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【開催報告】AWS Energy Tech Forum 2023

みなさんこんにちは。ソリューションアーキテクトの林です。2023 年 10 月12 日に AWS が主催するエネルギー業界向けイベント「AWS Energy Tech Forum 2023」を開催しました。今年で 2 回目となる本イベントも前回同様のオンライン開催となりましたが、1000 名近くの方にご登録いただきました。今年の本イベントでは、エネルギー業界で先進的に AWS をご活用いただいている、送配電網協議会様、関電システムズ様、JERA 様、北海道ガス様、関西電力送配電様にご登壇いただきました。

オープニング

– 川島 浩史 アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 エンタープライズ事業統括本部 ストラテジックカスタマー営業本部 第三営業部 部長

オープニングでは、エネルギー業界におけるクラウド活用のバリューチェーンや日本のエネルギー企業さまのクラウド活用の拡大についてご紹介しました。また、グローバルでの参考取組みとして、ENGIE 社におけるゼロカーボンエネルギーのためのデジタルプラットフォーム、Duke Energy 社と AWS の戦略的提携とグリッドソリューションの共同開発、NERC CIP 標準の対応をサポートするための AWS ユーザーガイド公開について紹介しました。

電力データで何ができるか 社会課題解決に向けた電力データ集約システムの取り組み

– 田村 豪一朗 様 送配電網協議会 ネットワーク企画部 部長(電力データ活用担当)

セッションでは、送配電網協議会様より、全国のスマートメーターデータを扱う電力データ集約システム構築に至る背景やAWS 選定の理由、実装アーキテクチャなどについてご説明頂きました。ペタバイトクラスの大量データを扱うシステムとして、AWS クラウドの柔軟性と高可用性のメリットを最大限活用した事例となっております。
2020 年 6 月の改正電気事業法により、スマートメーターから得られる電力使用量データを、有事の際に災害復旧などへの活用、平時においても (利用者本人が同意した場合に限り) 社会課題解決などを目的とする活用が可能となりました。スマートメーターデータを活用することで、防災計画の高度化などの災害発生時のレジリエンス強化だけでなく、平時においてもみまもりサービスなどの新たなイノベーションを実現できます。しかし、法改正当時は手作業でデータを抽出しており、データ取得のための作業コストに課題がありました。電力データ集約システムはそのような課題に端を発し、2021 年に検討が開始され、18 カ月の構築フェーズを経て 2023 年 9 月末に運用を開始されております。各エリアで段階的に運用を開始される予定です。全国 10 社の一般送配電事業者から連携されるスマートメーターデータは約 8,000 万件となり、3 年間保持した場合は電力データ量だけで数ペタバイトに及ぶため、システム基盤は大量データを扱うことができ、拡張性がある必要がありました。AWS の拡張性や東京・大阪リージョンの冗長構成での高可用性をご評価頂き、AWS 上での基盤構築の運びとなりました。電力データ集約システムでは全国のスマートメーターデータを収集・加工・蓄積し、Web、API 経由で自治体などの許可された利用者への提供を実現する必要があります。大量データの加工には Amazon EMR を利用した並列加工処理を、増加するデータの蓄積には Amazon Simple Storage Service (S3) を利用して実質無制限でのデータ保存とデータ量に応じた従量課金を実現しております。

関西電力のデジタルトランスフォーメーションを支えるクラウド基盤のアジリティ向上への取り組み

– 金子 恭史 様 株式会社関電システムズ テクニカルラボ クラウド&アーキテクチャグループ アシスタントマネジャー

セッションでは、関西電力様にて組成した CCoE (Cloud Center of Excellence) 組織や活動内容と更なるアジリティ向上のためのクラウド活用方針についてお話いだたきました。クラウド活用推進のための組織づくりや目標設定を検討されている参加者に参考になる具体的な取組みであったと推察します。
関西電力様は 2025 年までに新たな価値創造を目標とした “Kanden Transformation” を進めており、その加速に向けて IT インフラの「迅速さ・柔軟さ」「IT コスト削減」を実現するクラウドの活用を促進されており、2020 年にクラウドファースト宣言と CCoE を発足されました。クラウド活用推進の体制としては、本社組織が技術的な戦略を担いつつ、情報子会社である関電システムズに実動部隊としての CCoE を設置、基盤運用をオプテージ社が担うという体制を取られております。さらには AWS Professional Services をご活用いただくことで、AWS 利用ガイドライン作成などを効率的に実施されております。
直近では更にクラウドのメリットを活かした迅速でアジリティのある運用を実現するために、セキュリティルールの再定義を進められています。具体的には、発見的統制(権限はシステム開発箇所に付与しつつ、リスクのある設定・操作を検知して通知する統制)を導入することで、セキュリティを担保した形でのシステム開発者への権限付与を実現されています。セキュリティリスクに至る可能性のある設定・操作を AWS Config で検知し、AWS Security Hub 連携することで担当者への通知を実現し、セキュリティリスクを即座に発見・対処する仕組みを構築しました。そのほかにも AWS Service Catalog を利用して事前に定義した環境を払い出すことでセキュリティリスクを低減しながらアジリティの向上を実現しています。このような運用変更により、従来であれば 10 営業日以上の申請待ち時間が生じていた作業について、システム開発箇所で完結可能となり、アジリティ向上を実現されています。

IoT/AIを活用した O&M 業務改善の取り組み -Global Data Analyzing Center –

– 島添 道裕 様 株式会社JERA O&M・エンジニアリング戦略統括部 G-DAC モニタリングユニット シニアマネージャー
– 佐藤 正芳 様 株式会社JERA 情報セキュリティ室 マネージャー
– 大澤 正紹 様 株式会社JERA デジタルクリエーション部デジタルトランスフォーメーションユニット マネージャー

セッションでは、JERA 様の発電所データの連係の仕組みから Global Data Analyzing Center (以下、G-DAC) でのデータ高度活用についてお話いただきました。発電所という OT 領域のクラウド連係や高度なデータ活用はセキュリティの懸念から進みにくい分野ですが、積極的に推進されている状況は、同領域を検討する参加者にとって参考になったのではないでしょうか。
JERA 様は発電設備の運転実績/設備データを収集・分析する基盤である IoT Platform を構築し、システム・部門を超えたデータ統合と高度分析による意思決定のスピード化・事業全体の最適化を実現されています。しかし、発電所とのデータ連係において、制御システムを納入する OT ベンダーにクラウドへの連係部分のシステムも依存していたため、データとシステム設計を自社で完全にコントロールできていないことに課題がありました。そこで、AWS Direct Connectによる専用接続と AWS Site-to-Site VPN による暗号化の併用に加えて、AWS Gateway Load Balancer の採用により、国内電力会社向けセキュリティガイドラインに準拠しつつ、システム更新やデータマネジメントを自社でコントロール可能な構成を構築されました。これにより、自社主導の統一的なデータ収集・活用を実現されています。収集したデータは G-DAC により高度に活用されております。2023 年 9 月時点で、G-DAC は国内外 62 の発電ユニットと連携しており、「予兆管理」「性能管理/診断」「運転最適化」を 3 つの柱としてサービス提供されています。JERA 様が独自ノウハウを活用した予測モデルを構築するために、Amazon SageMaker を利用した AI/ML の内製化を実現されております。G-DAC により計画外設備停止時間の 10~20% 削減や年間 1 億円超の燃料費削減を実現しております。

AWS IoT を活用した業務用分野におけるエネルギーマネジメントシステムの開発

– 國奥 広伸 様 北海道ガス株式会社 エネルギーシステム部 エネルギーシステムグループ 係長

セッションでは、北海道ガス様の事業部メンバーが主体となって構築したエネルギーマネジメントシステム (以下、EMS) について、PoC 検討からサービスリリースに至るまでの課題や内製化の取組みについてお話いただきました。AWS やIoT に知見のなかった事業部メンバーが、事業構想からサービスリリースまでを主体的に進めた貴重な事例です。
北海道ガス様は、分散型エネルギー社会の実現に向けて、分散型 EMS の導入促進に取組まれています。2023 年 6 月には、お客さまの設備変更や高額な投資を必要とせず導入できる省エネソリューション「Mys³(ミース)」をリリースされました。Mys³ の事業検討は 2018 年からスタートしており、レガシー設備の IoT 化による季節や負荷に合わせた柔軟な運用にニーズがあるとの構想がありました。しかし、事業立ち上げ時から大きな初期投資ができず、AWS やIoT に知見がない事業部の 3 名が中心となり、PoC を開始されました。プロトタイプ構築に必要な知見を補うために、部署や部門を超えたコミュニティ活動を通じてボトムアップ的に知識を習得されました。コスト削減のため、AWS のサーバレス/マネージドサービスを活用する方針で検討を進め、AWS IoT CoreAWS LambdaAmazon QuickSight を利用した IoT データ可視化のプロトタイプを 5ヶ月、30 万円で構築されました。PoC 後は、コストダウンに加え、セキュリティとアジリティの改善に取組まれました。セキュリティについては AWS の Well-Architected Framework IoT Lens Checklist を利用して改善し、アジリティについては Amazon CodeCatalyst による CI/CD パイプラインの構築により、環境構築やテストの工数の削減を実現されました。このような取組みにより、当初の事業部メンバー中心のまま Mys³ リリースを実現されました。メンバー熱意と積極的に社員に任せる組織文化がサービスリリースにつながった好例だと感じました。

関西電力送配電の次世代スマートメーターシステムにおけるAWSクラウド活用

– 児山 一郎 様 関西電力送配電株式会社 情報技術部 設備業務システムグループ マネジャー

セッションでは、関西電力送配電様にて推進されている AWS クラウドを活用したスマートメーターシステム開発の取組みについてご紹介いただきました。より詳細な内容を公開しておりますので、下記ブログをご確認ください。
(第1回 前半) 関西電力送配電株式会社によるスマートメーターシステムのクラウド採用に向けた取り組みのご紹介 
(第1回 後半) 関西電力送配電株式会社によるスマートメーターシステムのクラウド採用に向けた取り組みのご紹介 
(第2回 前半) 関西電力送配電株式会社によるスマートメーターシステムのクラウド採用に向けた取り組みのご紹介 
(第2回 後半) 関西電力送配電株式会社によるスマートメーターシステムのクラウド採用に向けた取り組みのご紹介 
(第3回 前半) 関西電力送配電株式会社によるスマートメーターシステムのクラウド採用に向けた取り組みのご紹介 
(第3回 後半) 関西電力送配電株式会社によるスマートメーターシステムのクラウド採用に向けた取り組みのご紹介 

クロージングセッション ~ AWSからのご支援 ~

– 丹羽 勝久 アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 エンタープライズソリューション本部 ユーティリティソリューション部 ソリューションアーキテクト

クロージングセッションでは、AWS の提供するご支援プログラムについてご説明しました。AWS はお客様の企画・構想段階から検証、実現までの全てのフローにおいてご支援可能なメニューを用意しております。セッションでは、複数のプログラムセットの中から DIP (Digital Innovation Program) によるイノベーション創出支援、プロトタイピングによるお客様と共同した AWS 環境の構築支援のプログラムについてご説明しました。また、クラウド標準環境構築・ガイドライン作成などをご支援可能な有償コンサルティングサービスである AWS Professional Services についてもご紹介しました。ご興味あれば担当営業までご連絡ください。

おわりに

日本のエネルギー産業は 5D (Digitalization、De-carbonization、De-centralization、De-population、Deregulation) と呼ばれる大きな変化の波にさらされています。今回の Forum を通じて、その多くの変化が「デジタル」に関係してきている事を実感しました。ご登壇いただいたお客様は、エネルギー業界で先進的に AWS を活されております。セッションでは、検討の背景から実現までのプロセスをお話をいただいたことで、参加者の方々がクラウド活用を進める上で必要な具体的な方針をイメージできたのではないでしょうか。今後も、先進的な取組みを発信されたいお客様にイベント登壇いただき、これから取組みを進める皆様への参考としていただけるように活動を続けて参ります。

著者プロフィール


林 隆太郎 (Ryutaro Hayashi)

大手ガス会社にてガススマートメーター、電力トレーディングのシステム開発を経験した後、総合商社にて全社の IT/DX 推進と国内外のエネルギー領域での事業投資、新規事業開発を担当。現在は AWS 電力・ガス業界のソリューションアーキテクトとして業界知識を活かした AWS 活用に携わる。