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動的なサプライチェーンプラットフォームを構築する方法: 入門書
ダイナミックかつ急速に変化する世界で消費者のニーズを満たすために、組織は先を見越しつつリアルタイムに対応できるサプライチェーンプラットフォームを確立する必要があります。モノのインターネット(IoT)、人工知能と機械学習(AI / ML)、クラウドベースのプラットフォームなどの急速な技術開発による進化を活用することで、サプライチェーン全体でデータを捉え、人の介入を最小限に抑えて自動制御でイベントに対応できるスケーラブルなグローバルプラットフォームを構築できます。
このブログシリーズの 1 本目では、AWS がこれらの技術を用いいかにして、顧客のサプライチェーンにおける課題解決を支援をしているか紹介します。まずは図 1 に示すような動的なサプライチェーンを構築するために必要とされる、基本的な構成要素に焦点を当てます。これにより、混乱や無駄を最小限に抑え、顧客の SLA コンプライアンスを保証します。今後のブログでは、より具体的なユースケースとソリューションについて詳しく解説していく予定です。
図1: 2カ国間を海上輸送する商品のサプライチェーン
動的なサプライチェーンとは、発生するイベントに対して自動制御で対応しつつ、エンドツーエンドの可視性をもたらし、コミュニケーションと情報交換を可能にするものです。AWS クラウドはこれらを実現するサービスを提供しています。バッチまたはリアルタイムでさまざまなサプライチェーンシステムやサードパーティのソースから情報を収集すること、すべてのステップでエンドツーエンドの可視化のためにデータを変換すること、必要とされる変更を分析すること、推奨事項を共有すること、システムに変更をフィードバックすることが含まれます。AWS サービスは、25 リージョンにまたがるグローバルインフラストラクチャで稼働することで、低遅延で高いスケーラビリティと可用性を提供します。この高性能のグローバルインフラストラクチャを活用することで、他との差別化につながらない重労働を排除し、ビジネスに必要なコアコンピテンシーに集中できるようになります。図 2 は、これらのサービスの一部を組み込んだ動的なサプライチェーンシステムのリファレンスアーキテクチャの例です。
図2:動的なサプライチェーンのリファレンスアーキテクチャ例
上記のソリューションでは、動的なサプライチェーンに必要な 3 つの基盤: イベント駆動型アーキテクチャ、リアルタイムデータ収集、エンドツーエンドの可視化と分析が構築されます。以下、それぞれについて詳細と対応する課題について説明します。
イベント駆動アーキテクチャ
サプライチェーンは、複数の統合システムと数千のデータポイントを備えた複雑なネットワークです。さまざまなシステムが関与することを考えると、プロセスの変更は複雑になり、サプライチェーンに沿った複数のシステム(ドレージ業者(訳注:コンテナの陸上輸送業者)、海上輸送業者、冷蔵施設、機器プロバイダー、ラストマイルの配送業者)間のやりとりが要求されます。企業が直面している課題の一つは、これらのシステムが互いに密接に結合されていることが多いことです。あるシステムでの変更が複数システムの変更を必要とし、その結果、レイテンシ低下や遅延が発生します。 AWSは、Amazon EventBridge、Amazon Simple Notification Service(Amazon SNS)、Amazon Simple Queue Service(SQS)などの多数のサービスを提供しています。これらのサービスを使うことでイベント駆動型アーキテクチャを構成し、システムを他のシステムから切り離して、効率を高め、障害リスクを減らすことができます。イベントとは、システムの状態が変化したことを示す信号です。システム内の通信にイベントを利用することをイベント駆動型アーキテクチャと言います。これにより異種システム間での密統合の必要性を低減し、グローバルに展開する複雑なサプライチェーンなど、大規模で複雑なエコシステムにおける障害リスクが軽減されます。
障害リスクをさらに減らすためには、イベント駆動型アーキテクチャにマイクロサービスを組み込んで、システムに必要なコア機能を構築します。マイクロサービスのアプローチでは、大きく複雑なコードを、独立して開発・拡張できる小さなコンポーネントに分解します。マイクロサービスを構築するには、AWS Lambda や AWS Fargate などのサーバーレスコンピューティング、あるいは Amazon Elastic Compute Cloud(Amazon EC2)、Amazon Elastic Container Service(Amazon ECS)、Amazon Elastic Kubernetes Service(Amazon EKS)などのサーバー型コンピュートサービスを利用します。
一例を示します。商品在庫レベルの変更といった変更が倉庫管理システムで発生すると、その変更がイベントを起動し、Amazon EventBridge に送信されて Amazon DynamoDB に保存されているデータが更新されます。Amazon EventBridge は、Amazon SNS を介して追加の供給品を承認するためのテキストメッセージや e メールを送信するワークフローを開始することもできます。Amazon SNS は、アプリケーション間(A2A; application-to-application)の通信、あるいはアプリケーションと人との間(A2P; application-to-person)の通信の両方に対応する、フルマネージドなメッセージングサービスです。 Amazon EventBridge は、サプライヤの調達システムの API を更新して対象商品の注文を処理するマイクロサービスにもイベントを受け渡します。 Web、モバイルアプリケーションは、Amazon API Gateway 経由で調達システムの API を呼び出し、商品を注文します。Amazon API Gateway は、開発者があらゆる規模で API を簡単に作成、公開、保守、監視、保護でするためのフルマネージドサービスです。
リアルタイムなデータ収集
サプライチェーン管理の最も重要な点の一つに、サプライチェーンのあらゆるポイントからリアルタイムでデータを収集することが挙げられます。倉庫や港、あるプロバイダーから別のプロバイダーへ、出発地点から最終目的地に至る輸送中などでデータは発生する可能性があります。商品やコンテナに取り付けられた IoT センサーは、商品についての GPS 位置情報や温度、湿度、露光量といったデータを提供します。センサーは、これらのデータをメッセージとして AWS IoT Core に送信します。AWS IoT Core は、数十億のデバイスと数兆のメッセージを処理することのできるサービスであり、それらのメッセージを AWS エンドポイントにルーティングし、保存や処理を行います。
遠隔地においては、信頼性が高く持続的なインターネット接続が課題になる可能性があります。そのような状況下では AWS IoT Greengrass を利用することで、デバイスが生成したデータをローカルで処理できるようになります。これにより、現地で発生するイベントに素早く対応し、データ転送のレイテンシーを削減します。例えば冷蔵庫の温度がある指定値以上に上昇したら冷蔵庫の温度を下げる、というようにデバイスを設定することができます。もう一つのよくある問題として、遠隔地でインターネット接続に必要とされる利用可能な携帯回線がないことが挙げられます。この場合は、AWS IoT Core for LoRaWAN を利用してください。フルマネージドサービスであり、ワイヤレスセンサーが低電力、広域なネットワーク(LoRaWAN; low-power, long-range WAN)プロトコルを介してデータ送受信することを可能にします。
サプライチェーンに影響を及ぼす可能性のある外部要因に関するデータも収集する必要があります。気象条件、COVID のような危機、ストライキや政府の不安化などの社会経済事象などによって、物流手段の欠落が引き起こされることがあります。AWS は、これらの課題に対応するためのデータ収集サービスを提供しています。AWS Data Exchange では、クラウド上でサードパーティデータを簡単に検索、購読、利用できます。例えば Weather Trends International や CE Research Hub といった認定データプロバイダーから気象データを購読することができます。他にも COVID-19 によるビジネス影響を、経済指標の予測とともに確認できるデータセットもあります。
エンドツーエンドの可視化と分析
動的なサプライチェーンは、サプライチェーンに関するタイムリーかつ正確な情報を提供する必要があるだけではありません。分析を活用して隠れた傾向を明らかにし、推奨事項を提供しなければなりません
カスタマーサービスオペレーター、アナリスト、経営幹部などのユーザーは、更新情報の表示や、トレンドといった履歴分析の確認を必要としています。そのためのダッシュボードを作成するために Amazon DynamoDB から Amazon Redshift にデータをロードし、Amazon QuickSight 上でダッシュボードを定義できます。Amazon Redshift はクラウドベースのデータウェアハウスであり、エクサバイト規模の構造化、および半構造化データを標準 SQL でクエリして組み合わせることができます。Amazon QuickSight ではインタラクティブなビジネスインテリジェンスダッシュボードと視覚化を作成、公開できます。また、Amazon DynamoDB から Amazon OpenSearch Service(Amazon Elasticsearch Service の後継サービス)にデータをロードし、ユーザーがウェブアプリケーション上で必要な情報をすばやく検索できるようにすることもできます。Amazon Elasticsearch Service は、大規模かつコスト効率よく Elasticsearch を構築し、安全に保護、実行するためのフルマネージドサービスです。
動的なサプライチェーンは、在庫予測などの重要な計画機能に機械学習(ML)の利用を促します。従来の統計モデルでも、総需要や基本的なトレンド、繰り返し型の季節パターンに基づく予測はできますが、予測に影響を与える可能性のある複雑で相互に関連するデータを処理することは困難です。例えば、2 つの商品間の依存関係を考慮しつつ在庫を正確に予測しようとすると、統計モデルでは難問です。こういったケースでは、 Amazon SageMaker や Amazon Forecast といった AWS サービスを組み込み、ML モデルに基づき在庫を予測することができます。Amazon SageMaker は、複雑なカスタム ML モデルを開発するために目的に応じた(purpose-built)ツールを提供しており、在庫予測を含むサプライチェーン予測分析のさまざまな計画ユースケースに利用できます。Amazon Forecast は予測のための専用サービスで、カスタム ML モデルを開発する必要なく、すぐに利用することができます。ユースケースの複雑さ、また ML スキルレベルに応じて、Amazon SageMaker と Amazon Forecast のいずれかを選択してください。ML は過去データからだけでなく、今起こっている事象に基づく短期的な需要変動を予測、計画する、需要変動分析(デマンドセンシング)も可能にします。需要変動分析は、気象パターン、社会経済学、地理データ、ソーシャルメディアといった外部データを利用し、需要の変動性を予測、管理します。
サプライチェーンにおける意思決定は複雑な活動です。これには、代替港や代替輸送メカニズム、輸送の可能性、所要時間、所要コストなどに関する情報と分析が要求されます。強化学習(RL)と呼ばれる ML の一種では、ML と制御理論を組み合わせることで意思決定のための処方的分析を提供します。輸送経路計画などの意思決定を最適化するために Amazon SageMaker上に構築されたサービスである Amazon SageMaker 強化学習を利用することで、意思決定にかかる時間を大幅に短縮することができます。
サプライチェーン基盤のこれから
企業が今日の複雑なグローバル経済環境の中で競争力を維持するために、起こるできごとにリアルタイムに、かつ迅速に対応できる動的なサプライチェーン基盤開発の必要性が高まっています。このブログでは、AWS クラウドサービスが、人の介入を最小限に抑えて効率を高めつつ、コストを削減できる動的なサプライチェーンを開発するための基礎ついて説明しました。次のブログでは、悪天候に対処するためのサプライチェーン管理や、商品の品質を確保するためのコールドチェーン管理など、特定の問題と解決策についてさらに詳しく説明する予定です。
今日の動的なグローバル経済における組織の需要を満たすために、サプライチェーン管理基盤がどのように進化しているかについて、このブログシリーズの次回の記事にご期待ください。また、自社のデジタルトランスフォーメーションの準備ができているのであれば、AWS がお手伝いします。今すぐアカウントチームに連絡するか、AWS リテールのサイトにアクセスしてください。
著者について
Sanjeev Pulapaka
Sanjeev Pulapaka は、AWS US Fed Civilian SA チームのシニアソリューションアーキテクトです。ミッションクリティカルソリューションの構築と設計において顧客と緊密に協力しています。コマーシャルセクター、連邦、州、地方自治体など、複数の業界における多様なビジネスニーズに対応する、影響力の大きいテクノロジーソリューションのリード、アーキテクチャ設計、実装における豊富な経験を持っています。インド工科大学で工学の学士号を取得、ノートルダム大学でMBAを取得しています。
Dnyanesh Patkar
Dnyanesh Patkar は、AWSのサプライチェーンおよびロジスティクスのシニアプラクティスマネージャーです。顧客と協力して、この分野での変革的なビジネスおよびオペレーションモデル戦略を構想、開発、遂行しています。ベテランのエグゼクティブであり、これまでにビジネス変革プログラムの主導、P&L 責任を持つ管理職ロール、ハイパフォーマンスチームの立ち上げなどをしてきました。Schneider National、DiamondCluster、National Semiconductor などの企業で 25 年以上の経歴を持ちます。ウォートンビジネススクールで MBA を取得、コーネル大学で M. Engineering を取得しています。
翻訳は Solutions Architect 杉中が担当しました。原文はこちらです。