ深い分析と人工知能/機械学習(AI/ML)機能を提供し、お客様がデータをコントロールし、最新のデータ戦略を用いて記述的および予測的分析の両方で深いインサイトを得られるようにします。当社の業界専門家は、Amazon S3 を使用して、最新の無限にスケーラブルなデータレイクや高速で柔軟なレポートを作成するための Amazon Redshiftや Amazon QuickSightなどのサービスを使用して、航空会社に特化した分析ソリューションを構築しました。これらのサービスを組み合わせることで、実用的な洞察が得られ、航空会社を見直しできるデータ主導の意思決定が可能になります。
まとめ/結論
冬の嵐や山火事など、航空会社の運航に影響を与える出来事の多くは防ぐことができませんが、AWSは復旧までの時間を短縮し、悪条件に対する全体的な回復力を高めることができる業界固有のソリューションを数多く提供しています。運用の回復力と分析のニーズについて AWS のトラベル&ホスピタリティの専門家にお問い合わせください。