今回のブログでは、 AWSジャパン・パブリックセクターより、「米国空軍が、戦闘機・航空機の予知保全のために AI を用い、ミッション遂行能力を高めている方法」を紹介します。予知保全(predictive maintenance)とは、実際に故障・修理が必要となる”前”に、多様なデータを解析して状態を把握する技術を指します。
AWSでは、同様の方向性の取り組みを日本の防衛分野でも推進していくべく、各関係機関との対話を歓迎します。ご不明の点、「Contact Us」までお問合せください。(以下、米国現地のチームが執筆したブログの翻訳となります。)
未然に防ぐことでコストを合理化
思いがけなく機器が故障し、公共部門の各組織がメンテナンスや修理を行うことになる場合に備えて、各組織においてはミッション・クリティカルな機器のバックアップと稼働継続に特化し、専念するための対処方法とリソースを常に備えておくことが必要になります。各組織のカバー範囲が防衛・教育・市民サービス・ヘルスケアなどどの分野であるかにかかわらず、ハードウェアが故障している間にその分の業務が遅れると、コスト、時間、労働力が余分にかかり、各機関にとってのミッション遂行の妨げとなります。例えば、米国空軍の航空機の一機が国外で故障すると、軍は離陸できなくなった航空機を修理するために特定の部品と資格を持ったチームを乗せた航空機を別便で飛ばさなければならず、これには無論、莫大な費用がかかります。この課題を解決するには、リアクティブなアプローチからプロアクティブなアプローチに転換する 「AI 駆動の予知保全(predictive maintenance solutions powered by artificial intelligence)ソリューション」が役立ちます。
予知保全ソリューションには、オペレーションのモニタリング、異常の検出、および機器が故障する前に潜在的な欠陥や故障を予測するための AI アルゴリズムとデータ分析ツール──を使用します。クラウドでデータ分析ソリューションを有効活用することによって、データ収集を自動化し、問題が発生する前に機器を修理するための措置を講じることができます。これは、修理箇所の集計といった時間がかかる非常に細かいタスクから[自動化することで]スタッフを解放し、ミッションを完了するための支援を行う時間を増やすことに繋がります。米国空軍では、
全航空機の約 30% が常に整備のために駐機しています。航空機が一体”いつ”故障するのかを予測できれば、航空機をいつでもミッション・レディーな状態にしておき、メンテナンス・コストを削減することができます。米国空軍は予知保全ソリューションの構築に関して、Amazon Web Services (AWS) を活用する実用的な予知保全ソリューションを作成するために、女性経営者によって率いられる中小企業(a woman-owned small business)の PavCon, LLC, (PavCon) に支援を求めました。米国空軍と PavCon は、米国政府のセキュリティおよびコンプライアンス要件を満たし、かつ IL5 ミッション・クリティカル・データ[訳注:Impact Levelについては
こちらを参照]をホストするように設計された AWS GovCloud (米国) 環境上でこのソリューションを立ち上げました。
PavCon は、 CRiSTL™ ソリューションの構築に際して AWS と協力しました。このソリューションを用い、故障が実際に発生する前に、どの航空機部品に破損する可能性、または修理が必要となる可能性があるかを予測することによって、米国空軍がミッションに対応する準備を整えておくことができます。PavCon CRiSTL™ ソリューションは、単一のアルゴリズムで、米国空軍が 12 か月間のうちに材料費 125 万 USDの損失を被ることを回避しました[=未然の予測で、そうした故障が起きることを防ぎました]。米国空軍は他のタイプの飛行機に比した場合のコスト削減に成功しただけでなく、実装から 10 か月以内で C-5 [訳注:ロッキード社がC-133「カーゴマスター」の後継として開発した大型ジェット輸送機]がミッション遂行可能な状態でスタンバイしている割合を 8.1% 向上させるとともに、8 個の部品に限定したモニタリングを行っただけでも KC-135
[訳注:アメリカ空軍などが運用しているボーイング社製の空中給油・輸送機] に関連する 840 万 USD を超えるコストをも回避することができました。米国空軍航空機動軍団 (AMC) の報告によると、この結果、MICAP (Mission Impaired Capability Awaiting Parts、部品不足のためにミッション遂行が不可な) 状態が 18%も削減されています。PavCon が採用したアプローチによって、AMC は、予知保全プログラムを用いてモニタリングするようになった部品に関連するミッション・リカバリ・チーム (MRT) の必要性自体も[待機時間を減らすことで]削減することができました。その一例として、AMC は、予測的にモニタリングされている部品について C-130 フリートが過去 6 か月間に出動要請した MRT がゼロであり、多額のコストを回避したことを挙げています。PavCon が先導するこの業務は米国空軍エンタープライズ全体にわたり実施され、6,000 人を超えるユーザーに実用的なアウトプットとソリューションを提供しています。
“触らぬ神に・・”に反して
米国空軍のグローバル・ストライク・コマンド (AFGSC) A4 Mx/ロジスティクス変革オフィスの Mark A. Lipinski 曹長は、次のように述べています。「長年言われて続けてきたことわざ、
『触らぬ神にたたりなし 』の時代は終わりました。「従来の慣習に逆らう」という米空軍のグローバル・ストライク・コマンドの判断は、CBM+ (Condition-Based Maintenance) によって正当化されています。グローバル・ストライク・コマンドは、これまでの労力とコストがかさむ予定外の航空機の故障に先手を打つため、PavCon, LLC と連携しました。PavCon が AWS の AI と機械学習ソリューションを利用したことで、航空機のメンテナンス予測や、トラブルを起こしがちな機器・部品への供給アセットの集中という点において、大きな変革をもたらしました。私たちはAWSと共に、”メンテナンス”という考え方のパラダイム自体に、恒久的な変化をもたらすでしょう」。「航空戦闘軍団 (ACC=Air Combat Command)/A4 は、航空機の予定外のメンテナンスを回避し、航空機コンポーネントの信頼性を向上する CBM+ (Condition-Based Maintenance Plus) 予知保全に価値を見いだしています」と話すのは、ACC/A4A 航空宇宙エンジニアの Robert Norcross 博士です。「これまでのところ ACC/A4 では、CBM+ を適用して、リード・コマンド・ポートフォリオの 75% が、航空機の可用性と全体的な準備状況を向上することに役立っています。この 1 年で、CBM+ コンポーネントの需要を満たすための供給が上昇しており、予定外のメンテナンスを削減するという USAF CBM+ の目標を達成するための取り組みをサポートしてくれています」。
このような成果を挙げるため、PavCon のソリューションでは、データベースのホストとスケーリングに
Amazon Elastic Compute Cloud (Amazon EC2) と
Amazon Relational Database (Amazon RDS)、およびコンプライアンスの確保とリスクの評価などに
AWS CloudTrail を使用するとともに、
Elastic Load Balancing (ELB)、
Amazon ElastiCache、
AWS Database Migration Service (AWS DMS)、
AWS Lambda、
Amazon WorkSpaces、
Amazon Elastic Block Storage (Amazon EBS)、
Amazon EMR、
Amazon Athena、
AWS Glue、および
Amazon QuickSight ──なども活用しています。クラウドで作業することによって、業務を継続し、必要に応じてスケールして需要を満たすための可用性と耐障害性を実現することが可能になりました。[AWSとPavCon社の協力による]このソリューションは、米国空軍が予算を要求・確保し、スタッフの利用を最適化し、継続的に安全性を重視するために役立ちます。効果的なソリューションを実装した米国空軍では、スタッフが非常に手間の掛かる悉皆的なデータ収集を行う必要がなくなり、チームは、人手を要する書類手続きやデータ入力などのデータ指向のタスクをせずに、予知保全ソリューションを活用することが可能になりました。最も重要なのは、予知保全を使用することにより、より多くの航空機がミッション対応可能な状態になったという点です。これは、国防にとって重要な優先事項です。予知保全は、これからも必要とされ続けます。このソリューションは、船舶、建物、自動車など、あらゆるタイプの物理資産に真の価値をもたらします。物理ハードウェアの部品がいつどこで故障するのかを予測することで、組織は機器の準備、予算編成、交換を能動的に実施できます。リアクティブなモデルからプロアクティブなモデルに移行することで、組織はコスト、時間、および労働力を合理的に節約できます。そして何よりも、イノベーション、ミッションの遂行、そして顧客へのサービス提供に従来よりもリソースを投入することができるようになります。詳しくは、
防衛のためのクラウドコンピューティングも御確認ください。
米国空軍がクラウドを使用し、兵士たちに多様な機能を提供するストーリーについては、以下の「
Learn More」もご参照ください。
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このブログは英文での原文ブログを参照し(著者は下記のAnn Claire Carnahan)、アマゾンウェブサービスジャパン株式会社 パブリックセクター 統括本部長補佐(公共調達渉外担当)の小木郁夫が翻訳・執筆しました。
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