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グローバルサプライチェーンにおける通関リスクの管理

前回のブログ「動的なサプライチェーンプラットフォームを構築する方法: 入門書」では、企業が AWS を利用してグローバルサプライチェーンにおける市場イベントをプロアクティブに管理する方法について説明しました。今回は、 AWS の人工知能・機械学習 (AI/ML) クラウドサービスを利用して、企業が同じグローバルサプライチェーンの中でどのように通関リスクを管理することができるかに焦点を当てます。

複雑な通関手続き

グローバルなサプライチェーンにおいて、国境を越えて商品を移動させる際に最も困難であることの1つが通関です。その理由の一つは、下図のように、商業送り状、船荷証券、航空貨物運送状、到着通知書など、国際輸送におけるさまざまな種類の書類の管理にあります。各書類の情報が矛盾していると、税関でコンテナの開梱や検査が行われ、遅延が発生し、最終的に小売店や消費者の不満につながる可能性があります。

矛盾するデータをプロアクティブに修正するAWSソリューション

AWS の AI/ML クラウドサービスを利用して、複雑な国際輸送書類から関係性、構造、テキストを抽出することで、貨物輸送業者は通関前に矛盾するデータをプロアクティブに確認、比較、修正し、不要な検査を回避することができます。また、これらのサービスを他の AWS サービスと統合することで、動的な Web アプリケーションやモバイルアプリケーションを開発する手助けになります。柔軟な従量課金制により、企業は長期契約や複雑なライセンス契約なしに、必要な時に必要な分だけ個々のサービスに対して支払いを行うことができます。

次の図は、いくつかの AWS サービスを統合して、通関書類からデータを抽出、検証、照合する自動化プロセスを作成するためのリファレンス・アーキテクチャの例です。以下では、リファレンスアーキテクチャの各ステップについて詳しく説明します。

  1. 最初の図に示すように、税関申告書と補助書類をスキャンし、 Amazon Simple Storage Service  (Amazon S3) にロードします。AWSのサービスを使用して書類をスキャンし、Amazon S3にアップロードする方法については、この記事を参照してください。また、 AWS Marketplace で利用可能な製品を見つけたり、書類をスキャンし Amazon S3 にアップロードできる市販の製品も自分で調査し見つけることもできます。
  2. 書類が S3 バケットにロードされた後、 Amazon S3 Event Notifications を使用して AWS Lambda 関数がトリガーされます。Lambda 関数は、AWS AI/ML クラウドサービスを呼び出して、書類から特定の税関データを抽出します。書類の複雑さやフォーマットに応じて、Amazon TextractAmazon Comprehend を使用して事前定義済みの ML モデルを使用するか、Amazon SageMaker を使用して独自のカスタムML モデルを構築するかを選択することができます。Amazon Textract は、非構造化テキスト、フォームやテーブルからのデータ、手書きテキストをカスタムコードなしで正確に抽出できる、事前定義された ML モデルを備えた AI/ML サービスです。この機能については、こちらの記事に詳細が記載されています。しかしながら、最初の図にあるような様々な書類からデータを抽出するためには、Amazon Textract だけでは十分ではありません。Amazon Textract は、フォームやテーブルからデータを簡単に識別し、キーと値のペアに分類することができます。しかしながら、銀行の信用状のように、名前やその他の重要な用語を含む文章がある書類については、Amazon Textract を使って書類から非構造化テキストを抽出することができます。次に、自然言語処理サービスである Amazon Comprehend を使って、キーと値のペアを抽出することができます。この投稿には、この複数ステップのプロセスに関する詳細が記載されています。一方、あなたの会社に ML モデルを構築するスキルを持つデータサイエンティストがいるならば、Amazon SageMaker を使用して、書類から重要な情報を抽出するカスタムモデルを開発することができます。Amazon SageMaker は、ラベリング、データの準備、特徴量エンジニアリング、統計的バイアス検出、auto-ML、トレーニング、チューニング、ホスティング、説明可能性、モニタリング、ワークフローなど、ML 開発のあらゆるステップに対応した専用のツールを提供します。書類からのデータ抽出は税関コンプライアンスを検証する上で重要なステップであるため、企業はデータの正確性をレビューして確認し、事前構築または必要に応じてカスタムAI および ML モデルを再トレーニングし、プロセス全体を最適化するために、ある程度の人の監視を取り入れる必要があります。Amazon Textract、Amazon Comprehend、Amazon SageMaker と容易に統合できる AI/ML サービスである Amazon Augmented AI を使用すると、人のレビューステップを自動化されたプロセスに組み込むことが可能になります。例えば、予測精度に閾値を設定し、予測精度が閾値を下回ると人によるレビューと修正をトリガーすることができます。
  3. AI /ML モデルで抽出した情報は、Amazon S3 にファイルとして保存するほか、Amazon DynamoDB にキーバリューペア、テーブル、キーエンティティを保存することも可能です。Amazon DynamoDB はフルマネージドの NoSQL データベースサービスで、任意のデータ量の保存と取得、および任意のレベルのリクエストトラフィックに対応することができます。
  4. AWS Amplify は、AWS Lambda で開発され、Amazon API Gateway または AWS AppSync を介して公開されたマイクロサービス API を呼び出す Web およびモバイルアプリケーションを作成するためのツール(オープンソースのフレームワーク、管理 UI、コンソール)およびサービス(静的 Web ホスティング)のセットです。AWS AppSync では、GraphQL というクエリ言語を使って必要なデータに的を絞ってアクセスすることで、アプリケーションのパフォーマンスを最適化し、ユーザー体験を向上させることができます。これらのマイクロサービスは、DynamoDB に保存された抽出データを照合する仕組みを提供します。例えば、発注書、商業送り状、原産地証明書、船荷証券、パッキングリストで注文数量が一致していることを Web またはモバイルアプリケーションで確認することができます。
  5. DynamoDB からクラウドネイティブデータウェアハウスである Amazon Redshift にデータをロードし、複雑なデータ分析を行うことができます。そして、スケーラブルでサーバーレス、埋め込み可能な ML 搭載の BI サービス Amazon QuickSight を利用して、インタラクティブな BI ダッシュボードの構築、作成、公開し、自然言語クエリによって回答を受け取ることが可能です。ダッシュボードをWebアプリケーションに埋め込むことで、シームレスで堅牢なユーザーエクスペリエンスを実現することができます。

AWSは通関リスク管理を支援します

このAWSソリューションを使用することで、企業は通関書類からインテリジェントかつ効率的、そしてコスト効率よくデータを抽出・照合し、それによって通関手続き時の遅延リスクを劇的に軽減することができます。このアーキテクチャを使用した概念実証または実装プロジェクトを開始するには、今すぐ AWS アカウントチームにお問い合わせください。サプライチェーンを変革するその他のクラウドベースソリューションの詳細については、AWS Retail のウェブページをご覧ください。

さらに、このブログシリーズの次回は、動的なグローバル経済の需要に応えるために、AWSがサプライチェーン全体でどのように革新的な取り組みを行っているかについての詳細をご紹介します。

著者について

Sanjeev Pulapaka

Sanjeev Pulapaka は、AWS の US Fed Civilian SA チームのシニアソリューションアーキテクトです。ミッションクリティカルなソリューションの構築と設計において、お客様と密接に連携しています。商業、連邦、州、地方自治体など様々なセクターにおいて、多様なビジネスニーズに対応する、インパクトのあるテクノロジーソリューションのリード、設計、実装において豊富な経験を有しています。インド工科大学で工学の学士号を、ノートルダム大学でMBAを取得しています。

Dnyanesh Patkar

Dnyanesh Patkar は、AWSのサプライチェーンとロジスティクス担当のシニアプラクティスマネージャーです。顧客と協力して、この分野における変革的なビジネスとオペレーティング・モデル戦略を構想し、開発し、実行しています。経験豊富なエグゼクティブであり、ビジネス変革プログラムのリーダー、P&L 責任を伴う管理職、ハイパフォーマンスチームの創設などの経歴を持つ。Schneider National、DiamondCluster、National Semiconductor などの企業で25年以上の経験を積んでいます。Dnyanesh は、Wharton School of Businessで MBA を、Cornell University で M.Engineering を取得しています。

翻訳は Solutions Architect 濱上が担当しました。原文はこちらです。