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小売業のデジタルコマースを最適化する 4 つの重要なステップ

本ブログは、小売業向け AWS の e-book 「小売業のデジタルコマースを最適化する 4 つの重要なステップ」の概要と、具体的なユースケースと関連する技術のハイライトを解説するものです。このガイドは、クラウドで次世代テクノロジーを活用し、小売業界を変革する方法に関心を持っている小売業界および IT 業界のビジネスリーダーを対象としています。

クラウドによる e コマースの変革

米国における 2023 年の e コマース売上高は 1 兆 1,187 億 USD(前年比 7.6% 増)で、総売上高の 15.4% を占め、世界全体では 7.4 兆 USD に達しています。小売企業は優れた購買体験やカスタマーサービスを提供するため、スマートなデジタルコマースプラットフォームに注目しています。 生成 AI などの革新的な技術が e コマースに新たな機会をもたらし、先進企業はフルフィルメントの自動化やパーソナライズされた顧客体験の提供を行っています。多くの大規模小売企業は、従来の e コマースに代わり、新しいデジタルアーキテクチャに投資しています。デジタルコマースはオムニチャネル体験を提供し、俊敏で柔軟性があり、費用対効果の高いプラットフォームであることが不可欠です。リアルタイムストリーミングや会話型コマース、パーソナライゼーションなどの機能により、新たな消費者層へのリーチやコンバージョン率の向上に役立ちます。

モダナイゼーションのステップ:デジタルコマースの可能性を引き出すための 4 つのステップ

AWS は小売企業向けに、e コマースプラットフォームを構築するための 4 段階のプロセスを推奨しています。これは、既存のデジタル投資を活用しつつ、クラウド機能を導入することで、迅速な成功と優れた顧客体験の提供を目指すものです。

  1. 俊敏で費用対効果の高いデジタルコマースプラットフォームを構築する
  2. パーソナライズされた没入型の体験を提供してコンバージョン率を高める
  3. 革新的なソリューションでより多くの消費者にリーチする
  4. 消費者の期待に応え、それを上回る

ステップ 1:俊敏で費用対効果の高いデジタルコマースプラットフォームを構築する

小売企業の目標は、チャネル間でスムーズかつ切れ目のない顧客体験を実現することです。これには俊敏で費用対効果の高いデジタルコマースが不可欠です。クラウドへの移行により、企業はその多機能性を活用して費用対効果を得られます。 モダナイズされた IT インフラを持つ小売企業は、マイクロサービスアーキテクチャを導入し、個別のビジネス機能を API で組み合わせることができます。これによりコマースアプリケーションを大規模に構築できます。 また、ヘッドレスコマースの手法により、バックエンドサービスをフロントエンド(POSシステム、e コマースサイト、モバイルアプリなど)から分離します。これらの手法により、企業はどのチャネルからでも一貫した顧客体験を提供し、さらにその体験をパーソナライズして、コスト削減とイノベーション促進を実現できます。 AWS への移行で、企業はコストを最大 66% 削減しながら、スケーラビリティ、柔軟性、セキュリティを向上させられます。

小売企業は、レガシーアプリケーションをクラウドに移行することで、モダンなデジタルコマースプラットフォームへの移行を開始できます。徐々にマイクロサービスベースのプラットフォームへの投資を増やしながら、古いシステムを段階的に廃止できます。また、業界団体への加入は市場での優位性獲得に役立ちます。AWS は 2022 年に MACH Alliance に加盟し(関連ブログ)、小売企業が自由にソリューションを組み合わせ、新機能を提供し、優れた顧客体験を構築できる共通の e コマースアーキテクチャの構築を支援しています。

例えば、英国第 2 位のスーパーマーケットチェーン Sainsbury’s は、AWS への移行により、年に 5~6 回だったプロダクトリリースが 1 日に複数回行われるようになり、カスタマーエンゲージメントが 5 倍に増加しました。

ステップ 2:パーソナライズされた没入型の体験を提供してコンバージョン率を高める

e コマースウェブサイトは、優れた顧客体験を通じたコンバージョン率の向上を目指しています。これには購入プロセスから「フリクション」、つまりは煩雑さを減らすことが重要です。ページ読み込み速度の改善、検索の効率化、チェックアウトの簡素化などが効果的です。AR(拡張現実)、パーソナライズ、ライブストリーミングなどの新機能導入も、顧客満足度とロイヤルティの向上に貢献します。
AWS は継続的に新しい e コマースツールやソリューションに投資し、パートナーコミュニティを拡大しています。AWS への移行により、企業は既存のパッケージツールを活用してデジタルコマースの運用を効率化し、コンバージョン率と売上を向上できます。これにより企業はリスクと資源を抑えつつ、革新的な商品開発が可能になります。AWS for Retail は、没入型小売体験の創出に必要な高度なコンピューティング能力を提供し、新世代の顧客体験をサポートします。

AWS とそのパートナーは、小売企業向けに多様なソリューションを提供しています。これらは顧客体験の最適化、運用効率の向上、売上増加を目的としており、以下のようなソリューションがあります。

企業は 3D コマース、AR、バーチャル試着などを活用してオンラインで実店舗に近い体験を提供できます。没入型の小売ソリューションは、ブランド価値の維持とデジタルトレンドセッターとの連携を支援して購買体験を変革します。

例えば、大手オンラインアパレル小売企業の Zappos は、AWS への移行により、e コマース体験を大幅に改善しました。分析と機械学習を用いて、消費者に合わせたサイジングや検索結果を提供し、99% の検索を 48 ミリ秒未満で完了させるなど、高速で柔軟な顧客体験を提供しています。

ステップ 3:革新的なソリューションでより多くの消費者にリーチする

消費者はスムーズな商品発見、パーソナライズされた体験、多様なサービスチャネル、セルフヘルプオプションなどを求めています。また、ソーシャルメディアを通じた e コマースビジネスの潜在価値は高く、2025 年には米国で 1,000 億 USD 規模に成長すると予想されています。 小売業のデジタルマーケティング担当者は、多様なアプローチを追求し、ターゲット層に応じた戦略を立てる必要があります。こうしたことに対して、企業はオンラインマーケットプレイスやソーシャルコマースプラットフォームを通じて、高度な購買体験を提供する必要があります。 オムニチャネルデジタルコマースでは、 AI や機械学習を活用して、適切な消費者に適切なタイミングでリーチできます。Amazon のようなデジタルマーケットプレイスの構築も、ブランドのリーチ拡大に有効な方法です。

世界中の小売企業が AWS とそのパートナーと協力し、最先端のデジタルコマースプラットフォームを構築しています。これには、ゲームプラットフォームでの商品広告配信、Amazon PinpointAmazon Advertising などを活用した自動化されたインテリジェントなマーケティングシステム、そしてオンラインマーケットプレイスが含まれます。特に Amazon Pinpoint は、多様なチャネルを通じて顧客とつながる柔軟なマーケティングサービスを提供し、業界トップクラスの配信率を実現しています。また、AWS パートナーの Cisco Meraki はスケーラブルなマーケットプレイス作成を容易にするプラットフォームを提供しています。

例えば、日本のオンラインスナック小売企業の snaq.me は、約 5 万人の会員にパーソナライズされたおやつを提供しています。以前の独自システムの問題を解決するため、Amazon Pinpoint に移行しました。これにより、適切な対象者に的確なメッセージを届けられるようになり、日常業務が 4 時間短縮され、1 日あたりの売上収益が 3 倍に増加しました。

ステップ 4:消費者の期待に応え、それを上回る

効果的なデジタルストアフロントを構築した後、小売企業は顧客ロイヤルティの維持に注力する必要があります。これには、多様な買い物方法のサポートと効率的な注文処理が不可欠です。つまり、適切な商品を適切な場所に適切なタイミングで届けるという基本に常に対応することです。革新的な小売企業は、BOPIS(オンラインで購入して店舗で受け取り)、BOSFS(オンラインで購入して店舗から配送)、ROPIS(オンラインで予約して店舗で受け取り)などのフルフィルメントオプションを提供しています。また、「エンドレスアイル」を設けて、店舗にない商品の直接配送も可能にしています。 返品と交換のプロセスも簡素化し、顧客のニーズに応じて様々なオプションを提供しています。 これらの複雑なサービスと物流プロセスを管理するため、クラウドベースのソリューションが有効です。これにより、ジャストインタイム配送や円滑な返品処理が可能となり、長期的に顧客満足度を維持できます。

AWS は 20 年以上にわたり、小売企業向けの優れたショッピング体験を提供するソリューションを支援してきました。主な例として、オムニチャネルフルフィルメント、Amazon Connect による効率的なカスタマーサービス、インテリジェントなサプライチェーン管理、スマートストアの実現、分析と機械学習による顧客離れの低減、ラストマイルフルフィルメントの強化、生成AIを活用した効率性の向上などがあります。これらのソリューションにより、小売企業は顧客満足度を高め、業務効率を改善し、競争力を維持できています。

例として、英国の大手食料品チェーン Morrisons は、Amazon Connect を導入し、8 週間で俊敏でスケーラブルなクラウドベースのコンタクトセンターを実装しました。これにより、新しい顧客体験の提供と自立した運用が可能になりました。 一方、高級フットウェアブランドの Kurt Geiger は、オンライン顧客体験の向上に取り組んでいましたが、不正広告によるカスタマージャーニーの中断に悩まされていました。AWS パートナーの Namogoo の機械学習ソリューションを導入し、不正広告をブロックした結果、コンバージョン率が 6% 向上し、400 万ポンド以上の収益回復を実現しました。

次のステップ:AWS でデジタルコマースの最適化を実現する

小売企業の成功には、イノベーションと最適化が不可欠です。AWS は、世界最先端の小売業から生まれたクラウドサービスのリーダーとして、消費者の期待に応え、運用を最適化し、ビジネスインサイトを強化するソリューションを提供しています。 AWS を活用するためのステップとして、現在のプラットフォームの評価、迅速な成功機会の特定、AWSソリューションの検討、AWSリテールコンピテンシーパートナーとの連携が挙げられます。AWS にご相談いただき、競合他社に先駆けて市場機会をつかみ、再現性のある成功を実現しましょう。詳細は、本 e-book やその他の e-book もぜひご覧ください。

本ブログはソリューションアーキテクトの松本が執筆しました。